第225話 『その日、返還した』

「それで、何のお話をしていたの?」

「うむ、盟友殿の活躍により、帝国を支配していた魔人の連中が全て撤退。魔物も殲滅し、内部に巣くっていた諸悪の根源も居なくなった。それにより、帝国は事実上の崩壊となったのだ」


 あらら。


「お偉いさんとか、だーれも残ってなかったの?」

「うむ。まともに国を動かせるものは誰一人としてな。その為、帝国の領土を此度の戦いに参加した国々で分け合う事にしたのじゃ」


 じゃあ、帝国は完全に地図から消える事になったのね。

 それなら、かなり大きな穴が開いたことになるわよね。侵略に次ぐ侵略で、色んな国の領土をかっさらって出来たような国だもの。


「そっかー。じゃあ、シラユキちゃん出番なくない? 何で呼ばれたの?」

「うむ……。此度の戦い、活躍度合いで言えば盟友殿が95、盟友殿の友人が4。それ以外は1以下といった所なのじゃ。ほぼ何もしていない我らでが勝手に分け合うわけにも行くまい?」

「興味ないからパス」

「私もパス」


 私もミーシャも庶民なのだ。そんな国の領土をどうこうする気はまるでない。

 っていうか、寝起きだから正直言って身体がダルイ。本調子には程遠いわ……。だからいつものように、カワイく魅せる気力すら湧いてこない……。うーん、重症。

 そもそも魅せる必要がないくらいシラユキちゃんカワイイけど!


 机に突っ伏して、ぐでーっと『垂れシラユキちゃん』と化していると、シルヴァちゃんが溜息を吐いた。


「はぁ、盟友殿。そこを何とか頼む」

「なら、とりあえずは帝国に奪われた領土を、それぞれの国に返還して行って、それで残った領土を考えればいいんじゃない」

「うむ……。ではそうした場合、帝国の首都しか残らんのじゃ」

「ん-。なら、そこに各国の大使館と、流通拠点としての街を築き上げれば良いんじゃないかしら。折角、帝国のお城や城下町は残ってるんだし、再利用しちゃいましょ」

「ほぉ、流通拠点か。悪くないの……。其方らはどうじゃ? ……ふむ、満場一致のようじゃ」


 思い付きで喋ったけど、あっさりと通ってしまった。

 良いのかな、こんなに適当で。


「各国の代表たちよ。今回の事は国に持ち帰り、しっかりと此度の戦いで起きた事を伝えよ。欲を見ればどうなるか、其方たちも目にしたであろうからな」


 皆が一様に頷くのを見て、シルヴァちゃんは満足そうに微笑んだ。


「では最後に、盟友殿。此度の戦い、各国がそれぞれ礼をしたいと申しておる。何か欲しいものがあれば申してみよ。皆、其方と敵対するつもりは無いそうだ」

「んぅー?」


 んー? なになに、お礼?


「あんた、本気で眠そうね」

「本調子じゃないから、怠いのー……」

「軽度の『衰弱』ってとこか。それは分かったから、早く答えてあげなさい。皆待ってるわよ」

「むにゅ……。じゃあ、宝物庫に仕舞うぐらい貴重だけど、誰も扱える人がいなくて困ってる。けど高価すぎて扱いにも困ってる。そんな感じの素材や武器防具アイテムなんかがあれば、下さい。あ、でもマジックバッグは要らないです」


 自作出来るし。

 そう言えばミーシャには予備のマジックバッグの小サイズをあげたけど、帰ったら大サイズ作ってあげなきゃね。


「との様だが、可能であるか? もし該当する物がないのであれば、珍しい素材でも構わん。妾達の国に送ってくれれば直接手渡そう」


 特に、異存はないそうだ。

 それにしても、誰も、一言も喋らないわね??


「では解散じゃ」


 シルヴァちゃんの号令と共に順番に退出しようとして行くので、慌てて姫騎士ちゃんを捕まえた。


「あー、姫騎士ちゃん。貴女はこっちにおいで」

「ひゃいっ!? ……は、はいっ」


 呼ばれるとは思っていなかったのか、悲鳴に近い声を上げた。


「お名前、教えてー?」

「……はっ。エレガンテ王国第一王女、シュミール・ド・エレガンテと申します。女神様にご挨拶できる事、誠に光栄であります。この度の戦場でのご活躍、まさしく次代に伝えるべき聖戦でございました。女神様が紡いだ神話、必ずや自国の民に喧伝致します」


 何だか敬われてるな~? むにゃむにゃ。


 彼女は王女様でありながら、騎士団長でもある。そんな彼女が、私に向かって最上の敬礼と共に跪いた。

 なんなら、お祈りしそうな勢いだわ。


「ん-、じゃあ、ミルちゃんね」

「はっ。愛称を頂き、光栄であります!」

「ミルちゃん、今は鎧姿だけどドレスは持って来てるの?」

「はい。式典用に持ち歩いております」

「じゃあ着替えて来てくれる? 見てみたいから」

「はっ、少々お待ちください。10分で支度して参りますっ!」


 そう言ってミルちゃんは天幕の外へと速足で出て行った。


「ちょっとシラユキ、どうするつもり?」

「どうって?」

「もしかして、食べる気じゃないでしょうね」

「ん-? カワイかったら、ミカちゃんみたいに育てるのもありかなーと」

「ふぅん? まああの国は、私も知らないし……。強いに越したことはないかもね」

「そうなんだ?」


 ミーシャが知らないってことは、本来はなくなる国なのか。

 なら、今後の安全のためにも、鍛えるのも悪くないわね。


「うとうと……」

「眠いなら、続きは明日にしたら?」

「んー……。拝んでから、寝る……」

「仕方ないわねぇ」


 そうして目を擦りながら待ってると、お姫様の格好に着飾ったミルちゃんがやって来たので、匂いを嗅いだりキスしたりして、最後には抱き枕にして眠ったのだった。


『体が馴染むまで、もう少し掛かりそうね』

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