第076話 『その日、因縁と対面した』
「くそっ、話が違うじゃないか。治療が出来るような人間はこんな田舎に居ないんじゃなかったのか」
あー、くそ。また始まったぜ。坊ちゃんの癇癪が。
ここ最近は順調だったから鳴りを潜めていたが、今朝の噂でまた火がついちまった。
今朝宿で飯を食ってるときに入ってきた情報はまさに寝耳に水だった。噂をまとめればどうにも、教会で寝込んでいた病人達が全員快復したなんていう眉唾物に辿り着くんだが、ありえない話だ。1人2人とかならまだしも、全員ってところが信じられない。
それに、坊ちゃんはこんな田舎にと言っているが、そもそもあの毒をどうこうするなんて、不可能なはずだ。王国中の叡智を集めたところで、治療出来るようなものじゃない。
作り手の俺達でさえ、明確な治療法が確立できていない危険な代物なんだ。それを解決出来るような奴が、こんな場所に存在していたっていうのか?
だが、死人が出てるのは間違いねえ。本当にそんな奴がいたなら最初から助けられてるはずだ。やっぱり全員ってのは、デマの可能性が高いな。
しかし情報を集めた結果、全てがデマではないと知った。
なぜなら、最初期に病に侵されほぼ全身が『黒』に染まった奴が、平気な面して街中を歩いていやがったからだ。
しかし本当に可能なのか? あの毒が治療出来るかは、進行度によって明確に分けられる。発症直後ならまだしも、重篤状態のやつには高品質の解毒ポーションですら完治には至れなかったんだぞ。
あの
「あー、そのはずだったんですがねぇ。薬というのは噂に過ぎないでしょうが、巡礼神官が思いの外優秀だったんですかね」
「ふざけるなよ、もしこのまま井戸も直されて見ろ、計画が全て台無しになる!」
「それこそ大丈夫でしょう。滲み出たモノや感染者は治せたとしても、本体は特別製ですからね」
その点はカーバスに同意だ。
あの毒にかかった病人が、もし仮に、全員なんとか出来たとしよう。
だが、井戸だけじゃなく
川の毒が綺麗になったという噂も聞いてるが、それこそありえない。見るまでもない事だ。源流があの状態じゃ、この平和も一時的なもんだ。
この街は滅ぶことが確定している。
「ゲイスもそう思うよな?」
うぜえな、こっちに振るなよ。
「ええ、私もそう思いますよ。あのお方の計画に狂いは生じません。それとも、モーブス坊ちゃんはあのお方を疑っておられると……?」
「そ、そんなことは言っていないだろう! ふん、まぁ良い。それでは僕たちは、計画通りこのまま水をギリギリまで売って、退散すれば良いんだな?」
「はい、その通りです坊ちゃん」
「……だが、毒を治した方法とやらは気になる。もし有能な奴ならあのお方の役に立つはずだ。ゲイス、情報を集めてそいつを連れてこい」
ちっ、俺かよ。
だが、噂の渦中にいるそいつは、薬師と神官の2人で、どちらもとびっきり良い女だって話だ。
味見するくらい構わねえよな。
「分かりました、抵抗された場合は……」
「あのお方に仕えることを拒むような馬鹿は要らん。直接毒を使ってやれ。治療にあたって感染した。筋書きとしては十分だ」
「仰せのままに」
カーバスが耳打ちしてきた。
坊ちゃんには聞こえないよう小声でやりとりする。
「おいゲイス、俺も混ぜろよ」
「はぁ? お前は子守でもしてろよ」
「バカ言えよ、そいつら相当な美人らしいじゃねえか。神官も薬師も戦闘職じゃねえ。薬を全部奪ってから毒を掛けて、楽しんでから奴隷にでもしようぜ。本隊なら首輪をまだ持ってるだろうしよ」
「はっ、悪知恵の働く奴だ。本隊との連携も必要になるからな、捨てるか持ち帰るかは実際に見てからにしろよ」
「ああ、分かってるって。ヒヒヒ」
全くこいつは。
しかし奴隷か……悪くはねえな。
「おいお前たち、相談事は終わったのか?」
「ええ、段取りを決めてましたが、今終わ――」
「そんな横暴な!!」
通りを挟んだこちらにまで声が届く。いや、俺達を呼ぶためのものだな。
「今のは、ベグリッツの声ですね」
「行くぞお前たち!」
くそっ、あっちもトラブルかよ。
血気盛んな坊ちゃんを追いかけると、そこではベグリッツと……間抜け領主が相対していた。
「横暴と申されましても。いくら節水しようとも水は生活に必要なモノ。それに対して毎度高い金を払わされていては住民達も困窮するでしょう。ですので、今回は私が代わりに支払ったのだ」
「それであれば私共から買えばよろしいでしょう!」
なんだ、新しい商人が現れたのか? それとも水の魔道具を手に入れたか?
