第017話 『その日、闇ギルドを襲撃した』

「『サンダーボール』!」


「ぐあああ!!」

「魔力はまだ少なくして。あと焦らないで。ゆっくりでいいわ」


「小さく、ゆっくり、丁寧に……『サンダーボール』!」


「あぎゃあ!?」

「そうそう、上手上手」

「わぁ、焦げ焦げだね……」

「そうよ。これがさっきの魔力多め、これが最後の丁度良い魔力で撃った物。1つ1つの効果の違いがよくわかるでしょう?」


 見様見真似の域で魔法を出せるのならば、あとは魔力の扱い方に慣れさせるだけだ。リリちゃんは練習を重ね、しっかりと魔法初心者の水準にまで成長している。今のところ『サンダーボール』は安定して出せているし、しばらく出しっぱなしにしても破裂する予兆はない。順調ね。

 肉の焦げた痕や、威力が高すぎて爛れた物などを見て違いを説明した。どう魔力を籠めてどう使えば、どういった結果をもたらすか。それを正しく知る事でスキルは成長していく。

 割とグロいけど、リリちゃんは大丈夫そうね。

 でも、肉が爛れているのは犯罪者と言えど、なんだか可哀想ね。治してあげましょう。ついでに私のスキル上げにも使ってあげよう。無詠唱『リカバリー』っと。


「うん。魔力の多さでこんなに変わるんだね、覚えたよ! ……あっ、雷魔法スキルが3になったよ!!」

「あら、おめでとう! お祝いに今度、サンダーボールの魔法書をプレゼントするわね」

「ほんと!? やったー!」


 無邪気に飛び跳ねて喜んでいる。カワイイ。けど、あなた、今布1枚しか身に着けてないのよ? あんまり跳ねると見え……見えたわ。

 ……チラリズムも悪くないわね。このままながめてるのもいいか。


「目出度い事だが良いのだろうか……たしかサンダーボールの魔法書は金貨で30枚ほどだったような……」


 シェリーの小さな呟きが耳に届いた。

 無駄に高いわね。まあいいわ、手持ちの材料で簡単に自作できるもの。……見栄えは悪いけど。


「じゃあ貴方達、これの見張りを頼むわね。私とシェリーとリリちゃんはギルドに行って応援を呼んでくるわ」

「了解です、姐さん!」


 黒こげの中から忌々しげな立候補の声が聞こえる。


「クソッ、覚えていやがれ、クソガキ……」


「『豪雷ハイ・サンダー』」


 属性魔法スキル25から覚える『ハイ』シリーズの魔法。威力特化の魔法で、ボール系や貫通特化のランス系とは威力が桁違いになり、コレが使えるようになると初心者脱却を感じたものだ。

 適性ステータスでも当たればオーク相手なら致命傷を与えられるが、このステータスだ。実際、遠く離れた草原に青い雷が落ちたが、予想通り轟音と共に黒い大穴を開けた。


「……ごめんなさい、よく聞こえなかったの。次は私の魔法の実験台になってくれるんだとか? もう1度名乗り出てもらえるかしら」


 彼らは真っ青な顔で穴を見つめ震えていた。全く、弱い子供にしか粋がれないなんて、小物ね。

 ……あら? 見張りの冒険者組も震えてるわ。余波で痺れちゃったかしら? 雷は扱いが難しいわね……。


「どうやら居ないらしいぞ。では行こうかシラユキ、リリ。お前たち、しっかり頼むぞ!」

「「「「はい!!」」」」


 いい返事。大丈夫そうね?

 そしてそのまま街の入口に辿り着くも、門番が居なかった。


「……そう言えば、さっきの中に昨日見た門番が居たような気がするわ」

「ああ、私も見た。もうそこまで手が入っていたようだな。遺憾な事だ」


 と、門を潜ったところで1人の巨漢が走ってきた。


「姐さん、御無事で!?」

「むっ、貴様ガボルか!」

「えっ、うげえ! サブマス!? なんでここに……いや、それより姐さん、待ち伏せは? さっきの音を聞いて走ってきたんですが、撃退されたんで?」

「ええ。でも数が多いから、信頼できる人たちに見張りを頼んでいるの。今からギルドに行って応援を頼むつもりだったけど……丁度いいわ。あなたが代わりに呼んできてくださる?」


 ほんとにいいところに来てくれたわ。使えるのねこの人。

 あら? 2人とも怪訝な顔してるわね?


