第226話 『その日、いっぱい食べた』

 ミルちゃんを抱き枕にして数日。私達はエルフの国へと戻って来ていた。実際はシラユキちゃんが寝たまま起きないので、アリシアに抱えてもらいながら、カピバラに乗って帰って来たんだけど。


 まさか目覚めたら、エルフ達のお城の中で、またまた数日経過しているとは思わなかったわ。


「眠り姫シラユキちゃんね!」

「起きて早々そんな冗談が言えるなら、平気そうね」


 様子を見に来ていたミーシャとお話しながら、数日ぶりのご飯をバクバクと食べる。

 なんだか、前回もそうだったけど、お腹が空いて仕方がない。


 もぐもぐ。


「誰もキスして起こしてくれなかったのは残念だわ」

「最初の方、またうなされてたのよ? そんな気には誰もなれなかったんでしょ」

「え、そうなの?」

「でも、また『封魔の指輪』を外したら落ち着いたわ。やっぱり次からは、寝るときは外しておきなさいな。ま、アンタの近くには絶対誰かいるだろうから、気付いた人が勝手に外してくれるだろうけど」

「ほぇー」


 やっぱり力を抑える機能が余計な負担を感じちゃってるのか……。

 なら、方向性を変えて光らない様にするだけの効果に変えていこうかな。そしたら大丈夫でしょ。『神聖魔法』の輝きだけを抑える方法、と言うのは、ちょっと考えたことないから難しそうだけど。

 やってやれない事はないはず!


 もぐもぐもぐ。


 ちなみに、私が抱き枕にしちゃったお姫様ことミルちゃんは、私のお気に入り認定されたとかで、エルフの王国へとついて来ちゃったらしい。扱いは客人として。

 なんでも、他国には素材を要求したけど、ミルちゃんの国にはミルちゃん自身を要求した形になってるみたい。うんまぁ、抱き枕としては申し分ない抱き心地だったわ。良い感じに引き締まった肉体なのに、出るところは出ていて素晴らしい肉感だったわ。


「まるで生贄みたいでやーねー」

「アンタが食べちゃうからでしょ」

「えー。食べてないよー?」

「キ、キスとかしたじゃない」

「ほっぺにチューくらい、挨拶でしょ」

「アンタは……、いや。アンタの周りではそうかもしれないけど、神聖視している特別な存在からキスされたら、挨拶とは思わないでしょ。これからは気をつけなさい」

「えぇー?」


 なんて面倒な。良いじゃない、挨拶くらい。


 もぐもぐもぐもぐ。


「じゃあ、ミーシャは身内だから、チューしていいの?」

「……あんた、私の事好きなの?」

「好きー!」

「……そ、そう」


 もぐもぐもぐもぐもぐ。


「って、どんだけ食べるのあんた」


 けぷ。


 そう言われると、お腹が膨らんだ気がして来たわ。


「むぅ……。ごちそうさま!」

「はい、お粗末様でした」


 アリシアが作ってくれた具沢山スープ、鍋ごと平らげた気がする。


「アリシア、美味しかったよー」

「良かったです。お嬢様、口元が」

「んにゅんにゅ」


 アリシアに甲斐甲斐しくお世話されて、シラユキちゃんご満悦。

 さて、お腹いっぱいになったし眠気も取れた。そろそろ行動開始しようかな。


「ツヴァイー」

「はっ」


 現れたツヴァイを手招きし、抱きしめて匂いを嗅ぐ。


「あっ、シラユキ様……」

「んふっ。ねえツヴァイ、シルヴァちゃんとお話ししたいから、呼んできてもらえるー?」

「承知しました。しばしお待ちを!」


 そう言って元気に返事をした彼女は、今度はしっかりと扉から出て、外で待機していた騎士さんと一緒に駆けて行った。


「ツヴァイさんも何の疑問も抱かず行っちゃったけど、しれっと女王様呼び出すなんて、普通じゃないわよ」

「あー、そうかもねー」

「お嬢様ですから」

「……それで、何の話をするの?」

「うん、そろそろ『精霊の森』へ行こうかなって」



◇◇◇◇◇◇◇◇



「おお、盟友殿。もう大丈夫なのかえ? 先日のようにまた眠ってしまったりはしないだろうか」

「ん-、わかんないけど、たぶん大丈夫だよ。成長した力に、身体が馴染むのに時間がかかってるみたい」

「そうか……。この国は、盟友殿のおかげで活気に満ちておる。そなたの気が済むまで、ゆっくりしていってくれ。そして帝国の件のみならず、妾からの頼みを叶えてくれて、国民の誰もが感謝しておる。本当にありがとう」


 シルヴァちゃんが言っているのは、精霊ちゃん達の事だ。

 実は、この地にいる精霊達は、帝国に向かう前に、そのほとんどを中位精霊へとランクアップをさせていた。何匹か下位精霊のままだったので心残りではあったんだけど、その子達は眠ってる間にミーシャが済ませてくれたみたい。


 それで、今やこの国にいる全ての精霊が中位精霊となっていた。その数なんと83体。私が来るまでは13体しかいなかったのを考えると、この国の加護は何倍にも膨れ上がった事だろう。


 国を囲む森には薬草を始めとした資源が溢れるように出現し、作物の実りは質も量も向上。更には世界樹ユグドラシルにも、いくつか実がなったという。実は起きた瞬間、精霊ちゃん達から分けて貰っていた。

 たった数日でこれなのだ。これ以降、この国は末永く繁栄していく事だろう。


「どういたしまして!」

「ふふ、このような奇跡の所業を、事も無げにやってのける。本当に盟友殿は桁違いじゃの」

「それよりもシルヴァちゃん」

「なんじゃ?」


 彼女を手招きして、抱き寄せて膝に乗せる。

 うーん、ミニマムなロリ女王様、カワイイなぁ。すんすんすりすり。


「全く、盟友殿は仕方がないのぅ」


 シルヴァちゃんはされるがままと言った様子で、アリシアはニコニコ笑顔。ミーシャは呆れ顔だ。


「でね、シルヴァちゃん。そろそろ『精霊の森』に行きたいんだけど、いいかな?」

「うむ、わかった。『護り人』達にはすでに伝えてある。其方が連れて行きたいと思う者を、いつでも好きに連れて行くといい」

「えへ。シルヴァちゃんありがとー」


 お礼にキスを……あ。改めて見ると、シルヴァちゃんの耳、小ぶりでカワイイ……。んちゅっ。


「ひょあっ!? こ、これ、耳はやめんか!」

「えへへー」

「お、お前たちも見てないで助けっ! んひゃっ」


 アリシアはその様子を楽しそうに見守り、巻き込まれたくないミーシャは明後日の方を向いていた。

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