大正琴とメロンパン
ふと現れた弥助はソファにいる少女を見て、すぐにこちらに視線を戻す。
「何しようとしてたんだ?」
ありきたりな人間のごくありきたりな質問に対し真人は答えた。
「何かしようとはしてないよ、明里が釣りしてたらこの子が釣れたんだってさ」
「そんなことあるのかよ?信じられねぇな」
「オマエが言えたことじゃないだろ」
弥助は「それもそうか」と言って笑った。
そもそも弥助はすでに人間ではない。筋肉バカの幽霊なのである。
真人がこれまた名探偵であったらしい祖父から受け継いだ大正琴。一見すれば年季の入った美しい大正琴なのだが、弥助はそれに憑依していたのである。
だから真人は並大抵の人間なら信じられないようなことも受け入れることができるのだ。
「それにしても、この子はかわええな。……触ったら起きるか?」
弥助がその少女の頬を触ろうとした瞬間に少女が目を覚ます。
起きた瞬間に上半身裸の筋肉と目を合わせたら誰だって驚くだろう、幽霊であるとか関係なく。
探偵事務所内に少女の絶叫が響き渡った。
「ごめんよ、ごめんよって」
金剛力士像のような筋肉の付いた幽霊が必死に少女をなだめようとするさまはまさに
それにしても弥助が見えるのか、と少し不思議に思ったが弥助いわく「純粋な子供には俺の姿は見えるぞ」とのこと。
ちなみに真人たちが見える原因は弥助の憑依している大正琴に触ったかららしい。
「なんかこの子をなだめられるようなものは無いのか……?」
とりあえず弥助が離れることが一番解決に近い気がするが泣き止むかどうかは不明。
「さっきから騒がしいようですけど、何か?」
さっきの絶叫すら「騒がしい」に収められる明里は割とどうかしていると思うが、今はそんな冗談を飛ばしている暇はない。
「弥助が少女をビビらせたんだ、何か機嫌を取り戻せるものはないか?」
「え、無くはないですけど……」
なんだか躊躇しているようだったのでそれが何か聞いてみると明里がおやつに取っておいた名店のメロンパンとのこと。
「……、今度俺が一緒に並んでやるからその子に分けてやってくれ」
真人がそう言った瞬間明里は「分かった!」となぜか笑顔で言い、メロンパンを取りに行く。
そんな即決できるくらいならなぜ最初に躊躇したのか真人には分からないが。
明里がメロンパンを少女に見せると、少女は少し興味を引かれたようで泣き止んだ。
弥助は出る幕がなくなってしまい、真人の方に歩いてくる。
「それにしてもあの子、これからどうするんだ?親元に帰した方が賢明だと思うが」
「はぁ、仮にもあの子は捨て子なんだ。親元に帰すことの方が残酷だろう」
小さい、弥助にだけ聞こえるようなトーンで言う。
今真人に分かるのは親には何か事情があってあの子は捨てられたのだろう、とだけ。根本的な解決をしない限り親には会うことすら困難だろう。
「そういえば、あのコインを鑑定してみたのですが当てはまるところは……」
「無かったんだろう?あれはプロジェクターだろうから」
「あったんですよ、一つだけ」
コインとして当てはまるところがある?
明里は真人にパソコンの画面を見せる。画面には「日本初!本格
「IR施設のコイン?でもなぜ関係が?」
「表向きはIR施設なんです。でも、裏では様々な闇商売が行われているという噂も聞きます」
それは麻薬の密売から始まり銃の取引、金の超高利貸し、さらには人身売買まであるとのこと。その中でも特に活発なのは
「非合法実験の研究、情報交換だそうです」
インターネットの情報なので嘘も混じっているというが、表には出回っていない機密性と安全性の高い情報らしい。
「ということは、あの子の母親はそこにいるかもしれないって事か?」
「はい、おそらくは……」
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