第125話 『その日、ホテルへ連れ込んだ』
その後、精油を更に3回作り直し、香水8種類をそれぞれ120個作成した。その際の精油は200個余った。
0からスキルを上げ直した経験はなかったので、正直アイテムはどれくらい消費するのか全く予想ができて居なかったんだけど、想像以上に初回ボーナスと大量生産ボーナスが優秀過ぎたわね。
最終的に錬金術スキルは18まで成長したわ。その上素材も、半分近く余っちゃったわね。
ま、『スライムオイル』も精油のどちらも幅広く使える便利な存在だし、錬金術の中でも基本と言える素材だ。
これから大量に消費するだろうから、余ったくらい問題ないわね。
仕上げに、錬金釜の中に残った魔力水を捨て、『浄化』で綺麗にして掃除もおしまい。魔鋼鉄製のヘラは回収して、ただの木ベラに戻してっと。よし、後片付け完了!
「みんな、お待たせー」
「お疲れ様でした、お嬢様」
「うんー!」
我慢していた分、思いっきりアリシアに抱きつく。はぁー、いい匂い。なんならもうアリシアから香りを抽出して香水やアロマに加工してやりたいくらいだわ。
勿論、売らずに私個人で楽しむ目的なんだけど。……必要ないか。本人がいつもそばに居るんだもんね。
「シラユキちゃん、お疲れ様。……錬金術ってすごいのね。あんなに沢山のアイテムが出来る光景なんて見たことがなかったから、私感動したわ」
「大量生産は最初に見ると驚きますよね。まあ、分量を正確に把握していないと素材を全部お釈迦になる事もあったりするので、あんまりお勧めは出来ない技法ですけど」
「やっぱりそうなのね。以前友人に見せてもらった時は、ちょっとずつ慎重に作っていたから」
「最初は慎重にするのが普通ですからね。ただ私もそうしてしまうと、魔石の消費量がえげつない事になっちゃうので、一気にやるのがお得なんです」
精油のレシピの本来の分量は、『スライムオイル』が20
グラム、魔力水適量。ハーブが3グラムに闇の魔石(小)が1個で、結果は1個。上手くいけば2個になる。
今回の私のやり方だと『スライムオイル』が3キロ、魔力水適量。ハーブが500グラムに闇の魔石(小)が12個で、結果は200個。
大量生産の場合、素材が100倍ちょっとなのに対して魔石は10倍ちょっとで済む。この辺は、魔石の内部魔力を上手く操作出来るかどうかの力量が問われるので、この世界のヒヨッコレベルでは到底真似できない技法だと思う。
アリシアとかうちの家族なら、結構良い線行くかもだけど。
「今回お世話になったお礼に、これを差し上げます。勿論ソフィーの分もあるので後で渡してあげて下さいね」
そう言って精油2個と、香水8種の10個を1セットと考えて、2セット分先輩に渡した。
「えっ、貰っちゃって良いの?」
「勿論です。足りなくなったら言ってください。また作りますから」
「ありがとう、シラユキちゃん! 大事に使うわね」
お返しに先輩から熱い抱擁を頂いたので、全力で堪能する。ぬくぬくー。
「ココナちゃん、マジックバッグは持ってる?」
「はいです」
「ココナちゃんにも1セットあげるわ。気に入ったものがあったら是非教えてね」
「え、い、良いのですか?」
「勿論。友達だもん」
「!! は、はいです!!」
喜びを全身で表しぴょんこぴょんこするココナちゃんを撫で回す。カワイイなぁカワイイなぁ。
「アリシアもハイ。正直アリシアは、普段の匂いが大好きだからなくても良いんだけど、良い感じのがあったら教えてね」
「畏まりました。……1つ1つがとてつもなく上品な香りですね。余った香水はどうされるのですか? これほどの品なら、金貨を積んでも買われるご婦人はいらっしゃいそうですが」
「うーん、特に考えてなかったなぁ。とりあえず周囲に配って、反応が良さそうなら売ってもよさそうね。ただ、コレでお金儲けがしたい訳じゃないし、女の子には気軽にオシャレして欲しいから、出来るだけ安く提供したいわ。高くても大銀貨。安くて銀貨数枚ってところかしら」