「いいのかシラユキ、こいつは闇ギルドのメンバーだったのだろう?」

「そうですぜ姐さん、信頼してくれるのは有り難えですが、普通頼みませんぜ」


 おかしな事を言うのね。獣の調教には自信があるわよ?


「そうかしら? でも大丈夫よ、私見る目はあるし。……それに私を騙して逃げ果せられると本気で思ってるわけでもないでしょう?」

「は、はひ!」


 こういう時は、頭の中でどう料理してやるかを想像しながら笑いかけると、伝わってくれる。

 今までそんな経験はないはずなのに、


「なら平気よ。私が直接叩いたんだもの、本能で敵対するとどうなるか理解しているわよね?」

「も、もちろんでさぁ!」

「よろしい。ところでギルドにはまだ構成員が残っていたりするかしら?」

「いえ、残ってた連中は先ほど姐さんが全部倒されましたぜ。あと、俺の舎弟は全員辞めさせました!」

「そう、なら安心ね。ギルドは任せるわ」

「はい!」

「あれだけ手を焼いていたガボルが、こんなあっさり……」


 シェリーはちょっと自信をなくしているみたい。今度獣の躾方とか教えてあげようかしら?


「それじゃあリリちゃんはここでお別れね。コレは見た目はあれだけど、デカイ犬だと思えばいいわ」

「えっ、お姉ちゃん行っちゃうの?」

「ええ、これからちょっとお仕置きが必要な子たちがいるもの。安全なところで待っていてね」

「やだ! リリもついていくもん!」


 ああ、むくれてスネる駄々っ子カワイイ……。


「しかしなリリ、キミを危険な目に遭わせるわけにはいかないんだ」

「それなら、お姉ちゃんの近くが一番安全だもん!」


 あー! ダメダメ、カワイイわ!! リリちゃんカワイ過ぎるわね。私はもっとカワイイけれど、リリちゃんのカワイさは別次元ね。カワイイは正義!

 ……だからといって私が正義を名乗るつもりはないけれど。でも、正義かどうかなんて関係なく闇ギルドは潰すわ。


 何故なら、よ。

 理由なんてそれで十分ね。


 それにしてもリリちゃん、涙目でぷりぷりしててヤバカワイイわ! ……抱き締めてもいいかしら? いえ、するわ!


