第033話 『その日、はお楽しみでしたね』
今は帰りの馬車。帰り道では引きずられている荷物がない分、気が楽だった。
「しかし、随分と懐かれていたな。シラユキなら分からんでもないが……」
「お姉さまでしょ? 今まで言われたことがなかったから、ドキッとしちゃったわ。まぁ次に会うとすれば王都ね。そこで可愛がることにするわ」
お姉さまかぁ……秘密の花園感あって良い響きね!
「シラユキ、貴族のご令嬢に手を出すつもりか? 程々にしておけよ?」
「あ、あのー、シェリーちゃん? 私も一応貴族なんだけれど……」
「ああ、そういえばそうだったな。忘れていたよ」
「ヒドイ!」
そう言えば、ギルドマスターとかの街の要の職業のトップは、貴族でないとなれないのよね。それなのにこのポンコツ具合……。魔法が使える分それだけで尊敬される世界かもしれないけれど、やっぱりその座にいるのはほぼほぼコネだけじゃないのかしら。
「2人は昔から一緒なの?」
「ああ、私は成人してすぐに王都で冒険者をしていたんだが、突然メアが現れて仕事の依頼をしてきたんだ。あの時は報酬に目が眩んで安請け合いをしてしまったんだ……。あの件は私の人生の中で最大の汚点であり、そこでメアに目をつけられたのが運の尽きだな」
「ひ、ひどいよぉ……」
メアが涙目だが、事実なので仕方がない。シェリーもフラストレーションが溜まってるみたいだし発散させてあげねば。
「どんな仕事だったの?」
「報酬が金貨1枚で、内容はギルド内の書類作成だったんだ」
「情報漏洩も甚だしいわね」
「だろう? しかもメアは、それ以降共犯だとか言って私に依頼を続けるようになってな。私もダメだと思いながらもズルズルと手伝わされていたら、王都のギルドマスターにまで娘を頼むぞ。なんて言われ、今ではこんな有様だ。シラユキも察しているだろうが、メアには事務仕事がほとんど出来ない。いや、したがらないというべきか。貴族の教育もあって、外部との折衝はしっかり出来るし、ギルド内でトラブルがあれば率先して矢面に立ってくれるので、メンバーからの信頼も厚い。荒ごとになるとまるで役に立たないし、事務仕事はできないが」
大事なことなので2回言ったわね。
「ううっ……。で、でも、シェリーが作った書類のハンコは押してるよ!」
ハンコを押すだけならメアである必要は……。
「……実力が問われやすいギルドマスターがこんなにポンコツだと本来はダメかもしれないけれど、シェリーと2人3脚でやれているなら、私は構わないわ。でも、あまりシェリーに負担をかけちゃダメよ?」
「はい……、がんばります」
「おっ、言ったわね? それじゃあ早速今晩、頑張ってもらいましょうか」
「え」
「そうだな、メアには私以上に頑張ってもらおう」
「ええーっ!?」
◇◇◇◇◇◇◇◇
目が覚めると、目の前には巨大なマシュマロが鎮座していた。なぜ目の前にマシュマロが? しかも甘ったるい匂いまでする。しかも動いているし……。
寝ぼけ眼で『ぼーっ』とそれを眺め、ようやくそれがメアの胸だと気付いた。そうだった、昨日はメアとシェリーの2人とはっちゃけたんだった。
昨日の事を思い出す。
◇◇◇◇◇◇◇◇
メアの部屋に直行したのち、アリシアは即座に調合のために出ていった。といっても、隣にあるシェリーの部屋を借りただけなのだが。
リト草を買いに行くことを見越して、ギルドからリト草を買い取れる事を伝えた。そして私が昨日作った分を、ギルドに売りつけるようにと伝えておく。また、売るタイミングは任せるとも伝えた。
参考になれば幸いだが、あとは彼女の頑張り次第だ。
あの子は果たして
その後は2人に頼まれていた魔法書を全部渡した。
その時のメアの喜びようはヤバかった。狂喜乱舞と言っていい。喜んでもらえたのは光栄だが、ちょっと怖かったのですぐに使うよう厳命する。
しかし、一部の魔法はスキルが足りなかったようだ。足りていないのに欲しかったんだ……まぁいいけど。
「使われないのは悲しいから、早く上げておいてね? シェリー頼んだよ」
「ああ、ちゃんと見ておくさ」
シェリーならちゃんと手綱を握ってくれるだろう。まぁそのシェリーも顔がニヤ付いていたが。
時間が惜しかったので、私はすぐさま裁縫道具を取り出し、服を作り始めた。一時期家庭的なシラユキもカワイイのではと思い、裁縫を勉強していた時があった。
ゲーム内でも素材と工程を誤らなければ、そこそこの性能を有した装備が作れるシステムがあったため、ファッションショーにも出したこともあった。と言っても完全自作まで出すと際限がなくなるため、最終的に小物に抑えていたが。
今回は他人を着飾るため、かつ彼女たちを映えさせるための衣装だ。手抜きや妥協は一切しない。
サイズに関しては、見ればわかる。元々、見れば大体の見当はついていたが、今ではステータス上昇も相まって、詳細な数値まで分かるようになっていた。メジャー要らずね。
観察力ってどのステータスなのかしら? INTかな?