「銀貨数枚ですか……お手頃価格すぎて、転売されてしまわないか心配ですね。陛下に相談してお嬢様専用のお店か商権を作りましょう」
「え? そこまでやっちゃう??」
「そうね、使い心地次第だけど、可愛いシラユキちゃんが作った香水だから、それだけでも付加価値は高いと思うの。きっと大勢が買いにくるわ」
錬金部屋を施錠し、ホテルへと帰る道すがら、アリシアと先輩の間で販売手順や香水の出来栄えについてすごく盛り上がっていた。
当の私は蚊帳の外だったので、ココナちゃんを堪能する為、手を繋ぎながら、お喋りをして帰るのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
先輩と別れた私達は、ホテルへと向かう。アリシアはてきぱきとココナちゃんの料金を支払い、夕食も5人分注文してくれた。
一応彼女の教育もあるため、食事は食堂ではなくお部屋で済ますつもりだったけど、アリシアは言わずとも把握してくれていたみたい。流石アリシア。
部屋に到着するとママとリリちゃんがお迎えしてくれた。有言実行というか、リリちゃんを褒めておく。唐突に褒められてリリちゃんは困惑していたけど、しばらく撫でているとどうでも良くなったのか甘え始めてきた。 カワイイなぁ、うりうりうり。
少し落ち着いてから改めて2人にココナちゃんを紹介し、並ばせてみる。
こうして見るとココナちゃんって、ママやリリちゃんよりちっちゃいのね。耳を含めれば一応超えるんだけど。はぁぁ、ちっちゃカワイイわ……。
「あ、ママ。今日ね、錬金術で精油と香水を作ったんだけど、リリちゃんの分も合わせて2セット、ママに渡しておくね。リリちゃんはまだこう言うのわからないと思うから、ママお願いね」
「ええ、分かったわ。……シラユキちゃんが作ったものだし、きっとこれも高品質なものなのよね?」
「そうですね、貴族に売り込めば金貨を払う方は大勢いらっしゃるかと」
「ひぇ……」
「大丈夫よママ。まだまだ100セット以上残ってるから」
「そ、そうなのね。なら大丈夫ね」
何が大丈夫なのかは分からないけど、ママが納得したみたいだから良しとしよう。
アリシアとママが精油と香水に関して、リリちゃんに説明を始めたのでこちらも最初の目的を果たそう。
「さて、お待たせココナちゃん。早速練習を始めましょうか」
「ハイです! よろしくお願いしますです!」
グッと気合いを込めるココナちゃんがまたカワイらしく、我慢出来なかったので、彼女を抱き寄せた。
「ひゃあっ!?」
「んもう、ココナちゃんカワイすぎ!」
そう言って彼女を抱え上げ、ベッドに座り込むと同時に、膝の上に乗せる。彼女を後ろから抱き止める形を取った。
すると慌てたように彼女の尻尾が元気よく動き、私のお腹や腕、顔をペチペチと叩いてくる。
ふわぁ、モフモフ尻尾に叩かれるの、癖になっちゃいそう。
「あわわわ」
「罰として今日はこの格好で修行してもらうわ」
「ええ!? は、恥ずかしいです……」
「観念なさい。この部屋に来た時点で、貴女はこうなる運命だったのよ!」
「ふええ、そんなぁ……」
最初はワタワタしていた彼女も、抵抗は無意味と悟ったのか次第に大人しくなっていった。
「……あの、シラユキさん」
「なあに?」
「どうして、その……ココナに魔法を教えてくれるんですか? ココナ達は、まだシラユキさんに会ったばかりなのです。親切心で教えてくれるとしても、無償ではあまりにシラユキさんが損をしてしまうのです。……お婆さまもお母様も、魔法を操る力は秘密が多くて、ちゃんと教えてくれる所は魔法学園くらいしか無いと言っていたのです。どうして、出会ったばかりのココナ達に、ここまでしてくれるんですか?」
不安気にこちらを見上げるココナちゃんと目が合った。はわわ、モフり倒したい……!