「むぎゅー!」

「ひゃう!」


 『ギュッ』と抱きしめた。ナデナデもスリスリもした。この子ウチの娘にしたいわ。


「リリちゃんは私が守るわ。安心して私についてきなさい」

「えへへ、うん!」

「はぁ、仕方ないな」


 もう1度リリちゃんをなでりこなでりこ。ああ、飽きないわね。キスもしてあげたくなるじゃない。


「で、では姐さん、俺は応援呼んできます!」


 デカイ犬が吠えたので幸せ気分が吹き飛んだ。余計な真似を……。


「はぁ……、ああそうだわ。あいつらのアジト何処だったかしら?」

「『デイドリッチ商会』の屋敷です!」

「そ。ありがと」


 より一層ベッタリし始めたリリちゃんを連れて、奴らの根城へと進む。

 そう言えば、そろそろ強化魔法を掛け直ししておこうかしら。さっきより念入りに。


「『デバフアーマー』」

「『プロテクション』」

「『マジックシールド』」


 それぞれを個別に掛けておく。魔法の効果はそれぞれ単純だが解りやすいものだ。

 『状態異常が発生したタイミングで1度完全にレジスト』

 『一定の物理ダメージを累積で無効化する』

 『一定の魔法ダメージを累積で無効化する』

 というものだ。ただし、この魔法のレジスト率と累積無効化値は、術者のステータスに依存するというものがある。


 状態異常のレジスト率は、魔法及び道具の使用者のDEX+INTが、受ける側のMNDの値から+500未満から-500の間に発生する。

 計算式は単純で、自分と相手との差が=なら50%で、使用者が500以上高ければ100%状態異常になるし、使用者が相手より500以上低ければ100%失敗する。

 薬の良し悪しは効果時間と効果内容にしか影響しないため、レジスト率には影響がない。


 現在の私のステータスはMNDの値は2133。DEX+INTは2644ある。

 シェリーですら平均318前後。もはや±500前後という次元ではない。

 その為私が『デバフアーマー』を使った場合、状態異常が私のステータス計算で受けるため、状態異常が1度発生するまでは、常に100%レジストされるのだ。

 さらには、そこらの人間が私のステータスに追いつくのは装備を懸念しても考えにくい。つまり安心安全!


 ちなみに、状態異常を発生させる道具は、使用権を他人に奪われることがあるので、誰にでも使える分リスクが存在する。

 先程外で絡まれた時も、『エアウェーブ』を使用したことで麻痺粉の使用権を私が奪った形になった。その為、私のステータスが主となり、彼らの状態異常発生率は100%となってしまったのだ。


 物理・魔法の累積ダメージ無効に関しても、私のステータスを元に無効化される数値が決まる。

 ただし、『デバフアーマー』とは違い、攻撃を受ける側のステータスは本人のステータスのままのため、ダメージ量が私と同等になるというわけではない。

 しかし、ステータスによって決められた数値であるカット量は、彼女たちのレベル帯で考えると規格外だろう。

 恐らく……。


「今の魔法の効果で、リリちゃんはオークの正面パンチですら、数発は耐えられると思うわ」

「そ、そうなの?」

「なんというか、シラユキの魔法は私の理解を軽々と超えていくな……」

「そんなわけだから、リリちゃんも戦いたかったら前に出ても大丈夫よ」

「でも、魔力がぜんぜん残ってないよ……」

「あら」


 改めてリリちゃんの魔力残量を視ると、ほとんどなかった。

 レベルアップすれば全快するので、本来なら外のゴミを焼いた時に回復していてもおかしくは……あっ、人間を倒しても経験値入らなかったっけ。

 どちらにしても、リリちゃんは12歳の職業神託を受けていない。そのため職業も割り振られていなかった。だから職業がなければレベルアップもしないわけね。結局、経験値が入っても全快は出来なかったわけだ。

 プレイヤーはスタート時点で何かしらの職業についているから、その発想はなかったわね。でも職業は無くてもスキル値はあるのよね? 不思議だわ。

 魔力が少ないと体調不良になるっていう設定もあったはず。回復させてあげましょ。


「ならリリちゃん、魔力回復しましょうか」

「え、でも、お薬はすごい高いって聞くよ?」

「大丈夫。薬は使わないわ」


「『MPキッス』」


「ふみゅ!?」


 『精霊使い』のレベル5エクストラスキルを使った。元々は精霊と心を通わせ、お友達になった精霊に直接魔力を譲渡するためのスキルで、精霊とキスするのが楽しくて、好んで使っていた。

 別に、する対象は唇じゃなくても、っていうか体に触れなくても出来ると言えば出来る。というかプレイヤー同士でも魔力の譲渡をする場合、マウストゥーマウスだと色々問題があるもの。

 未接触だと変換効率が落ちるけど……。でも精霊とのキスを自重しなかったわ。精霊とキスする私がカワイイし、精霊もカワイイもの。

 大きさは、宙に浮く手乗りサイズから普通の人間サイズまで。見た目は女の子ね。

 今はまだいないけれど、いつか契約しに行きたいわね。


 閑話休題ついた渾名がキス姫よ


 譲渡が終わる。リリちゃんにも当然唇にした。なぜなら私がしたかったから!

 反省はしていな……あれ、私ってこんな風に、人に対しても躊躇なくキスしたっけ……?


 リリちゃんが『ポヘッ』としている。魔力を視ると9割ほど回復していた。本来より多く譲渡するとどうなるか知らないし、このくらいでいいわね。

 それを思うと一度対象の最大値をこの目で視ていないと、譲渡は難しいわね。

 ゲーム内なら、最大値以上に譲渡しようとしても中断されていたけど、リアルならどうなるのかしら? は、破裂するのかしら?