そして作成時間も、DEXの器用さとAGIの素早さで、1人分の上下服の作成に5分と掛からなかった。メアの興奮が収まるのにまだ掛かりそうだったので、もう1着も手掛けた。
「シェリー、これに着替えて。ここで」
まずはシェリーに、以前から似合うと思っていた執事服を渡す。胸には花の刺繍。頭にはコサージュも。マントを付けた変則スタイルで行くか悩んだけれど、今回はノーマルで行こう。
「着替えるのは良いが……ここでか?」
「うん、ここで着替えて」
『ニッコリ』と圧をかけると渋々と着替え始めた。こちらを『チラチラ』と見ながらだったが、一向に視線をそらさない私に、シェリーは諦めたようだ。
ふむふむ……なるほどなるほど! 他の子の着替えってこんな感じなのね。シラユキ、というか自分の着替えしか見てないから、新鮮だわ。
「サイズがピッタリだな……。いつ測ったんだ?」
「見て触れば簡単にわかるわ」
「そ、そうか……」
「じゃ、メアはこっちねー。下着も全部脱いでねー」
「ふぇぇ……」
そういってメアは服を広げ、固まった。
「わ……私だけ布の面積少なくないですかぁ!? しかも下着なしってぇ!」
「しょうがないじゃない。メアだもの」
「諦めて着ろ。シラユキは似合わない服は用意しないだろう。きっと似合っていると信じて着るんだ」
そう言ってシェリーは鏡の前に立ってイロイロと確認している。うんうん、シェリーも女の子だよね。オシャレしたいよね! まぁ今回のは男装の麗人風味だけど。
メアは渋々服を脱いで着替え始めた。下着で押さえられていた凶器があふれてこぼれそう! サイズは合ってるはずなのに……メア、恐ろしい子!
「うぅ、着てみましたけど……きわどすぎません? 胸は横からこぼれそうですし、背中空いてますし。……それにお尻、み、見えてません?」
ちゃんとどちらが前で、どちらが上かを教えてから、着てもらった。前後逆だとただの……いや、やめておこう。
このサイズの胸を見たら無性に着せたくなった。反省はしていない。王都にいる更にデカイ人とやらにも是非着せて目に収めなければ!
