第111話 『その日、謝罪を受けた』

 アリシアとミカちゃんを連れて謁見の間へと到着すると、たくさんの人が出迎えてくれた。

 元々部屋にいた人達だけでなく、家族のみんなやソフィー達公爵家の面々。つまりは昨日謁見の間に集合していたメンバーが再集結していた。

 どうやら空いた壁の穴から、私の戦いを観戦していたみたいで、リリちゃんとソフィーは大興奮だったわ。彼女達は戻ってくるなり鼻息を荒くしてあれこれ聞いてきた。きっと、魔法を自分でも使ってみたいのね。


 彼女達を適当に宥めて、次に私は申し訳なさそうにしていたリディを慰める。聞いてみると、アブタクデが魔物に変わる瞬間の悍ましさに、腰が抜けてしまったみたいね。それが情けなくて不甲斐ないみたい。

 まあ今まで、魔物は倒すべき敵と見定めて、人間とは別物と線引きして戦ってきたのに、人間が魔物に変化してしまうだなんてショックが大きいかもね。私は何も感じてないけど。

 彼女は先ほどまで、イングリットちゃんに懺悔のような形で話を聞いてもらったみたい。それでだいぶ落ち着いたらしいわ。


 そこでも一応、ミカちゃんには釘を刺しておく。リディとイングリットちゃんは、私の大事な友達だからって。


「確かに彼女達は美しい。けれどね、私は今君に夢中なんだ。君との戦いを終えるまでは、他の子にうつつを抜かさないと誓うよ」


 だそうだ。

 さっきアリシアに目が行ってたようだけど、そこは目を瞑ってあげよう。


 私もアリシアに何回も断られて尚、追い続けた過去があるからね。それくらい彼女は魅力的だし、アリシアに関しては、彼女とはある意味同志なのかもしれないわ。

 アリシアは渡さないけどね。


 皆から無事を喜んでもらったのち、改めて陛下から感謝の言葉を頂戴した。


「シラユキよ、この度は本当に助かった。まさか奴が魔族に魂を売り渡し、魔に堕ちていたとはな……。あれを放置していれば、弟の領民達だけでなく、ゆくゆくは我が王国そのものを蝕んでいたことだろう」


 まあ、魔族から恩恵を受けているのはあいつだけじゃ無いから、あいつを倒せば万事解決。というわけにはいかない。それでも奴は、敵の布陣の中ではそれなりに上位に居たボス役だった。後は小物がほとんどだったはずだし、正常に王国が機能している今なら、安心して掃除を任せられるかも。

 いくら装備も職業もレベルも魔法も残念でも、数の暴力は有効だもの。……改めて見ると、ダメなところが多すぎるわ。早く何とかしないと。


「陛下。奴の口ぶりから察するに他にも魔族の息が掛かった連中がいるかと思いますが、いずれもアブタクデ並に厄介な者は居ないかと」

「うむ。ではレヴァンディエスよ、至急第二騎士団を指揮し、アブタクデ邸を制圧せよ。屋敷内にいる全ての者を捕縛し、魔族及びそれに与するものがいれば、全力で討伐せよ! レイモンド、お前は早急盗賊ギルドへ連絡。第二騎士団と共同で動き、情報収集するように伝えよ」

「「はっ!」」


 早速2人は行動に移そうとしていたけど、ミカちゃんを呼び止め、一言添えておく。


「ミカちゃん、あの豚のことだから屋敷には違法奴隷が沢山いると思うわ。その中でも趣味の悪い首輪をしていて無気力な人が居たら、私のところへ連れてきて頂戴。私が治療してみせるわ」