いいや、王都からは
何だっていいか、俺達を邪魔する馬鹿が現れたってことなんだからな。
「そこは商売だ。安くて高品質な方を選ぶとも。街はこの状態で産業をする余裕もない状態だ。そこを汲んで頂かねばね? 君たちの提示する金額で賄い続ければまさしく火の車だよ」
確かに、俺達の値段設定は明らかに法外だ。ただ、それでも売れるんだから問題はなかったが……間抜け領主の後ろにフードを着込んだ連中がいやがるな。変わった格好だが、あれがそうか?
なら、商人だな。魔道具そのものを領主が買ったわけではなさそうだ。
顔を隠すってことは日陰者か? ……関係ねえな。どのタイミングで毒を盛って潰してやろうか。それか、規模によっては撤退するべきか?
「だからと言って……こちらは伯爵様のご子息様直々におっしゃったのですよ。それを断るというのですか」
「そうだな、そこは心苦しかったところだ。だから彼らに条件を付けた」
「条件ですと?」
「うむ、その日の
は?
「……術者は何人抱えておるのです」
「うむ、たった2人だ」
ベグリッツがこちらへと視線を飛ばしてきた。頷いて返す。
たった2人の魔法使いが、魔力を使って水を売るだと? なんとも信じられねえほどに馬鹿げた内容だな。
魔法使いは世間的に見れば雲の上の存在だが、実際に出せる水は魔道具以下だ。
一般市民は魔法に対する憧れから何でもできると思いがちだが、実際にはそうでもねえ。どうせすぐに枯渇して混雑するだろうし、そうなってしまえば現実を知った市民が暴動を起こす。後は勝手に領主の株も落ちてくれるだろう。
日和見の領主と聞いていたが、まさかここまで世間知らずの馬鹿だったとはな。あの方の誘いを断るだけのことはある。
もうこいつらは放置して、薬師の女と、巡礼神官の女を探しに行くとするか。
「いいでしょう、ならこちらはその時間を使って準備でもしておきましょう」
領主の前に、獣人の耳がついた子供用のフードをつけた奴が3人並んだ。
しかし、何だあのふざけた集団は、商人ではなく魔法使いだとしても、あの格好はねえだろ。しかもその内2人はガキだと? いや、ノームの商人である可能性はあるか。それでもあの格好はない。商人の護衛として擬態している俺達でも格好には気を使ってんだぞ。
「ふっ……くくく、坊ちゃん。何やらショーが始まるみたいですよ、暇つぶしに見ていきましょうか」
「……ふん、そうだな。魔法では魔道具に勝てないと言うのに、更には魔法で出した水を住人達に売るだと? 正気の沙汰とは思えんな、馬鹿馬鹿しい」
「それではご覧ください。彼女達の魔法を!」
領主が高らかに宣言する。あの自信はどこから湧いてくるんだ? ここまで滑稽だと笑えてくるな。
「「『ウォーターボール』!」」
女2人の声とともに水の玉が出てきた。はぁん、まあそこそこのサイズじゃねえの? 住人からも次第に落胆の声が聞こえる。
あの程度のサイズじゃ、住人が抱えるカゴ2つ分程度の……。
「は?」
なんだあの水、どんどんデカくなっていきやがる。
そのサイズは一回りも二回りも大きくなり、1分も経たずにオークを超える程の塊へと変貌した。
あんな量、魔道具でも出せやしねえぞ!