下着も一応用意はしたが、ほぼ紐だし……うん。無しでいっか。
「バッチリ見えてるわ!」
「や、やっぱりー!?」
「それね、『童貞を殺すセーター』っていうの。まぁ、ラフなものを着込んでからそれを着ればで、カワイイ服に変身するから色々試してみるといいわ。でも今日は、1日その格好ね」
「はうぅ……」
「異性どころか、女性である私ですらドキドキしてしまうな……。だが胸を張れメア。今日は滅多に手に入らない魔法書を沢山もらったのだ。1日ぐらいしゃんとするんだ」
「そ、そうよね! 貴重な魔法書を貰ったんだもの!」
メアがやる気を奮い立たせ立ち上がる。勢いがついたせいか、下着がないせいか、盛大に揺れた。……これは殺せるな。間違いない。
その後はメアをメインに小さな小さなファッションショーが開始された。なんだかんだでシェリーも、メアを弄ることが楽しいみたいで終始笑っていた。メアも最初は恥ずかしがっていたが、途中で吹っ切れたせいかポーズも取り始めた。最後には私も交じって、最初のファッションショーは楽しく締めくくることが出来た。
メアって色んな服を持ってるのね。シェリーが着るとサイズ差に目が死んでたわ。
あーあ、撮影機能があればなぁ。錬金術、王都についたら最優先で作りましょうか。思い出の写真くらいは残しておきたい。
その後就寝の後の話題も、メアがほとんどだった。シェリーやアーネちゃんの話題も出てはいたけど、もっぱらあの殺人ボインだった。あのインパクトに上書きされてしまったのだろう。2人共可哀想に……。
シラユキはそこそこ大きい方だとは思うが、アレと比べると慎ましやかに思えてしまう。仕方ない。アレは仕方ない。
◇◇◇◇◇◇◇◇
昨日から起きるまでの記憶を思い出しながらマシュマロを堪能していると、マシュマロの動きが止まった。
「おはようメア」
「お、おはようございます……んっ」
視線をあげるとメアと目が合った。構わず揉む。これは、そう。ミルクトレッドだ。出なくても、そこにあるなら、押してしまう。字余り。
そのままメアと軽めのキスをしたところで、後ろから身動ぎを感じた。
「シェリーもおはよう」
「……ああ、おはようシラユキ。んむっ」
反対側にいたシェリーには、昨日アリシアとしたような濃厚なキスをした。シェリーの唇の柔らかさ、舌の味。ゆっくりと舐め取ってから、口を離す。照れ臭そうなシェリーの表情がまた愛おしい。
「……昨日、散々したじゃないか」
「昨日は昨日よ。それにシェリーに言ったじゃない。嫌ならしないって」
「……あまりこういうことをしていると、離れにくくなるじゃないか」
シェリーが顔を埋めてくる。よしよし。いつも『キリッ』としているのに、朝は弱いのかしら。カワイらしいわね。
「平気よ。また会いに来るから」
「ああ……」
後ろから拗ねた声が聞こえる。
「ちょっとー、2人して良い雰囲気しないでほしいなー」
「メアも強めが良かった?」
「そ、そういうのじゃ……」
「じゃ、遠慮なく」
「ひゃああ! んんっ!」
昨日2人とファンションショーを終え、お風呂に入った後はなんだかとっても深い意味で親密になっていた。なんでかは、私が知りたいけれど。
シェリーが寂しがるなんて、本当にカワイイわね。この街の悪党は倒したし、命の危険はないでしょう。貴女達が死ぬ事なく生きられるなら、また絶対に会えるわ。
それから、アリシアがやってくるまで、2人とベッドでゴロゴロとお話をした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
3人でそのままギルドへと向かう。アリシアは私を起こしたあと、そのままギルドへと先に向かった。ちょっと徹夜してたのかな? 眠そうだったのでこっそりと『リカバリー』をかけておいた。
ギルドの寮はギルドの裏手に存在し、シェリーとメアの部屋はその寮の3階にあった。
「ねえシェリー、そう言えば私の紹介状はどうなったの?」
「ああ、それなら一昨日言われてすぐ準備をして、昨日にはメアに渡したから、そろそろ出来ていると思うぞ」
「あっ」
メアの漏らした言葉に私たちの足も止まる。
「メア? 仕事ができないのは知っていたけど、私の事まで雑に扱うなんて、悲しいわ……」
泣き真似をする。いつぞやのように戻れない程度ではなく軽めに。それでも涙が本当に出てきてしまう。数秒で涙が出るとか、演技派ってレベルじゃないわねコレ。
見かねたシェリーが抱きしめて頭を撫でてくれる。男らしい! 好き!
「メア! シラユキを泣かせるなんて、あんまりだぞ!」
「えっとえっと……、わ、渡されてたっけ?」
「絶対に渡したぞ」
2人が慌てている。美少女の涙は全種族特効なのかしら?
