第227話 『その日、精霊の森へ立ち入った』

「盟友様、行ってらっしゃいませ」

「ありがとー」


 私達は今、『精霊の森』入り口前にいる。

 『精霊の森』は、ダンジョンの様に別世界への入り口の様になっている。その為ここ以外から近付いても、中に入る事は叶わずいつの間にか別の場所へとワープしている不思議仕様だ。

 正面以外から入る事はできない為、監視も正面だけで済むのはお得よね。


「アリシア、緊張してる?」

「はい。ですが、お嬢様が一緒ですから」

「んふ」

「ねえ、私も一緒でいい訳? 2人の邪魔はしたくないんだけど」

「いいのいいの。ちょっと確認したいこともあるからさ」

「ふうん?」


 2人の手を引いて『精霊の森』へと侵入する。

 ダンジョンと同じ様に、門を潜ると周囲の空気が変わったことを知覚する。それと同時に、清涼な風と朗らかな陽気が、私の肌を優しく撫でた。

 視界に広がるのは華やかに咲く色とりどりの花達。懐かしくも夢見た、あの時と同じ……。いや、似た景色だ。


 そう。『精霊の森』と名を冠しているにもかかわらず、ここには誰もいないのだ。

 この森からは、精霊の気配がまるでなかった。


「ここが……『精霊の森』」

「静かなものね」

「……やっぱり。素敵な場所なのに、寂しい空間だわ」


 寂しさを感じているのは、精霊が居ないからだけじゃない。

 私がに過ごした場所が、遠くに見えているからだ。


「お嬢様?」

「ん」


 寂寥感をごまかすために、アリシアの手を握る。


「スピカ、出て来なさい」

『~~!』

「良かった。精霊が入れない訳ではないのですね」

「ええ。ただ、契約精霊しか入れないのは、この森に問題があるからなの」


 本来、この森を管理しているはずの上位精霊が、エルフの国で空位となっているからだ。

 その席は、シルヴァちゃんが契約している精霊をランクアップさせれば、管理を任せられそうだけど……。その前に、うちの子を上位精霊にしてあげたい。

 それは親心から来るものもあるけれど、本命はこの地に溜まった、数百年分のエネルギーだ。溜まりに溜まったそれを使えば、この子はより強力な上位精霊へと進化してくれることだろう。


 必要なアイテムは準備している。あとは、進化の為の祭壇が、この森の奥にある。

 私のを迎えた、あの場所の奥に……。


「シラユキ、大丈夫?」

「ん、ありがと」

「辛いなら、迂回していきましょ」


 もう片方の手をミーシャが握ってくれる。


「……そうしよっかな」


 ミーシャが先導するように、遠回りの道を進んでくれる。


 まだ、あの場所を直視するのは、辛いかもしれないわ。

 うん、気を取り直して行こう。

 祭壇へ。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 遠回りと言っても、『精霊の森』はそこまで広い空間ではない。

 10分程度で、その目的地に到着した。


 精霊王を模した石像と、その両手から溢れる水源が、小さなため池を形成している。

 この水源は、この地でしか採れない貴重なもの。あとでいくつか瓶に分けて、汲ませてもらおうかな。


『~~??』

「そうよ、この石像は精霊王。精霊の頂点に位置するお方よ」

『~~~』

「そうね。今は存在しないと云われてるわ」

『~~?』

「ふふ、私が王様? そんな訳ないでしょー」

『~~』


 スピカの頭を撫でつつ、必要な素材を取り出す。


 『世界樹の葉』『世界樹の実』『女神の聖水』。そして、目の前に広がる『精霊の清水』。

 最後に、私の魔力を籠めた純粋な魔力の塊。……これで、準備は整った。


 ミーシャとアリシアは、空気を読んで下がってくれる。


「スピカ、これからあなたを進化させるわ。準備は良い?」

『~~~!!』


 ―平気だよ!―


「それじゃ、始めるわ」


 純粋な魔力の塊に、順番に素材を放り込んでいく。

 すると、素材に秘められた力が魔力の中へと溶けだし、合わさり交わっていく。


 その力に呼応するかのように、像が輝きを放った。


『~~!!』


 スピカが意を決して、魔力の塊へと飛び込む。

 その瞬間、世界は光に包まれた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 どれくらいそうしていただろうか。

 一瞬か、それとも数分か。眩い光と共に溢れ出る魔力に全身が飲み込まれ、揉みくちゃにされた様な感覚を覚えた。

 光りが収まり、目を開ける。すると、そこには成長したスピカが佇んでいた。手乗りサイズだったはずの彼女は、今やシラユキちゃんと同じくらいの……。ううん、よく見たら浮いてるから、身長としてはリリちゃん達と同じくらいかも。


「シラユキ?」

「スピカ?」

「わーい、シラユキ! お話しできるー!」


 スピカはハートを振り撒きながら抱きついてくるので、大きくなった彼女の頭を撫でてあげる。あ、赤ちゃんみたいにすべすべで柔らかい。ふふ、産まれたてだからかしら。


「言葉、喋れるのね?」

「うん! いっぱいお話しよ!」


 ああ、聞き間違いではない。念話ではなく、しっかりと彼女の口が、言葉を話していた。

 あれれ、でも、上位精霊でもこんな流暢に言葉は話せなかった様な……?


 彼女をしっかりと観察してみる。


**********

名前:スピカ

種族:精霊王

レベル:60

説明:女神に仕える精霊種の王。女神の寵愛を受けた身で、『精霊の森』に眠っていた力を全て吸収したことで神格を得た。精霊が扱う全ての権能を使役可能

**********


「ほわぁ?」


 な、なぁにこれぇ?


「ミーシャ、みてみて。スピカが上位精霊も大精霊もすっ飛ばして、精霊王になっちゃった!」

「う、うん……」

「スピカ様が言葉を……」


 ミーシャは最近よく見る呆れ顔だし、アリシアは今にも跪きそうな恍惚とした表情をしている。

 シラユキちゃん、またなんかやっちゃったかも?


 うーん、でもまあいっか! 強くなるに越した事はないもの!

 それに……。


 元気にはしゃぐスピカの背後で、ふわふわと浮かび上がる、半透明のを見る。


********

名前:精霊王の抜け殻

説明:精霊王スピカが脱いだ抜け殻。神の力を宿すそれは、扱いを誤れば国すら吹き飛ばすほどの力を蓄えている。世界に一つしかない秘宝。

********


 小雪を作成するためのキーアイテム、2つ目ゲット!


『おめでとう、マスター』

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