おほん! その言葉に家族もこちらを見ていた。そう言えば、皆には魔法をばら撒く理由を話していなかったっけ。
「それはね、皆の暮らしをよくするためよ。ママにはもう話したけど、近いうちに世界で一番大事な子がこの国を訪れるの。その時に、魔法や生産技術、あとは戦闘技術なんかが稚拙だと、あの子も息苦しいと言うか、楽しめないと思うの。だから私は、その子のためにこの国を、より良い国に生まれ変わらせたいのよ」
どうせなら、小雪にはめいいっぱい楽しく生きて欲しい。だから私に今出来ることは、彼女を作り上げるための素材と設備を作る他に、彼女が楽しめる環境を用意しておきたい。
そのためには、この王国は足りないものが多すぎる。そして、自衛するための能力も無さすぎる!
この国がどうでも良い土地だったら、もっと環境の整った国に行ってもよかったんだけど、ここには大好きだったNPC達がいる国であり、大切な家族が出来た国だ。だから私は、この国の文明レベルを何倍にも進化させると決めたのだ。
「大事な人……!?」
あ、アリシアが反応した。
「でもこの話は、此処だけにとどめておいてね。誰にも言っちゃダメよ?」
「は、はいです! とっても壮大でよく分からなかったですけど、ココナ達に魔法を教えるのも、その一環なのですか?」
「そうよ。国の脅威が現れた時、戦えるのが私だけなんて笑い話もいい所だもの。みんなの力を底上げしてあげなくっちゃ」
「はい! ココナ、シラユキさんの期待に応えられる様に頑張りますです!」
「ありがとう。ココナちゃんは良い子ね」
なでりこなでりこ。
「ふゆぅ……えへへ」
「お姉ちゃん!」
「なあに、リリちゃん」
リリちゃんが決意を目に秘めて、こちらを見ていた。
「リリ、もっと強くなるね!」
「違うわリリちゃん」
「えっ」
今の話で、勘違いをしていそうだから正してあげなきゃ。
「リリちゃん達家族に求めてるのは戦力としてじゃないわ」
「ええっ!?」
「勿論、強くなってくれたら嬉しいけど……。でもね、その為に彩り豊かな生活を犠牲にする必要なんてないわ。貴女達が楽しく、幸せな未来に辿り着くために、最低限必要のラインまで育って欲しいというのが私の願いよ。ワーム事件のような無茶な成長は望んでないわ」
強くなって欲しい。でも、それと同じくらい幸せにもなって欲しい。だから、修行ばかりにかまけるのは間違っているわ。もっと楽しく、色んなことをしてして生きてもらわなきゃ。
まぁ、リリちゃんは魔法自体が楽しくて仕方がないようではあるんだけども、年頃の女の子が『趣味は魔法技術の研鑽です』だなんて、悲しすぎるじゃない?
「だからママ、リリちゃんが無茶しないように見張っていてね」
「分かったわ。シラユキちゃんがそう言ってくれるなら、ママも無茶しない程度に頑張るね。無茶したらシラユキちゃんが泣いちゃうもの」
「!? ……うん、分かったの。リリ、無茶しないように頑張るの」
泣くって。いやいや、そんな事は。
……あるかもしれないわね??
