第228話 『その日、急成長していた』

 『精霊王スピカの抜け殻』を貴重品用のマジックバッグへと収納し、『精霊の清水』を汲ませてもらう。

 あ、そうだ。


「スピカー、ここの清水だけど、あなたの力でもっとパワーアップさせる事は出来る?」

「うん、いいよー!」


 スピカは指先を突き立てると、一瞬の内に清水に含まれた魔力量が跳ね上がった。視覚的にはなんにも変化はないけれど、『魔力視』で見ればその濃度の違いは明らかだった。


 改めて、清水を汲んでみる。


********

名前:精霊王の浄水

説明:精霊王の力が込められた至上の液体。底知れぬエネルギーに満ち溢れており、植物が浴びればたちまち急成長し、実を成すほど。人が飲めば一時的に魔力の総量が上昇する秘薬となるが、飲み過ぎると重度の『魔力酔い』になる。

効果:24時間の間、魔力の総量が1.5倍。自然回復量2倍。

********


「わぁお」

「効果えっぐ……」

「エルフの国が戦争吹っかけられる理由作っちゃったかも」

「お口にチャックね」

「シルヴァちゃんにはあとで謝っとこ」


 この浄水の何が危険かって、効果もそうだが、この水は『スピカの力が尽きるまで無限に湧き出る』というものだ。力を失っても、またスピカが触れてしまえば良い。

 うーん、こりゃまたとんでもないなぁ。事情を理解できてないアリシアに説明してあげる。


「スピカ様、すごいですね」

「えっへん!」


 どうしようか考えてたけど、胸を張るスピカを見てたらどうでも良くなって来た。


「まあいっか!」

「アンタって奴は……」

「それじゃスピカ、次にこの空間だけど、精霊達が自由に入れる様にしてくれる?」

「わかった! んー……出来たよ!」


 スピカが指を振るうと、今いる場所を中心として彼女の力が響き渡った。

 そして、結界が音を立てて割れた。


『ガシャーン!』


 そしてしばらくすると、『精霊の森』に蔓延っていた寂寥感は消えてなくなり、『精霊の森』入り口から、賑やかな感情が流れ始めた。

 どうやら、あの子達が来てくれたみたいね。


「ふふ、ちゃんと遊びに来てくれたみたいね。けど、変ね。入り口から動いてる気配がしないわ」

「そりゃそうでしょ。ここの新たな主人に挨拶もなしに、自由に飛び回れるほど、精霊は無節操じゃないわ」

「あ、そうなの!? じゃあ、あんまり待たせるのは悪いから、早くあの子達のところに行こう」


 そう言って前のめりになる私の腕を、ミーシャが掴む。


「ん?」

「それは、遠回りして? それとも、直進して?」

「あ……」


 忘れていたことを思い出し、二の足を踏んでいると、ミーシャが手を握ってくれた。

 そして事情を説明していないけれど、なんとなく私の不安を察してくれたのか、アリシアも反対側の手を握ってくれる。

 そしてスピカは、いつもの様に頭に乗っかってきた。……今のスピカは、人間とほとんど同じ見た目だ。不思議と重さは感じないけど、重量があるわね。


「ん。まっすぐ行く」

「わかったわ」

「どこまでもお傍に」

「いこー!」


 スピカが楽し気に音頭を取るが、手乗りサイズの時と同じ調子じゃ困るわね。


「あー、スピカ。サイズ、変えられる?」

「できるよー」

「なら、その頭に乗るのは、小型の時だけにしなさい。そのサイズで乗られると変な感じがするから」

「はあい」


 そうしてスピカはしゅるしゅると体積を小さくし、いつもの手乗りサイズへと変身した。けど、戻ったのは姿形だけで、内包された力は数十倍、下手するとそれ以上に膨れ上がっていた。

 小さくなると余計に、どれだけパワーアップしたかわかりやすいわねー。


 うーん、精霊王かぁ。まだレベルは半端なところだけど、今のこの状態でも神獣の本体に匹敵しそうな力を感じるわね。レベルがカンストしたらどうなるかしら。


 そもそも、今の時点でシラユキちゃんよりも強いのでは?


「ねえスピカ」

「なにー?」

「貴女の力、私より強くなってない?」


 その言葉に、ミーシャがぎょっとする。

 でも、アリシアとスピカはきょとんとしていた。


「ん-? 違うよー。スピカの力も、シラユキにあげてるから、シラユキの方が強いよー」

「そうなの?」

「シラユキ、気付いてないの? スピカが精霊王になった瞬間、あんたから感じる強さも跳ね上がってるわよ」

「えぇ? そ、そうなの?」

「はい。お嬢様から放たれる輝きが、さらに増しております」

「えぇー!?」


 言われてみれば、シラユキちゃんの光、強くなってる気がする……!

 気付いてないのは、私だけだったって事?


 とりあえず違いを確認するためにも、以前アリシアに見せた、レベル20になった時の紙を取り出した。


*********

総戦闘力:32448(7000 +3504)


STR:3537(+407)

DEX:3537(+407)

VIT:4667(+1000 +537)

AGI:3537(+407)

INT:3537(+407)

MND:5914(+3000 +669)

CHR:5919(+3000 +670)


称号:求道者+、悪食を屠りし者

装備:『夜桜』


*********


「これは戦争に行く直前のデータね」

「うん、見せて貰ったやつね」

「それじゃ、『ステータスチェック』」


*********

総戦闘力:56640(+15600 +8356 +6520)


STR:5063(+747 +583)

DEX:5063(+747 +583)

VIT:6690(+1200 +987 +770)

AGI:5063(+747 +583)

INT:5063(+747 +583)

MND:14839(+7200 +2189 +1708)

CHR:14859(+7200 +2192 +1710)


称号:求道者++、精霊王の主人、悪食を屠りし者、壊神を従えし者

装備:『夜桜』


*********


「ほ、ほわ??」


 あまりの変化に、慌てて称号を全てタップした。


**********

称号:求道者++

真理を求めて日々精進を励むものに贈られる証。

人々からの祈りと希望と畏れを受け、女神の資格を得た。

該当のステータスに現在Lv×300の補正値。

神聖魔法に類する親和性上昇。

**********


**********

称号:精霊王の主人

精霊王から絶対的な信頼を得たものに贈られる証。

全ステータス20%上昇。

精霊魔法に類する親和性上昇。

**********


**********

称号:悪食を屠りし者

悪食の怪物、ピシャーチャを撃滅せしめし勇者に贈られる証。

該当のステータスに現在Lv×50の補正値。

**********


**********

称号:壊神を従えし者

壊神イフリートと契約を果たしたものに贈られる証。

炎魔法の威力10%上昇。

**********


「……」


 あまりの効果とその力に、言葉を失った。


「どうだった?」

「……シラユキちゃん、ラスボス説」


 今現在のステータスを紙に記す。


「……なにこの化け物」

「ミーシャ様!?」


 ミーシャが呟いた言葉に、アリシアは睨むように怒ってくれる。


「あ、いいのいいの。私も実感してるところだから」

「お嬢様……」


 アリシアが悲しげな顔で、手をぎゅっと握ってくれる。うん、それだけで私は幸せになれる。

 女神だとか神格だとか、小難しい事はさておいて。

 私が強くなるって事は、それだけ小雪を作る為の条件が整っていくという事だ。まあ、小雪の言う通り、このステータスで更にレベルアップしようものなら、その都度ぶっ倒れちゃうかもしれないけど……。

 うん、着実に歩みを進めていこう。


『ま、大丈夫でしょ。ほとんどMNDとCHRだもん』

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