『おおおお!!』
住人達から歓声が上がる。アレだけの量があればここにいる住人全員分の入れ物が、水で満杯に出来るぞ。他の地区にいる住人は満たせないが、それでも不味い。
あの連中、まるで疲れた様子が見えねえ……。身軽な動きで水を提供していってやがる。
奴らは、危険だ。
「カーバス、針はあるか」
「……」
「おいカーバス」
「当たらねえ……」
「あぁ?」
「何発投げても当たらねえんだ。水の玉に向かって毒針を投げてんのに、手前でいきなり失速しやがる。なんらかの妨害が働いてるとしか思えねえ」
カーバスの針がこの程度の距離で的を外すなんてありえない。あいつの投げた針がどこに行ったか知らねえが、それが当たらないとなると……。
そもそも複数回投げただと? 意地になって群衆の中で投げやがって。領主側に見つかったらどうするつもりだ、馬鹿野郎が。
坊ちゃんに指示を仰ごうにも、さっきから呆然としている。魔法は無力だと洗脳し続けた結果だな、しばらくは使えそうにねえ。
ベグリッツも状況に混乱しているようで、客が戻らないことにわたわたと慌てふためいている。
「直接行くぞ。あの水に毒を混ぜ、住人達を発症させる。そうすればあいつらの商売は終わりだ」
「ああ、わかってる」
坊ちゃんはその場に放置し、遠回りにだが奴らの方へと近づいていくと、死角があることに気付いた。
早く仕留めなければ……。はやる気持ちを抑えゆっくりと距離を縮めていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「止まりなさい」
「「!?」」
背後から近づく彼らに呼びかける。呼び掛けで足は止まったようだが、害意はそのままのようですね。
いくら隠密職が足音を消して近づいたとしても、お母様から共有してもらった『探査』結果を見れば一目瞭然です。
先ほどは念のため、『ウォーターボール』と連中との間に、『エアウォール』を設置しましたが、正解だったようです。何かがぶつかる感触が複数回ありました。
それらは風の壁に阻まれ地面へと落ちていきましたが、ここから薄っすらと金属らしき輝きが見えます。毒塗の針か何かでしょうか?
水の提供はお母様に任せ、私は彼らの挙動を注意しましょうか。
振り返ると、先ほどの隠密職の2人が立ち止まっていました。彼我の距離は10メートルといった所でしょうか。
「い、いやあ、とてもすごい魔法に驚いてしまいましてね。もしや魔道具を使われているのではないかと確かめに来たんですよ」
「茶番は結構。それ以上の接近は敵対行為とみなします。その毒を地面に置き両手を上げるならば危害を加えません」
領主に合図をし、彼らから距離を取って囲むように指示を出す。
「おいゲイス、不味いぞ、毒のことがバレてる」
「馬鹿がカーバス! 余計なことを言うんじゃねえ」
彼らの幼稚な言い争いが聞こえたのか、接客をしていたお母様がこちらを見た。そしてすぐに視線を戻した様ですが、あの反応は恐怖、ですね。見れば少し体が震えています。
やはりそうでしたか……。ならば、遠慮はいりませんね。
「あなた方が毒をばら撒いているのは分かっています。その上で住人達に法外な金額で水を売りつけ、荒稼ぎをしていることも」
「……出鱈目だ。そんな証拠はどこにもない」
「その通りだ。コレが何の毒かも分かってねえくせに、オレ達を犯人だと言うつもりか!」
「カーバス、てめぇマジ黙ってろ」
騒ぎが大きくなり、領兵が彼らを囲んでいることもあり住人達が騒めく。一旦『ウォーターボール』は魔力に戻しておきましょうか。
「お母様、こちらへ」
並んでいた住人に少し待っている様伝え、お母様が隣に並ぶ。もう震えは止まったようだ。
「貴方達はこの街以外でも毒を使った事がお有りでしょう? 思い出しなさい、貴方達に毒を盛られたという方がここにいます」
「「……」」
お母様がフードを取り、彼らに見せつけた。
「なっ、お前は……」
「何で生きて……」
「……あの時のことは覚えています。娘を連れ去るために、私を原因不明の毒で侵し、秘密裏に殺すつもりだったのでしょう! ですがその件も、今回の事件も失敗に終わりました。大人しく投降しなさい!」
殺したと思っていた人が生きていたとなれば、奴らの動揺を誘えるかと思ったが、その驚きは尋常ではなかった。幽霊でも見るかのような顔をしていますね。
「まさかてめえがコイツを……」
「だとしたら、何だというのです」
実際にお母様を助けたのは、私ではありませんが。
「お前が例の薬師か。どうだ、俺たちに協力しないか? それだけの力があればあの方もきっと」
