第046話 『その日、変な奴に絡まれた』

 腕の中にいるアリシアを、更に強く抱きしめた。

 『精霊使い』はレベル5のエクストラスキルに、『魔法の力場』というパッシブスキルがある。ゲーム内では付近の味方の魔力を徐々に回復させるというものだったが、アリシア達とパーティを組んでからというもの、彼女達との距離に応じて回復量の差があるかを調べてきた。

 結果、5メートル以内から徐々に効果が発揮され、直接触れていることが一番効果があると判明した。

 実験の対象は主にリリちゃんだ。良い感じに魔力の最大値が少なく、頻繁に魔法を使うし、頻繁に撫でたり抱きしめたりするし。確認が容易だった。

 まぁ、この確認はあくまでオマケで、撫でるのも抱きしめるのも、真の狙いはリリちゃんをカワイがりたかっただけだが。


「喜んでいるところ悪いけれど、つるはしへの加工を始めてもいいかしら」

「おお、そうだった! ……って、嬢ちゃん達は何をしているんだ?」

「抱きしめてるだけよ。何か問題はあるかしら」


 ドワーフ達は皆疑問顔だ。なによ、カワイイ子を愛でるのに何か問題でも?


「いや……ねえけどよ」

「お嬢様、邪魔になりますので離れますね」


 抱擁を解き、アリシアが離れようとする。少し顔が紅潮しているが、幸せ絶頂といった表情だ。ああ、もっと愛でたくなるわ。というか放したくない。


「いいのよ、このままでも作業は出来るから」

「いえ、私も見たいので……では、後ろから失礼しますね」


 アリシアが後ろに回り、両肩に手を置いた。……柔らかい背もたれが出来たわね。

 それじゃ、早速始めますか。


 つるはしの取っ手は木材にするかで悩んだが、加工が面倒なので余った『魔合金のインゴット(銅)』を使おうと思う。

 つるはしへの加工と言っても、何も難しい事をするわけではない。ただ形を整え、2つの素材をくっつけるだけだ。本来のインゴットなら、削って研いで、接合部は穴を開けてとか、色々細かい作業が必要なんでしょうけれど……自作の『魔鉱石』の加工において、そのような工程は必要ない。

 『魔鉱石』は中身もコーティングも、私の魔力で作られている。その結果何が出来るかというと、魔力を流すことで形状を自在に操れるという事だ。


 『魔鋼鉄のインゴット』に魔力を流し、片つるはしの刃を作る。つるはしといえば基本両刃のつるはしがスタンダードだと思うのだが、今回の用途的には、片方はハンマーのようにしたほうが効率が良いだろう。あと、リリちゃんやママも使うんだし、安全面も考慮してね。

 取っ手との結合に必要な、繋ぎ目用のへこみも魔力操作で簡単にできる。もちろん『魔合金のインゴット(銅)』も私の魔力で作られた『魔鉱石』のため、まるで如意棒のように『グーン』と細長く伸ばしておく。

 ……長さと太さはこれくらいでいいかしら。まずは自分用ね。シラユキの体は細部に至るまで熟知している。ピッタリな柄の長さは、測らなくとも理解出来るわ。

 あとは2つの素材をくっつけて、そこで結合部分に熱を加え入れる。熱を奪う事で冷ますことが出来るのならば、その逆もしかりよ。


 2つの素材が溶け合い融合し、1つの物体となったところで最後に全体を魔力でコーティングし直す。そうすることで初めて2つの素材が『つるはし』として世界に定着する。『魔鉱石』を使った加工品は、最後にこの作業を行い完了させないと、『別のアイテム』とは扱われないのだ。

 そして一番大事なことだが、『魔鉱石』は、粘土のようにコネコネとこねくり回すことが出来ても、それが『別のアイテム』にならなければスキルの上昇に至ることはない。そして一度『製品』となったそれを、改めてこねくり回したところで、素材として再利用することは出来ない。

 ソレはもう、『魔鉱石』ではなく、『魔鉱石で作られた別のアイテム』なのだから。


「こんなところね。けど、もうひと手間加え入れるかな」


 形状変化で、余ることになった『魔鋼鉄』の一部分を分離し、針のように鋭く尖らせる。魔力が籠められる物なら何を使っても良いんだけれど、やっぱり自前の物を使った方が楽でいいわね。