 違法奴隷の単語を聞いた瞬間、ミカちゃんの顔色が変わった。何となくで感じ取っていたけど、ミカちゃんはやっぱりそういう存在が許せないのね。

 奴に対する怒りを目に秘めて、彼女は最上位の敬礼をしてみせた。


「仰せのままに、レディー」


 スッと立ち上がると、彼女は一礼してその場を去って行った。

 ほんと、口説いてなければカッコイイなぁ。弱きを助け、強きを挫く。騎士としてのその振る舞いは、長年私に付き添ってきていた彼の姿を思い出した。

 彼はどうしてるかな。みんな、元気にしてるかなぁ。意外と私との思い出を肴に盛り上がってるかもしれないわね。


 それはともかくとして、そんな芯のある彼女が指揮をするからこそ、奴の屋敷で捕虜や奴隷を確保したとしても、手荒な真似はしないでしょう。


「全く、これではどちらが上司かわからんでは無いか」


 背後からそんなぼやきが聞こえた。

 あ、命令の上書きみたいな真似をしちゃったかしら。しかも陛下やその臣下の前で。

 そろーっと陛下の顔を覗き見ると彼は破顔した。


「ははは! いやよい、気にするな。自由気ままなあれの手綱を握るのは難しい。形式上あれは余に従ってはおるが、武人としては奴の方が上なのだ。細かい命令をしても聞かぬことが多くてな。そなたがこれからあやつの首に輪をかけてくれても良いぞ?」


 一応この国って、世襲制よね? ミカちゃんの方が偉いなんて事はないはずだけど……。いや、でも武人としての格付け的なものがあるのかもしれないわね。

 それだけミカちゃんは、この国の中で重要な戦力に数えられていると。まあ、私はそんな彼女をちゃん付けで呼んじゃってるんだけど。


 それはともかくとして、そんな彼女へと指示を出せるような役職に就けと、暗に言われてる?


「そのような面倒な事、お断りしますわ」

「ははは、それは残念だ」


 陛下は笑ってみせた。

 あら、冗談だったかしら? でも目は笑ってないというか、残念そうな顔をしてるような……。


「シラユキよ。昨日お主が欲した褒美についてだが、今回の活躍を加味した上で、正式に認めるものとする。お主とその家族が不当な理由で貴族から要求された場合、断る際に生じたトラブルは、余の名の下に赦そう。また、お主の性格を考慮し、巻き込まれる形で起きたトラブルもある程度許容しよう。この力を行使した場合はその日のうちに余か弟に報告をするように。良いな」

「感謝します、陛下」


 強権を振るうなと最初に言われてたけど、その辺りも汲んでくれたみたい。まあ、無茶しなければ目を瞑るってことかな?

 私が最初に希望した通りの、貴族に難癖をつけられたら反撃してもイイ権利は得られた。これで安心して学園生活を謳歌出来るというものよ。


「それからお主の働きに対し、勲章を授与しよう。受け取ってくれ」


 宰相のザナックさんが、豪華な箱を大事そうに持ってきた。箱を開けると、中には国のシンボルでもある赤い竜が象られ、★が3つ並んだレリーフが入っていた。

 このデザイン、どこかでみたような……。


 あっ。


**********

名前:エルドマキア王国 鮮烈大勲章

防具ランク:特殊

説明:エルドマキア王国国王から直接下賜された勲章。数ある勲章の中でも最大級の勲章であり、★の数に応じて威光が増す。国王の信頼を得た者だけが授与される。特殊な工程を経て制作されており、特別な装置でしか作成及び複製不可。

効果:装着者の全ステータスに+1%補正。

**********


「鮮烈大勲章……」


 エルドマキア王国編のストーリー終盤でもらえるアイテムじゃない。信頼を得ると授与されるんだけど、正史では偏屈な笑わない爺様だったから、貰うのにすっごい苦労した記憶があるのに……。やっぱり現実化した事で色々と変化があるのね。

 って言うか、これを見えるところにつけてれば、変なのには絡まれないんじゃ? でも常時コレを身につける必要があるのよね?