まぁメアに関しては、どうせ魔法書のことを考えて気持ちが乗っていなかったのだろうけど、これはダメね。今後も書類仕事に関してシェリーの負担が増えるのはよろしくない。
涙を拭って本題に戻ろう。
「ぐすん。……もうハンコを押す仕事もシェリーでいいんじゃない?」
「それでは、ますますメアの必要性が無くなってしまう」
「もうほぼ無いんじゃ……あ、そうだわシェリー。水や氷を使った拷も……折檻の仕方を教えましょうか」
「おっ、本当か? 助かるよ」
「あの、ちょっと待って? 今、拷問って言いかけませんでした……?」
私とシェリーが『ニコッ』とほほ笑む。
「大丈夫よメア、ちゃーんとお仕事してくれたなら、こんな事受けなくていいんだから。ねぇシェリー?」
「そうだな。少し心苦しいがメアの為だ」
ジリジリと後ずさるメア。
「えっと……何、されるんです……?」
「とっても楽しいことよ」
「ひええー!」
その日から、メアは仕事ができるようになったと評価され始めた。まるで汚名を返上するかのように、鬼気迫る形相で仕事に取り組む姿に、ギルドメンバーは感動すら覚えた。
コレは誘拐されたことで自覚が深まったとか、ギルドマスターの責任感が芽生えただとか、まことしやかにギルド内外でささやかれていたとかなんとか。
「ううっ、もうお嫁に行けない……」
「次、仕事を忘れたらさっきの比じゃないモノを味わうことになるわ」
「頑張ります!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
その後、ギルドにつき2人と別れる。そこには無事レンジャーのレベルが1になったママと、リリちゃん、アリシアが待っていた。そこで、改めて必要な物を4人で相談することにした。
王都までは片道一週間の馬車が出ているらしいが、私の希望で徒歩で向かう事にした。理由としては魔物を狩りつつ、修行もしつつだからだ。流石にそれを他人に見せると無用な混乱を起こしかねない。そう説明すると皆理解してくれた。
まぁ、それだけじゃないんだけれどね。
そしてマジックバッグは、それぞれ個別に持つこととなり、追加でいくつか購入をした。誰か1人だけが集中的に持っていても、ややこしいだけだしね。
割り振りとしては、私が中サイズ1に小サイズ4。アリシアが小サイズ3。ママが小サイズ2。リリちゃんが小サイズ1だ。
『低レベル専用ダンジョン』の報酬が小サイズではパンパンになってしまうので、全て中サイズに放り込んでいる。中サイズは時間停止しているため劣化しない。あの豪華な報酬が劣化されてしまったら悲しいし、中サイズは貴重品兼、戦利品専用バッグと化していた。
あとは装備品専用、薬草や素材専用、その他もろもろ用と大事な物用だ。
アリシアはメイド用にカスタマイズされた一式に、身の回りの諸々に、装備品だろうか。頼めば見せてくれそうだけど、女の子のプライベートゾーンだし、聞くのは憚れる。
ママは装備品と、身の回りセットかな。恐らくリリちゃんのも入ってると思う。リリちゃんは装備だけだ。たぶんその内素材も入っていくことだろう。
そして相談の中で、私と、アリシア、ママは冒険者証を持っていたが、リリちゃんが無い事に気付いたので作ってもらう事にした。
そして今。私たちはクルルちゃんの勧めで、パーティの説明を受けていた。
「皆さんはこれから長い間一緒に行動していくのでしたら、パーティ登録した方がいいですね。メリットとしては主にシラユキさんとアリシアさんになりますが、2人とも綺麗で強いので、パーティの勧誘が来るかもしれません。でも、既にパーティを作っていれば声掛けが来る可能性がグッと下がります。シラユキさんがリーダーなら尚更ですね」
「なるほど……じゃあそのパーティを作ってみようかしら」
「わかりました。パーティを作られる場合、パーティ名が必要になります。これは後から変更することは出来ないので、慎重に決めた方がいいですね」
メンバーの項目には4人の名前を書いたが、パーティ名かぁ……。
「リーダーはまぁ、当然私として……パーティ名どうしよっか」
「お嬢様の御心のままに」
「そうねぇ。パーティといっても家族だものね」
「ママいいね。それ採用!」
登録書に
「わ、漢字ですか。これはもしかしてシラユキさんの名前です?」
「ええ、白い雪と書いてシラユキよ」
「美しいお嬢様にぴったりのお名前ですね!」
「あら、シラユキちゃんは漢字で書いてもカワイイのね」
「もう、2人とも好き!」
ギュウウウ。そこへリリちゃんが『トテトテ』とやってきた。
「お姉ちゃん、リリの冒険者証できたよー」
「あ、リリちゃん。パーティ名は
「わぁ! お姉ちゃん!」
飛びついてきたリリちゃんを抱きしめる。うりうり。
これで名実ともに、皆、私の家族ね!
『家族のスキンシップは、アリシアみたいにすればいいのかしら?』
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