 私は魔力を通した針を使い、完成したつるはしの柄部分に文字を刻み込んだ。これはハイランク職業『付与士』のスキルで、アイテムに印字を書き入れる事で、様々な特殊効果をもたらす。

 これらの印字もダンジョンドロップなので、当然コンプリートしている。彫り込める数は決まっており、『付与士』のレベル1から14は2個、15からは3個と段階的に増えていく。

 今回刻んだ文字はアイテムの鋭さを増す『鋭』と、製品の耐久性が増す『耐』の2文字だ。元々鋭さも耐久性も高い『魔鋼鉄のつるはし』には不要かもしれないが、念のためよ、念のため。


 最後に柄の1部に魔力を通して、文字のようにへこませる。勿論私専用のつるはしだもの。私の名前と雪結晶……あと白雪芥子しらゆきげしの絵も描き込んでおこう。

 これで完成ね! スキルも初回ボーナスのおかげか1も増えて、25になった。やっぱり、スキル差の影響か、この1個の作成だけでもだいぶ体力が削られたわね。はー、疲れた。


「『ハイリカバリー』……ふぅ、完成ー!」


 ……周りの反応がないわね。ドワーフ達は固まっているしアリシアは……うん、両手は私の肩だけど、お祈り顔になっているのは雰囲気でわかるわ。もうこのままみんなの分も作っちゃいましょうか。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 みんなの分のつるはしが完成した。ちゃんと、みんなの名前と一緒に、カワイらしさを魅せるため花も一緒に描き込んだ。

 アリシアのつるはしにはバラの花を。リリちゃんのつるはしには百合の花を。ママのつるはしには百合の花を2つ添えた。


「はい、アリシアの分ね。どう、カワイくできてるでしょ?」

「ありがとうございます、お嬢様! ……こちらの花は?」

「アリシアっていうとても綺麗でカワイイ花よ。貴女にぴったり」

「ああ……! 毎日お手入れして、大事に使います!」


 つるはしを抱きしめながら目を潤ませるアリシア。うん、美少女がつるはしを抱きしめるとか、絵面がやばいわ。猟奇的というかサイコな感じがする……。

 しかし、結構『魔鋼鉄』が余ったわね……。よし、今ここで渡してしまおう。


「ちょっと、貴方達いつまで呆けてるの?」

「……お? あ、ああ、すまんな。あまりの事で意識が飛んでたわ。『魔鋼鉄』が勝手に形が変わっていたが、あれは何のスキルだ? 鍛冶師にあんなスキルがあるなんて聞いたことがないぞ」


 ドワーフ達がみなうんうんと頷いている。まぁ、自分で作った『魔鉱石』でないとああいったことは出来ないから知らないのも当然かな?