「そういうのは良いので。話の続きは牢屋でも出来ますよね?」
長くなりそうだったのでバッサリと裁断する。もう自分で罪を認めたようなのであとは取っ捕まえて身ぐるみを剥がせば、証拠は後から出てくるでしょう。
「……あのお方の邪魔をするなら、てめえは生かしちゃおけねえ。死ね!!」
「『ウォーターウォール』」
『バシャン!』
突っ込んできた相手と、私との中間地点に、厚み50センチほどの水の壁を作り出した。
無から大量の水を一気に呼び寄せるのは私では難しいですが、
出来上がった壁は水であるため、通り抜ける事は出来ますが、少し手間取ることでしょう。
足止めとしてはそこまで優秀ではありませんが、これの本当の目的は、対象の体を濡らすためのものです。
「がぼっ! クソが!」
「無詠唱だと、ふざけやがって!」
これだけ全身が浸かれば、もう逃げられませんね。
「リリ!」
「うん、『サンダーウェーブ』!」
「「ぎゃあ!!」」
全身を濡らした2人だけが感電し、周囲の人間には誰1人として被害は出ず。
雷は制御が疎かですとあっちこっちに飛び交う扱いの難しい属性ですが、リリの調整も素晴らしいですね。流石私とお嬢様の妹です。
「ママに酷いことした仕返しが出来たの!」
「ありがとうリリ、少しスッキリしたわ」
「うん!」
彼らは私の魔法だけで倒すことも出来たかもしれませんが、職業から考えてリリの方が効果が高いでしょうし、奴らに攻撃するのはリリやお母様が相応しいでしょう。私はサポートに回るべきと判断しましたが、2人の様子から見て正解だったようですね。
「痺れて動けないうちに、縛っておきましょうか」
『ウォーターウォール』を解き、マジックバッグからロープを取り出す。
ピクピクと動く彼らに近寄る。……おや、連中の腰から、魔力の波動?
『バチバチッ……パァン!』
「きゃっ」
「うっ」
倒れた男の腰が光り、輝きが弾けると同時に中空に水の塊が現れた。そしてすぐさま水の玉は弾け、私達に降り注ぐ。
その結果、私とお母様は濡れ鼠になってしまいました。幸い、リリは素早く離れたので被害は被りませんでした。
出てきたのはただの水だったようですね。……しかし、油断しました。
「……うう、何だったのかしら、今のは」
「あ、お姉ちゃんが言ってたの。雷を人に打ったら魔道具に当たって大変だって」
「ふむ、なるほど。水の販売に利用していた魔道具ですか。それの誤作動で暴発したのですね」
周囲を見ると先程の水を攻撃だと判断したのか、領兵達が襲撃者の2人と、貴族風の男と商人を急いで捕縛しているようでした。
犯罪者の取り締まりは彼らの仕事ですし、これ以上の関与は不要でしたね。
一先ずは、一件落着でしょうか……。
「馬鹿め! 僕たちを捕まえてももう手遅れだ。街中の井戸は全て、あと数日もしない内に毒の雨を撒き散らす。この街は終わりだ。クハハハハハ!!」
貴族風の男が笑い出す。ヤケになったのでしょうか、見苦しいですね。
確かに本来であれば、家財や思い出を投げ捨て、逃げ出さないと不味い状態でしょうね。
しかしお粗末ですね。言わなければバレなかったはずのものを。……いえ、あれは保身ですか。
あの罠が誰にも看破されず、解除されなければ街は毒に沈んでしまいます。そうなれば住人だけでなく、捕らえられた自分達も巻き込まれると思って、わざと公開したのでしょう。
計画とやらの完遂よりも自分の命の方が大事ということですね。
フッ、兵隊や手先の質が窺えますね。
今の話に、住人達からは不安の声が上がっていますね。仕方がありません、ここは大声で宣言させていただきましょう。
「まあ! 数日も猶予があるのですね。でしたら余裕をもって解決できるでしょう。皆様もご安心ください。病気と同じように、必ず解決してみせますから!」
笑顔で、かつ自信満々に答える。
住民たちも安堵した表情が伝播していった。あの中には、私達が昨日治療した人たちが含まれているようですし、その話を広げてくれているのでしょう。
しかし今日は、そこそこ時間を要してしまいました。明日は朝一でエルフの森に出かけ、お嬢様に助けてもらいましょう。そのためには、今日中に各井戸の瘴気を1度リセットしておかなければなりませんね。不在中に爆発されたらかないませんし。
「馬鹿な! あの井戸の毒は普通じゃない。重症者を薬で治癒できたとして、アレはそういうものとはレベルが違うぞ!」
私が失敗して、巻き込まれて死にたくないのでしょうか。必死ですね。生き残ったところでこの先は地獄でしょうに。