 ……格好良いかもしれないけど、カワイイとは違うのよねぇ。性能も悪くは無いんだけど、この手の装飾品は見えるところに装着しないと効果を発揮しなかったりする。

 防具は服の中に装着してても意味はあるのにアクセサリーはダメなのよね。

 現実化した事で、その辺緩くなっていたりしないかしら。後で試してみましょ。


 私にとっての最優先は、ステータスの増強よりも美観だもの。


 先駆者の杖だって、常時持ち歩くにはちょっと向いてないデザインだし。ハートが沢山あってとってもキュートなんだけど、ちょっと勢いに乗って作ったせいか、私の身長と同じくらいの長さがある。

 大きい杖の方が見た目のインパクトも性能も高いから作ってはみたけど、現実となったら取り回しが面倒だし振り回すわけにもいかない。

 今度作るときは、魔法少女風のステッキでも作ろうかな。


 まあ私にはなくても、リリちゃんにはステータスを伸ばす意味があるから、あの子の武器はしばらく両手で持つスタイルで行くけれど。

 魔法使いのスタンダードな出立ちだし、ある程度経験を積むまではあの格好の方がいいはずだわ。


 ちょっと横道に思考が逸れちゃったけど、とりあえずこの場は勲章を付けておこう。流石に貰ってすぐ懐に仕舞うのは失礼に当たるでしょうし。

 そう思ってアリシアに目配せすると、彼女は素早く動き、胸元に付けてくれた。


「とてもお似合いです、お嬢様」

「ありがとう」


 改めて陛下にカーテシーをすると、場を喝采が支配した。近衛兵達は勝ち鬨を上げ、陛下はうんうん頷いている。家族や皆も嬉しそうに手を叩き、アリシアは誇らしげだ。

 うん、気恥ずかしいけど、こう言うのも悪く無いわね!



◇◇◇◇◇◇◇◇



 皆であてがわれた部屋へと戻り、頂戴した勲章の鑑賞会を女子組で行っていると、大人組がやって来た。しかしその表情はお世辞にも良いとは言えず、陛下とザナックさん、そして公爵様は重苦しい表情をしていた。

 3人共どうしたんだろう……。アブタクデ邸の襲撃でトラブルでも起きたのかな……? と思ったけど、閣下は申し訳なさそうな顔をしている。懸念とは違うトラブル?

 何だろう……。


「シラユキちゃん、申し訳ない!!」

「ふぇっ!?」


 陛下が突然頭を下げて来た。

 驚いたのは私だけではなかったようで、皆度肝を抜かれたような顔をしている。


「お、おじ様!? 一体どうされたんですか、頭を上げてください!」


 ソフィーは慌てて駆け寄るも、それを公爵様が止めた。


「ソフィア、私達はシラユキお嬢さんに謝らねばならないのだ」


 そう言って公爵様も頭を下げ、ザナックさんと閣下まで頭を下げて来た。


「皆さん、一体何に対して謝っているのですか? 見当がつかないのですが……」

「うん……それはね、昨日シラユキ君が話していた『付与士』の事だよ。暗部の者が会話内容を陛下や私達に伝えたんだが、この情報は国を発展させる可能性を大いに秘めていてね。盗み聞きをする形になった事を陛下達は詫びようとしているんだ」

「そうだったんですか。でも秘密にするほどでも無いですし、私は気にしていませんよ。むしろ聞かせるつもりで話していましたし」


 昨日は内なる欲望シラユキから難題な宿題を出されたせいか、深く考える時間は無かったけど……確かに、『付与士』の力は便利すぎるのよね。彼らが必死になるのもわかる。

 けど、元々教えるつもりだったし、本当に不味い話だったらアリシアが止めていたはずだわ。アリシアが彼らを感知出来ないはずがないもの。


 それに睡眠をとる時にまで居座るようなら物申していたけど、あの話以降彼らは戻ってこなかった。だから私としては、その対応に文句はないのだ。


「うん、シラユキ君とはそれなりの友好関係を築いてきたとしている私としては、懐の深い君ならそう言ってくれるだろうとは思っていたんだけどね。それでもこの情報は我が国においてそれほど重要なんだ。ビックリしたかもしれないけど、受け止めて欲しい」