「ああ、そのこと? 自作した『魔鉱石』は自分の魔力を含んで作られているから、作成者が魔力を通すことで形状をある程度自由に出来るのよ」

「なんと……そのようなことが」

「魔法を学んで魔力がきちんと扱えるようになれば、貴方達の鍛冶センスならその内作れるようになるわ。鉱石を採りに、貴方達も坑道で魔獣とか倒したりもするんでしょう?」

「うむ。ここで店番をしていたのも、することがなかったからだしな」


 鍛冶師の職業レベルが上がれば、必然的に魔力の総合量も高まる。籠ってばかりの鍛冶師ではこうはならない。


「なら、次から暇なときは魔法の鍛錬をしていなさい。ハワード、貴方、炎の魔法スキルは今いくつになったの?」

「4だな」

「頑張った褒美にコレをあげるわ」


 いつものを渡す。そして魔法を修得したらしく、いつものように紙は燃え尽きた。

 驚くハワードに魔法書の説明をし、改めて周りのドワーフ達にも告げる。


「次この店に私がくるまでに、貴方達もスキルは3以上にしていなさい。そうしたら、魔法書をプレゼントしてあげるわ」

「おお、本当に助かる! この街は魔法を使うような奴がおらんから、魔法書は売ってないんだよ」

「そうだったのね。あと、コレを皆に渡しておくわ」


 ドワーフ達に余った『魔鋼鉄』を1つずつ手渡す。


「コレは私の魔力で作ったから、貴方達が造形を弄ることは出来ないけれど、参考にするといいわ」

「いいのか嬢ちゃん、俺達にこれを渡しちまったら、俺達以外のドワーフにも『魔鉱石』の作成技術が行き渡っちまうぞ?」

「やれるもんならやってみなさい。それに貴方達も上を目指してもらわないと張り合いがないわ。ちんたらしてたら、私が先に鍛冶スキルを極めてしまうわよ」


 炎の魔法スキルを教えたが、別に『灼熱の紅玉』を作らず、炉で魔力を籠めながらでも『魔鉱石』を作ることは可能だ。むしろ彼らなら、教えずともその手法に辿り着くだろう。

 彼らは頭が弱いところがあるが、それでも鍛冶に関する発想と閃きは他の種族の追随を許さないものがある。他種族が研究により見つけた新しい手法を、彼らは思い付きで実行に移してしまうのだ。

 そこに今までなかった魔力も加われば、鬼に金棒だろう。それに鍛冶に関して、私から1から10まで、手取り足取り教わるのは彼らにとっても良い事ではない。発破をかけてあげれば、あとは勝手に頑張るだろう。


「……おいお前ら、人族の嬢ちゃんに負けてられねえ! 俺達ドワーフの意地を見せてやろうぜ!」

「「「「合点だ!!」」」」


 気合を入れるドワーフ達を後目に、店をお暇した。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 そのまま私達は、ギルドまで足を運ぶことにした。私はそのままママ達と合流しようと考えていたけれど、アリシアがテラーコングの手の回収を思い出させてくれたのだ。

 そう言えばそうだった。アリシアは優秀だなぁ、完全に忘れていたわ。氷漬けにした素材の事を心配してくれているようなのだが、あれは念のため1日と言ったのだが、実際は3日ほどは保つ予定なのだ。……アリシアには言ってなかったけど。


「アリシア、私色々と言い忘れてる事いっぱいあると思うから、聞きたいことがあったら何でも聞いてね?」

「そうですか? では、例えば今、お嬢様が思い浮かんだ事は何かありますか」

「例の手は数日は凍ったままの計算、だとか」

「なるほど。……では今度、ゆっくり出来る場で聴きましょうか。長くなりそうですし」


 そんなにあるの!? ええー、何かあったかな……?

 必死に思い出そうとしていると、アリシアが何かに気づいたようで、ギルドの前で足を止めた。


「何やら空気がおかしいです。これは……言い争い、でしょうか」

「煩かったら黙らせるわ。気にせず入りましょう」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 争いの中心点には相対する2組しかおらず、他の人間は端に避け、成り行きを見守っていた。

 その片側は受付嬢のエスタちゃん。そしてもう片側は見るからに貴族のお坊ちゃん。歳は私と同じくらいかしら。


「奴は私が倒すべき相手なのだぞ! どこのどいつが倒したというのだ!」

「ですからー、冒険者の情報をお教えするわけにはいきませんー。どうしてもと仰るのでしたら、ギルドマスターを連れて来ますがー」


 言い争いの原因は何かしら? なんて、鈍感なことは思わないわ。奴。倒した。冒険者ときたら、まあ十中八九私の事だろう。

 別に名前くらいなら開示しても良いのに。降り懸かる火の粉は払えば良いだけだし。


「そ、そこまではせんでいい! だが名前すら言えんとはどういう事だ! そ、そうだ! 父が招待したいとも言っておったぞ! ギルドは父に逆らうつもりか!?」

「でしたら正式な書類をですねー。ご用意していただけないと、動けませんねー」


 それにメルクは呼んでほしくないって事は、怖いのかしら。そして王都でもない場所に住む貴族であれば、彼は間違いなく領主の子供だろう。

 本来領主からの呼びかけなら、ギルドとしてもは断らないはず。エスタちゃんが門前払いしてるなら、これは正式な使者ではない……?