彼らにはきっちりと背後関係を洗う為にも尋問をせねばなりません。
この街の人たちを思えば処刑もありうるでしょうが……。まあそこは、私の知るところではありませんね。
グラッツマン子爵に目配せし、煩い貴族の口を封じてもらう。まだ何か騒ごうと呻いていますが、何を言っているかわかりませんね? もう彼らの相手は良いでしょう。
「アリシア君、ご苦労だった。まさか本当に彼らが犯人だったとは……。疑ってすまなかった」
「構いません。私は家族が受けた傷を報復したまでに過ぎませんから。ただ、事情を吐かせるのは急いだほうが良いかもしれません。お嬢様は怒ると手がつけられませんので。戻ってきた時に、お母様を傷つけた相手がいるとなれば、容赦はしないでしょう」
お嬢様にはどう誤魔化そう。……いえ、嘘を言っても仕方がありませんね。正直に言って、それからお嬢様に任せましょう。奴らを捕まえたところで、この街への義理は通したわけですし。
「そうか……その人はそれほどまでに強いのかね?」
「ええ、本気を出されたら、私は1秒も持たずに圧倒されるでしょう」
以前に土足でマジックテントに入ろうとしたリリを、お嬢様が注意した時の事を思い出す。あれを直で受けたら、戦わずに許しを請う可能性が高いです。
「わ、わかった、例の毒を使ってでも吐かせよう。我が領地の住民を、何人も死に追いやった連中だ。一切の慈悲は掛けん」
なかなかの迫力ですね。これなら多少は期待は出来そうです。でも発想豊かかつ、様々な技術をお持ちのお嬢様なら、色々と吐かせる手段を持っていそうなんですよね。
ただ、そういう行動をしているお嬢様は、普段の姿からは想像が難しいのですけれど。
お嬢様はどうされるのでしょうか。少し怖いですが……楽しみでもありますね。
「さて皆さん、お待たせしました。今から再び水をお渡ししたいと思います。川もゆっくりとではありますが確実に戻ってきていますし、井戸も数日中には復旧させます。ですので必要な分だけお願いしますね」
体を拭き、再び巨大な『ウォーターボール』を出現させ、住人たちを安堵させる。
水、風、土の3元素は昔から得意な属性だ。お嬢様に教わる前からも色々と独学で扱い方を身に着けてきた。圧縮させ濃度を高める方法、広く魔力を伸ばし巨大なボールを作る方法など。
お嬢様の教えによりその操作技能が高まったことで、今では巨大に作り上げた『ウォーターボール』を
しかし住人は沢山いるため1列だけでは捌ききれない。
そこでお母様の出番だ。お母様自身も『ウォーターボール』を作ることは出来るが、私ほどに濃厚な水はまだ作れない。その為私の『ウォーターボール』を
方法としては、お母様が魔力を私の『ウォーターボール』に流すことで、一部を支配下に置き、必要分だけを抜き取る。そして並んでいる人達の桶に入れていき、制御を解除することで桶を水で満たす。
本来ならこのようなパフォーマンスは不要であるが、目を引くような事を行ってこその魔法であり、そして安心感にもつながる。
相手の魔法を支配下に置く技術は昔から研究されていたが、実用化されたことはなかったと聞く。しかし私は、長年の研究で独自の見解を得た。お互いの魔力の波長を理解することで可能とするもので、ある程度気心の知れた仲なら扱える技法だ。
お母様とは毎日のように触れ合っているし、魔力も身近に感じている。お母様に説明をしたところすぐに理解して下さいましたし、試してもらうとすぐにやってみせました。これもお嬢様の教育のお陰でしょう。リリもやりたそうにしていましたし、今度は土魔法で遊んでみましょうか。
……お嬢様はこの技法すら実用化しているかもしれませんね。ああ、1日離れるだけでこんなにも話したいことが出てきてしまいます。やはり私も、寂しいのですね……。
「お母様、魔力は大丈夫ですか?」
「ええ、見ての通りまだまだあるわ。それに魔力回復ポーションもあるし、気掛かりも無くなったし、ママは大丈夫よ」
「そうですか。それは良かった」
最初は手伝う事が無いと不貞腐れていたリリも、残ってくれた一部の領兵達と共に住人達の整理に駆け回ってくれているようで、スムーズに水渡しが出来ています。このままいけば、この区画だけではなく、夕方までには住人全てに水を配り終えれそうですね。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
この作品が面白いと感じたら、ページ下部にて評価していただけると嬉しいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます