第230話 『その日、乙女を取り出した』

『精霊王スピカ様。感謝致します』


 今までのように、ふんわりとした思念が飛んでくるのではなく、はっきりとした言葉が頭に届いてくる。まだ言葉が喋れるわけじゃないけど、これだけでも十分意思の疎通はしやすくなったと思う。

 あと、受け答えが大人びているのは、本人の性格か、それとも契約者に引っ張られたのか。


 スピカとはえらい違いだ。

 まあでも、ソラスちゃんもカワイイけど、やっぱりうちの子の方がカワイイわね!


「それじゃ、管理権限を渡したげて」

「はーい」


 スピカがソラスちゃんの頭をツンっとする。それだけで権限が渡ったようだ。

 うーん、精霊王ってすごいのね。指先1つで何でも出来ちゃうんだなぁ。


「それじゃシルヴァちゃん、ソラスちゃん。ここの森を管理する上で2つ、注意することがあるわ」

「うむ、聞こうぞ」

『なんなりと』

「まず1つ、あそこにいるミーシャの近くに、氷柱が出来てるでしょ? あそこに危険な物があったから封じておいたわ。氷で触れないようにしておいたけど、もし氷柱が壊れる事があったら教えてね」

「わかったのじゃ」

『シラユキ様の言う通りに』


 精霊王のスピカの主人だからか、私に対しても2人は敬意を示してくれているわね。

 うん、もうここまで来たら、やっぱり『白の乙女』を着てあげよう。


「次に奥にある精霊王の像なんだけど、湧き水がパワーアップしたわ。詳細を言うと――」


 2人は驚いていたけど、結局この森は今まで通りシルヴァちゃんの許可なしには入れないから、彼女達と精霊達が内緒にしてしまえば秘密が漏れる心配は無さそう。だから、自由気ままな精霊ちゃん達のお口にチャックをしてしまえば、問題は無さそうね。


『シラユキ様、この子達は私にお任せください』

「よろしくね、ソラスちゃん。それじゃ、せっかくだからシルヴァちゃんに私のとっておきを見せてあげるわ」

「盟友殿のとっておき? 何が来るのか楽しみじゃな」

「アリシア、乙女を出して」

「!! は、はい!」


 アリシア自身、私がそれを出すとは微塵も思っていなかったんだろう。最初は驚きだったが、次第に表情が驚きから歓喜のものへと変わっていく。


「ああ、久しぶりにお嬢様の、あの姿が拝めるのですね……!」

「うん、今度は余計な効果は付けないわ」


 まずは『精霊王の浄水』。それから世界樹由来の素材で、精霊ちゃん達が毎日のようにくれる『世界樹の涙』、『世界樹の息吹』。最後に『女神の聖水』と光の大魔石。

 本来の素材からグレードアップしたものが2つあるけど……。うん、大丈夫だと思いたい。


 マジックバッグからテーブルを取り出し、『白の乙女』と各種素材を順番に並べる。シルヴァちゃんやソラスちゃん。それから精霊達からも、『白の乙女』を見た瞬間驚きが伝わってきたが、彼女達は空気を読んで黙ってくれていた。


 まずは魔石に魔力を込める。すると、各素材が輝き『打ち直し』のシステムが起動した。順番に『白の乙女』に素材が溶け込んでいき、一際強く輝く。視界が明けた先には、私の知る装備とは異なる物が出来上がっていた。


**********

名前:女神の法衣

装備可能者:シラユキ

必要ステータス:なし

防具ランク:25

説明:精霊王を従えた女神にのみ装着することを許された伝説の装束。全属性耐性。全属性魔法の効果上昇。一部のダメージを反射する。

効果:全ステータス+20%。全ダメージ50%無効。攻撃魔法の威力+80%。常に清浄化。祈りを具現化する。

**********


 ……うん、魅了は消えてくれた。

 けど、うーん。どこから突っ込めばいいのかな。

 最後の不穏な言葉も気になるけど、完全に私専用の装備って書いてるじゃん……。


 まあいいや、見た目はほとんど『白の乙女』のままだし。そこが変わってないだけ良しとしよう。


 早速着用ね。


「アリシア、着替えさせて」

「はい、喜んで!!」


 幸せな表情を浮かべるアリシアに着せ替えて貰う。……さて。


「『ステータスチェック』」


*********

総戦闘力:66665(+15600 +8356 +6520 +10025)


STR:5959(+747 +583 +896)

DEX:5959(+747 +583 +896)

VIT:7874(+1200 +987 +770 +1184)

AGI:5959(+747 +583 +896)

INT:5959(+747 +583 +896)

MND:17466(+7200 +2189 +1708 +2627)

CHR:17489(+7200 +2192 +1710 +2630)


称号:求道者++、精霊王の主人、悪食を屠りし者、壊神を従えし者

装備:『夜桜』、『女神の法衣』


*********


「うーん。すごくつよい」


 もう、そんな言葉でしか言い表せないくらい強くなってしまった。いや、まあ半分以上MNDとCHRに持って行かれてるけど。

 ちらりと横を見れば、アリシアは跪いて、久々のお祈りポーズだし。シルヴァちゃんは、何か感動したのか泣いてるし。うーん、失敗したかな? これだと、『精霊王スピカ』という特大ニュースが薄れて、『女神シラユキちゃん爆誕!』の話が広がりそうで困る。

 そういえば今の私、デフォルトで後光ついてるのよね? そりゃ拝みたくもなるかな? でもなぁ……。


「シルヴァちゃん」

「は、はいなのじゃっ」

「国に御触れを出して」

「なんなりと!」

「スピカは良いけど、シラユキちゃんを拝むのは禁止」

「「ええっ!?」」


 アリシアはいつもの事だけど、女王様ですらこうなるのなら、一般市民なんて目も当てられないわ。

 けど、シルヴァちゃんもアリシアも、それだけはやめてほしいと縋って来たので、仕方なくシラユキちゃんが近くにいない時だけ拝みを許可した。


『国を救って、精霊王を従えて、トドメに乙女を出したらそうなるでしょ。マスターもバカなんだから。ふふ』

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