 まあ見ていられないし、エスタちゃんが可哀想だから助けてあげましょうか。


「エスタちゃん、困り事かしら」

「なんだ貴様は! 関係のない者は下がっていろ!」


 品がないわね。しかし、本当にこれが貴族なのだとしたら、従者も付けずに1人でノコノコとやって来たのかしら? 危なっかしい坊ちゃんね。

 とりあえずシカトね。


「エスタちゃん、別に隠す必要は無いわよ? 火の粉やゴミは私が自分で払いのければいいんだし」

「そうですかー? でも、シラユキさんは恩人さんですのでー」

「貴様ら、無視をするな!」


 やっぱり気を使ってくれていたのね。嬉しいけれど、それでエスタちゃんの負担になるのは望ましくないわ。……そこで隠れてるメルクなら別にどうってことはないのだけど。

 柱の陰に隠れているみたいだけど、割と丸見えよ?


「おい、聞いているのか!」

「ギャーギャー煩いわね。私があなたの探し人よ」

「……何?」


 私の返答に面食らったのか、高圧的だったその顔が凍り付いた。


「馬鹿を申すな。あの化け物を倒せるのは、僕のような強き者に限られる! 貴様に倒せるような存在ではないぞ」


 強き者ぉ? どうみてもうちのリリちゃんより弱そうなんだけど。


*********

名前:バートン・シェルリックス

職業:魔法使い

Lv:7

補正他職業:なし

総戦闘力:285

**********


 うん、リリちゃんより弱い。今のリリちゃんならタイマンでも圧勝できるんじゃないかしら。

 これで強者とか何言ってるのかしら? しかもテラーコングを倒せるですって?

 子供が強敵を倒せる夢を見るのは良いけど、もうこの世界の基準では成人して4,5年経ってるんでしょうし、少しは大人になりなさいよ。


 レベル7とか、どうみてもダンジョンにもまともに潜っていないヘタレよね? 学園で何してたわけ?


「シラユキさんがテラーコングを倒した人で間違いありませんー」

「本当なのか!? くっ、貴様が僕の獲物を奪ったのだな。横取りするとは卑怯者め!」


 プレイヤーの誰が言ったかは忘れたけど、『この世界の貴族は存在がギャグ』という名台詞がある。

 この坊ちゃんからも、その片鱗が感じられるわね。会話中に吹き出さないよう注意しないといけないわ。


「はっ、獲物と言い張るなら出会い頭で倒しておくべきね」

「そ、それは準備ができていなかっただけだ! 僕が本気を出せばあの程度の相手……」


 出会い頭を否定しなかったということは、直接相対したのか。それでも自分の獲物と言い張るなんて、妙な自信ね。この程度の強さだと、普通は出会った瞬間に心が折れたりするものじゃない?

 とりあえず煽っておこう。


「準備ぃ? 戦闘はお遊戯じゃないのよ。敵はこちらの行動を待ってはくれないわ。プロの冒険者なら不意打ちでも倒せるように事前に準備は済ませておくものよ。ま、あなた程度じゃ準備してても傷を負わせることすらできないでしょうけど」

「貴様ァ!」


 坊ちゃんは手を突き出した。どうやらやる気みたいね。

 私のお説教の途中から魔力が手に集まっているのは見て取れていた。お世辞にも速いとはいえないほどのノロノロ具合に、つい笑いそうになっちゃったけど。それに詠唱なのかしらないけど、手を突き出してからもブツブツと呟いている。

 隙だらけね。投げ飛ばすなりへし折るなりしてもいいんだけど、それだとまた準備がどうのと言い訳しそうだし待っていてあげよう。


「アリシア、よく見ていなさい」


 アリシアにしか聞こえない程度の大きさで呟く。昨日彼女に教えたばかりの技術の使い方を実践する良い機会ね。

 後ろから頷くような空気を感じた。


「恐れ慄け! 『ファイアーボール』!」


 飛んできた『ファイアーボール』はハワードが出したものよりかは大きかったけれど、それでも野球ボールサイズのものだった。

 速さはそこそこだったし、彼我の距離は1メートル。リアル世界でされたら絶対によけきれなかっただろう。しかしこの世界ではステータスがある。魔力を籠めた手で掴むのは容易だった。