「承知しました、謝罪を受け取ります」

「ありがとう」


 彼らを代表し、陛下がそう口にし頭を上げてくれた。

 ふぅ、息が詰まるかと思ったわ。ママなんて居心地悪すぎて気を失いそうになっていたし。


 まぁ、これが彼らなりの誠意だというなら、受け止めよう。でも私が持っている情報の量からすれば、こんな情報は下の下だ。この程度の話はいくらでも出来る。

 今後は又聞きが起きて似たような展開にならないよう、大事な話は直接伝えてあげよう。


「それと、『付与士』の件で確認したいことがあるんだ」

「はい。転職出来る条件、ですね?」

「うむ」

「それを伝えるのも問題ありませんが……」


 ここで『付与士』の転職条件を伝えてしまう前に、まずは現状を確認しておく必要があるわね。


「皆さんに……いえ、ここは陛下が一番ご存知でしょうから、陛下にお伺いします。ノーマル職、つまりは最下級の職業はいくつあるかご存知ですか?」

「確か7種……いや、8種だったか? 最近になって発見された職業があったはずだ」


 やはりそこから違うのか。

 確かにノーマル職は全部で8種ある。でもプレイヤーは、最初から8種全てに最初から転職が可能だった。でもアリシアやママにリリちゃん。皆に『職業神殿』を使用した際、一部の職業が選択肢になかった。

 それに12歳の成人の儀では、『魔法使い』が選択肢にないとそもそも才能なしとされてしまう世界だ。やはりNPC……いえ、この世界の人たちにはノーマル職にすら転職条件があるのね。


 成人の儀を思えば、きっとその条件は緩いんでしょうね。ノーマルだし。

 特定の行動をすれば得られるんじゃないかしら? 魔法を使うとか、剣を装備するとかそう言う。


「……ええ、8種であっています。ちなみに最近発見された職業というのは、『遊び人』ですか?」

「そう、その『遊び人』じゃ! シラユキちゃんは知っておったのか」


 となれば12歳までは絶対に行わない条件で、後になって転職時に選択肢が出て来て見つかったとかそういうものね。とすれば何だろう……。遊び人だし、どうせ賭け事をするとかそういうのじゃないかしら?

 イメージで悪いけど、この世界で賭け事をする人が、真面目に職業レベルを上げて転職するなんて、稀な気がするわ。


「それでは次にハイランク。『重戦士』などの職業の総数は幾つございますか?」

「うむ、上位職のことじゃな? ちょっと待っておれ」


 そう言って陛下はザナックさんと一緒になって数え始めた。まあ職業の数なんて、普段から気にしている人じゃないとすぐには出ないか。それにしてもハイランクが上位職だなんて……。ハイって名はついてるけどそれは高位って意味じゃなくて、ノーマルの1個上って意味だと思うんだけど……。

 プレイヤー視点で言えば、ハイランクなんて初心者が駆け出しになったくらいのラインの職業でしかない。


 いやまぁ、死=終わりの世界なら無茶な戦いは出来ないし、魔法が浸透していないから……。でも、それを加味してもちょっと絶望するレベルね。


「9種。王国で確認出来ているのは9種だ」

「……はぁ、全然足りません。13種ですね」

「なんと!?」


 陛下だけでなく、周囲の人間全てが驚いていた。

 『付与士』だけではないと思っていたけど、やっぱり複合条件系が見逃されているのかもね。あと遊び人の上位職も。

 リディの『踊り子』があるんだから把握していて欲しい気もするけど、上位職になるにつれて発見が難しくなるのかしら? というか、この国では何をもってランク分けしてるんだろう??


「色々と言いたいことはありますが……。まずは、職業のランクはどのようにして判断されているのですか?」

「うむ、何年か前にダンジョンから発見された魔道具を使用している。その名を『職業診断のオーブ』と呼ぶ」

「え? なんです、それは」


 おっと、知らない名前が出てきたわよ??


『未知のアイテムね!?』

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