「それじゃあ今は、魔法の修行なんて放り出して、おしゃれの勉強でもしていなさい。ママ、宜しくー」
「ええ、任せて」
「はぁい……」
若干消沈したリリちゃんは、ママに連れて行かれるのだった。ドナドナー。
「お嬢様、私は……」
「アリシアは最初に言った通りよ」
アリシアは家族という枠組み以前に、強い関係を結んだ存在だ。あの時彼女へ願った想いは『ずっと一緒にいて欲しい』だ。それは今も、そして未来永劫、変わる事はないだろう。
「アリシアはどうしたい?」
「はい。私も、ずっと共にありたいです」
「うん。なら、これからもよろしくね」
「はいっ!」
と、良い返事だったのだが、珍しくその場でオズオズとしている。……ああ、そういう事ね。
「アリシア、こっちにいらっしゃい」
「お嬢様っ」
「ひゃわわっ」
アリシアに背中から抱きしめられる。カワイイカワイイカワイイの3連結ね。前はモフモフ、後ろはふんわり。最高だわ! もうこのまま行きましょ。
背中に体重を預けながら、ココナちゃんの修行を再開する。
「じゃあココナちゃん。まずは、『魔力溜まり』の認識からねー」
「は、はいです」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふわあ、今までよりずっと簡単に魔力が集められるです。コレが出来れば、
「抱きしめている分、こっちも魔力の移動が簡単で良いわね」
「これが
私、ココナちゃん、アリシアはお互いに密着した状態だったので、簡単に互いの身体に魔力を流すことが出来ていた。
「えへへ、シラユキさんの魔力も、アリシアさんの魔力も、暖かくて気持ちいいです」
その言葉に連動するように、彼女の耳と尻尾はパタパタと動いた。
「……ねえアリシア。この子、カワイイでしょ?」
「はい。とっても」
「ふぇ? ……ひゃああ!」
アリシアと2人がかりでもみくちゃにしていく。
今ので魔力操作に関する練習は終わった。そして同時に、ココナちゃんは何が出来て何が出来なかったのかも、把握することが出来た。
ココナちゃんは今まで、魔法を使うときの魔力を『魔力溜まり』からではなく、意識的に
『魔力溜まり』の魔力は、基本的に時間経過で回復して行く。空っぽになったとしても、どれだけレベルが高く総魔力量が増えたとしても、じっくりと眠れば起きる頃には全快しているものだ。
しかし
その為、魔力をきちんと使用した魔法の行使は出来ていたのだが、いかんせん1度に使用出来る魔力が少なすぎ、すぐに息切れを起こしていたのだ。
でも、きちんとした魔力操作の知識さえあれば、彼女の総魔力量は、同年代の子達と比べて頭1つ突き抜けたものとなるだろう。さらに言えば、尻尾の
更に更に、ランク1の『ノーマル』やランク2の『ハイランク』の子達が多い中、彼女はランク4の『ハイエンド』の『巫女』なのだ。負ける要素がまるでない。
職業が対等だったとしても、尻尾はホントチートな存在ね。カワイさ的にも。
この技法を身につけた彼女を例えるなら……そうね。
たまに降る雨からしか水を確保出来なかったダムに、川の源泉を繋げた様なものね。あ、勿論開閉スイッチも付けたわよ。
「慣れてきたら、2本目や3本目の
「はいです! 今から楽しみです!」
先ほどまでの恥じらいは何処へやら。今は上機嫌に耳や尻尾を揺らし、満面の笑みを向けてきた。顔にペチペチと当たってちょっとくすぐったいけど、それがまた心地良いわ。
「それじゃ、一旦休憩を入れましょうか。そろそろお腹が空いてきたし」
「お嬢様。お食事の準備は出来ております」
「は、はい! 頂きますです!」
そうして家族とココナちゃんの5人で食事を共にする。食事中、アリシアが先程のカニマヨサンドをママとリリちゃんに食べさせたりした。
案の定ママとリリちゃんはノックアウトされ、そんな2人を微笑ましく見ていたら、アリシアから少量だけど
うん、パンで軽減されていない本体の攻撃は、とっても濃厚で美味しかったです。
こんな濃い物を食べると、やっぱりお米が……。ライスが食べたい。
「アリシア。私、お米が食べたいわ」
あ、口に出てた。
でもそうなるのも仕方ないくらい、食べたくなったんだもの。
「お米……。和国の伝統的な主食ですね? 聞いた事はありますが、私は口にしたことがございませんね」
「そう……。でもきっと、このカニマヨは絶対にお米と合うと思うの。あと、アリシアのお味噌汁なら毎日食べたいわ」
「お味噌汁……。それも和国で作られるスープですね。お嬢様がお望みとあらば、王都内の食品店を探し回り、必ずや作らせていただきます」
「むぅ」
「お嬢様?」
今のネタ、異国の殺し文句だし通じなかったか。反応が見たかったんだけどなぁ。一応本心でもあるし。
小雪は世界で一番大事だし、愛してるんだけど……。アリシアも一生離したくないくらい大事な人なのよね。
――数日後、リン姐さん経由でそのネタの意味を知り、アリシアが悶絶したらしかった。
……見たかったわ!!
『私もアリシアの料理は毎日食べてみたいわ!』
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