『ボフン』


 私は、掴んだ『ファイアーボール』をそのまま握り潰した。


「は?」


 アリシア達に教えたのは、飛んでくる魔法に対する打ち払い方だったけど、今私が行ったのは、相手に威圧を与える対処方法だ。

 魔力を籠めた手なら、相手の魔法に触れることが出来る。それはつまり物理干渉に持ち込めるという事。殴って壊すことが出来るのならば、圧し潰すことも可能になるのだ。


「アリシア、ちゃんと見てた?」

「はい。お見事です、お嬢様」


 魔法を壊された坊ちゃんは茫然とし、見守っていた周囲は唖然としている中、どこまでも私とアリシアはマイペースだった。


「不意打ちしてこの程度じゃ、ゴブリンすら倒せないんじゃないかしら」

「き、貴様、僕を怒らせたな!!」


 坊ちゃんは腰のマジックバッグから水晶型の魔道具を取り出した。

 おや、アレは……。


「これで……」

「そこまでだ!」

「ヒッ!?」


 メルクが飛び出してきて一喝したことで、坊ちゃんは魔道具を落としてしまった。

 籠められた魔力が霧散し、魔道具に籠められた魔法は不発に終わる。いや、少し発動したかな?

 ……まあ大丈夫か。これで攻撃するつもりだったようだけど、コレは攻撃魔法じゃないみたいだし。


 周囲一帯を土の魔力で満たし、高濃度の魔力により『魔力酔い』の状態異常にさせるというものだ。

 『魔力酔い』は魔力が枯渇して気持ち悪くなる状態異常の逆バージョンだ。とても危ない薬をキメたかのようにハッピーになり、痛みは快楽になったり敵味方の区別が付かなくなったりと、頭がパッパラパーになる危険な状態異常だ。


 これで死にはしないけど、社会的には死ぬかもしれないわね? ある意味危険な魔道具だわ。しかもこれ、術者も巻き込まれるタイプだし。

 ……坊ちゃんがこれを使ったことで街が滅んだ? 討伐隊の中心で使ったならわからないでもないけど、そんな都合よく全員が巻き込まれるかしら?


「ギルド内での魔法による攻撃、更には魔道具を使った攻撃未遂。これはてめぇの親父さんにもキツク言っておかねばならねえな?」

「う……くそっ、今日はこの辺にしておいてやる! 覚えておけ! ……この力があれば英雄になれるはずだったのに!」


 坊ちゃんはそそくさと魔道具を回収し、恨み言を言いながら逃げていった。

 英雄ねぇ……。まぁ、それはともかく。


「メルク、何か言いたいことは?」

「ああー、いや、その、なんだ。悪かった、出るタイミングを逸してよ。……そうだ、手は大丈夫か?」

「この通り無傷よ。あの程度の魔法で傷なんて負わないわ」


 手をひらひらと振ってみせる。魔力防御をすれば、本当に0ダメージに抑える事が出来るのだ。


「そ、そうか。わかっていると思うが、領主が英雄殿に礼が言いたいというのは本当の事だろう。あのガキは正式な書類は持っていなかったから、俺が対応せんかっただけで」

「なら領主にはこう返しておいて。お宅の息子から失礼な暴言と暴力を受けて、気分を害したので行きたくない。ってね」

「ふぅ、わかった。一応ここの領主はまともなんだが……まあ仕方ねえか、英雄であり恩人の嬢ちゃんに、あんなことをしでかしたんだからよ。あのガキも学園に行くまでは、真っ当だったんだがなぁ……他の貴族に当てられたか」


 学園で傲慢な他貴族達の影響を受けた、ねぇ。英雄になることに拘っていたけれど、あの程度の実力じゃどうしようもないわね。

 レベルを上げて出直していらっしゃいな。

 

「シラユキさん、役に立たないギルマスに代わって、助けてくださってありがとうございますー」

「いいのよエスタちゃん、使えない奴の事は仕方ないわ。貴女が無事でよかったわ」


 ノームはカワイイなぁ。部屋に連れて帰っても人形に紛れちゃうくらいのカワイらしさね。

 隣でぶつくさ言う木偶の坊は放っておいて、アリシアと3人で話題に花を咲かせた。と言っても内容は坊ちゃんや魔法防御に関してだったが。


『不意打ちの魔法を握りつぶした私、格好良くてカワイかったわ!』

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