閑話6-2 『お茶会のお誘い』
「今日は『近接戦闘部』に行きます!」
昼食後。
選択授業をどうするか考えた結果、ここに来て初めて『調合』以外の選択肢を取ることにした。
理由はまあ簡単で、もうあの授業で教える事がそんなにないからだ。
基礎となる体力回復ポーションに、魔力回復ポーション。継戦能力を高めるスタミナポーションに、あとは解毒のポーションと複合回復ポーション。麻痺解除とか他の状態異常に対するレシピが残ってはいるんだけど、そもそもそれを必要とする魔物がここら一帯には居ないのよね。一応中級や上級ダンジョンに、居るには居るけど、気にし出したらキリがないわ。
「そろそろかなとは思っていたけど、意外なチョイスね」
「うーん、他の選択授業で優先順位高い物もいくつかはあるんだけど、この前の決闘からちょっと、どんな感じの授業をしてるのか気になってはいたのよね」
「簡単に言えば『近接戦闘部』は、騎士科の授業の延長線上にあるところよ。近接対近接に重きを置いた授業だから、接近戦が苦手な生徒が受けるイメージね」
「ふーん。でも、皆ダンジョンに潜って戦ったのなら分かると思うけど、前衛でも後衛でも、近接戦闘の心得は必須だと思うな」
「確かにね。リリちゃんも近接戦はきちんと出来ていたし、この際私もきちんと学んでおこうかな……」
「あら、ソフィーには私がしっかり……手取り足取り教えるから問題ないわ。勿論、アリスちゃんもココナちゃんもね」
「そ、そう……」
「はいなのです!」
「頑張ります!」
気持ち良くお返事をしてくれた2人を撫でくり回す。ソフィーは顔が若干赤いけど、どうしたのかな。
もしかして、私が密着姿勢で手取り足取り腰取りして教える情景が目に浮かんだのかも? 正解だけど!
◇◇◇◇◇◇◇◇
「結構広い空間が割り当てられてるのね」
私達魔法科1年Sクラスの面々は、第二運動場へと足を運んでいた。
そこでは各種武器別に専用エリアに別れていて、しかも案内板を見る限り、個別に専門の教師が割り当てられていた。剣、短剣、格闘、槍、杖に弓。……ふむ。オーソドックスな物は一通り学べる感じなのね。
「今日は特別な事をするつもりないから、皆自分が使ったり興味のある武器種の所に顔を出して良いわよ。勿論、迷ってるとかの相談も随時受け付けるわ」
そういうと、誰もが好きな所に移動するが、婚約者達は私のそばを離れなかった。
「シラユキについて行くわ」
「お供させて下さい」
「なのです!」
「貴女達……」
「というか、便宜上杖を使ってはいるけど、今後も杖でやって行くか悩んでるのよね。今度相談しても良いかな?」
「勿論よ!」
3人を抱きしめて、ほっぺにキスして頬擦りした後、ついでに何も言わずに背後に控え続けるアリシアにも同じように愛でた。
さーて、どこから見て回……。
「んんっ!?」
短剣のところで教えてる教師役の人が、どこからどう見ても知っている顔だった。
そんなの見たら、我慢出来ずに突撃するのは言うまでもない事で。
「リディ!」
「きゃっ」
愛しの褐色ボディーに飛び込み、思いっきり深呼吸する。
うん、ほどほどに感じる汗の匂いとリディの匂い。……男の気配は、無いわね!!
「……誰かと思ったらシラユキじゃない。今日は人数が多いと思ったけど、貴女のクラスが総出で来てたのね」
「そんな事より、どうしてここに?」
「あー……ほら、この前公爵様と学園にどう関わるかって話をしてたじゃない? その結果、短剣の扱いに関する指南役を任されたのよ。一応交代制だから毎日は来られないけど、アンタの決闘の後から、ちょこちょこ引き受けてはいたのよ」
「ええー!? 来てるなら教えてくれても良いじゃない」
「シラユキも忙しそうにしてたし、機会が合えば顔を合わせる日も来るでしょって話し合ってたから」
「むっ。誰と? 男でも出来た?」
「そんなわけ無いでしょうが。アンタより魅力的な男なん……な、なんでも無いわ! あの子とよ!」
慌てたリディもカワイイけど、男では無いようで一安心ね。いやまぁ出来たら出来たで、寂しいけどリディが選んだ人なら応援してあげたくはなるのよ?
寂しいけど。多分泣くけど。
さて、リディが仲良くて私の事をお話し合い出来るほどの仲の子ね。彼女の指先を追うと、そこには聖母のように笑みを浮かべ、救護室のような場所で手を振るイングリットちゃんの姿があった。
もちろん突撃した。
「イングリットちゃん!」
「こんにちは、シラユキ様」
飛びついて来た私に驚く事なく優しく迎え入れてくれる。くんくん……うん、こっちも男の匂いは付いてないわね!
「イングリットちゃんは何してるの?」
「私たちはここ救護所で、怪我人の治療をしています。シラユキ様のおかげで教会所属の『神官』が全員『リカバリー』を習得した事で、癒しの力の需要が高まりました。それにより、学園並びに冒険者ギルドと騎士団において、少し激しめの特訓も可能となった為、各所に派遣されるようになったのです」
「ほぇー。イングリットちゃんは毎日来てるの?」
「いえ、私もお勤めがありますから。リディエラ様と同じ日に、学園の支援にのみ参加させて頂いています」
「そうなんだ。2人がいる時は皆やる気が上がりそうね」
「そうなのでしょうか?」
「だって2人とも綺麗でカワイイもの。絶対そうよ!」
「ふふ、ありがとうございます」
イングリットちゃんは相変わらずカワイイなぁ。スリスリ。
流石に人前だから揉み揉みは出来ないけど、全力で抱きついてその柔らかさと香りを堪能する。
ああだめ、我慢出来ないわ。リディもイングリットちゃんも、どっちも愛でたい!
「ねえイングリットちゃん、リディのとこ行こ?」
「そうですね……。今は始まったばかりですし、怪我人も居ないようですから……」
「むぅ。それじゃ、怪我人が出たら戻っちゃうって事でしょ? それはヤだから、特殊な魔法を使うわ。…… 『
救護所全体に、薄らと
この 『
効果は、一瞬で回復するほどに濃密だが負担維持も高い物から、ゆっくり治療する代わりに負担も少ない物まで調整が効く。今回は2人に甘え倒す為後者を選択した。
学生のレベルで負う生傷程度、このくらいの薄さでも十分だろうという考えもある。2人とのイチャイチャ時間は誰にも邪魔させないわ。
「まあ、シラユキ様。この魔法は?」
「この霧の中にいる間、持続的に治療効果を受けられるの」
「流石ですシラユキ様!」
「流石ですお嬢様!」
「一緒に居たいってだけで、まーたとんでもない魔法を……」
呆れ声を出すソフィーは置いといて、これでイングリットちゃんがここに留まる理由は無くなったでしょ! 救護所にいた他の神官達がこっちに向けてお祈りを始めたけど、スルーしておこう。
私に見られながらという状態に若干恥じらいつつも、リディが短剣術を生徒達に教えて行く。リディの授業を何度か受けた子達は、軽い復習をしたらそのまま木人形相手に素振り練習を始めた。
新しく参加した子達には基礎的な持ち方から、短剣の種類とオススメ解説。心構えとパーティでの立ち位置を語り始めた。リディの冒険者生活を基にしたドキドキワクワクする内容に、生徒達は釘付けだ。
イングリットちゃんに膝枕をしてもらいつつ、下半身はアリシアの太ももに乗せたグータラ状態で様子を見守っていると、不意にリディがこちらを向いてニヤリとした。
その直後、私の格好を見て目を点にしてたけど。
「んんっ。そしてこの短剣は、盗賊に捕まった時にシラユキが取り戻してくれたの。彼女とはそれからの付き合いよ」
あら、ダシにされちゃった?
Sクラスの子達も、練習に励んでいた子達もこちらに視線を向け、私のリラックス具合に呆気に取られる。とりあえず手を振っておこう。
そんなこんなでイングリットちゃんに甘え倒しつつ授業はつつがなく進んでいると、私の使った魔法が噂を呼んだのか、魔法科の教授に始まり、教師や魔法師団。教会関係者や騒ぎを聞きつけた生徒会まで集まる一大イベントへと発展した。
まあ、『賢者』でしか扱えない特殊な魔法だし、未知の魔法に目を輝かせるのも仕方ないかも。
魔法の効能はすぐさま実証され、やって来たモニカ先輩がリディに模擬戦を挑んだりと多少ドタバタしたりもしたけど、平和に終わったんじゃ無いかしら。
戦い終わって一息ついていたリディを抱きしめたりキスしたりしていたら、スッキリした表情のモニカ先輩が、思い出したかのように声を上げた。
「あ、そうだシラユキちゃん。今度のおやすみの日、時間を貰えないかしら」
「どうしましたー?」
「この前伝えたけど、我が家のお茶会に招待したいの。勿論家族の人たち皆連れて来て来て良いわ」
「んー……。まあ、良いですよ。予定、開けておきますね」
「ありがとう! お母様から急かされていたのよ、まだ呼んでないのかって」
「リディ達も来るー?」
「やめとくわ」
「私も遠慮させていただきます」
「えー。なんでよー」
「侯爵家にお呼ばれとか、落ち着かないのよね」
「ご家族でゆっくりして来て下さい」
「むー」
その後も何度か誘ったが断られた。理由を聞いても煮え切らない答えしか返ってこないし、むくれても謝られるだけだった。
これはアレね、私とはまだ家族じゃ無いから遠慮してるのね?
それならこっちも、指咥えて見てる時間は終わりよ!
「じゃあリディ、イングリットちゃん。今度デートしましょ。それぞれ2人っきりで」
「「えっ!?」」
「それと、今日の放課後。空いてるなら、ママのパーティでダンジョン攻略に参加して来なさい。このまま燻っていても成長しないし、2人の時間が勿体無いわ」
リディは冒険者として、少し前までは外の魔物を退治していたみたいだけど、今は踊り子の仕事に専念し過ぎて全く戦っていないみたい。
そしてイングリットちゃんも、たまーに騎士団のダンジョン攻略に混じっているようだけど、それだけじゃ聖女になるのはどれだけ先かわかんないもの。
「ちょ、ちょっとシラユキ。2人を誘うのは良いけど、人数はどうするのよ。このままだと7人になっちゃうわよ」
「あ、そうね。それならココナちゃんがパーティから抜けなさい」
「は、はいなのです……」
「その代わり、ココナちゃんは明日から私の上級ダンジョン攻略パーティにいらっしゃい」
「は、はいなのです!」
しょげたりピンと耳を立たせたりするココナちゃんをカワイがっていると、終礼のチャイムが鳴った。
そうして困惑するリディやイングリットちゃんを、ソフィーとアリスちゃんに投げ渡し、私はココナちゃんに現在の戦闘スタイルを聞いたりして、彼女に見合った装備を用意するのだった。
『イングリットちゃんの膝枕、絶景だったわね』
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