 ……どこかで実験が必要そうね。


「シェリーもしておく?」

「えっ!? いや……、私は遠慮しておく」

「そう? 残念ね」

「っ!?」

「じゃあ行きましょうか」

「う、うん!」

「……そうだな」


 再び歩を進め、目的地の『デイドリッチ商会』に辿り着いた。

 ここは確か貿易を中心とした商会で、かつては貴族の屋敷だったとか。それを改修して貿易の拠点として、活用しているらしい。

 所属メンバーは全員闇ギルド、会長も闇ギルドのトップという、完全にオールブラックな企業だったはず。

 今も営業中のようで明かりがついており、中から人の気配がする。しかし門番や護衛はいないようだ。

 ……もしかしたらさっき倒した連中に混ざっていたのかもしれない。ラッキーね。


 立地としては、ここは町の大通りに面した大商会。今は夕暮れ前とはいえ、まだまだ人通りは多いらしい。

 私たちは何かと目立つのか、チラチラと好奇の視線を受けている。改めて2人を見た。


 片や武闘派として有名らしい冒険者組が言ってた冒険者ギルドのサブギルドマスターのシェリー。そして布の上に防具を着込んでいる。

 シェリーの人となりを知らなくても、割と目立つ。うん、改めて見ると変な格好だと思う。本人は気にしていないみたいだけど。


 そして片や布だけを体に巻いた幼女。ならぬ美少女。

 ……あれ、これってもしかして奴隷の美少女をイジメているようにも見えない? 迂闊だったわ!


 最後に、僅かに光り輝く『白の乙女』を着た、最強カワイイシラユキちゃん。説明不要!

 私が目立たないわけがない。


「さて、どう乗り込もうかしら」

「裏口に回るのか?」

「まさか、当然正面から殴り込むわ。でも入り方ってあるじゃない? 例えば蹴破るとか、魔法でぶっ壊すとか、むしろ更地にしちゃうとか」

「おい、どんどん野蛮になっていくぞ。蹴破るのも壊すのも更地も無しだ」

「ええー、残念ね?」

「残念だね?」


 リリちゃんと頷き合う。うん、カワイイ。


「悪事の証拠が消えてはかなわんし、中にもし一般人がいたら目も当てられん。そしてリリ、シラユキに染まってきているぞ。彼女を真似たらダメだぞ」

「やだ、リリ、お姉ちゃんみたいになるもん!」

「リリちゃんは私が責任持って立派なレディーにするわ!」

「こら、シラユキ、よその家の子を勝手に育てるんじゃない!」

「ちぇー。まぁそれはともかくとして、玄関に重要物は普通置かないわ。そして扉前にも人は居ない」


 ちらりとリリちゃんを見て合図を送る。


「リリちゃん! 魔力増し増しでやっちゃいなさい!」

「ちょ、シラユキ!」

「やった! いっくよー! 『サンダーボール』!!』


 人に撃ってはいけないレベルにまで、威力、大きさが膨れ上がった『サンダーボール』がリリちゃんの掌に生まれる。

 そこで私たちを珍しげに眺めていた通行人達は、驚き戸惑い逃げ出した。

 そしてシェリーは頭を抱えた。


「発射よ!」

「いっけー!」


 リリちゃん渾身の一撃が、商会の正面扉を飲み込んだ。


『バキバキバキ!』


 扉を壊していく音が、観客の悲鳴と共に大通りに響く。

 だが、打ち手はリリちゃんだ。魔法を完全に修得したわけでもなければ、職業も魔導士系ではない。

 せいぜい、魔法抵抗力のない一般人に撃ったらショック死する程度だ。低レベルでも育成していれば死ぬことはない。重症は負うかもしれないが。

 そして、今回の相手は何の対策も講じられていないただの扉だ。1年後には資金が潤沢になり、扉も改良されるのだが、それは未来さきの話。


 考えているうちに『サンダーボール』の効果が切れたみたい。黒焦げになった扉が音を立てて崩れ落ちた。

 乗り込むには十分なスペースが出来たわね。リリちゃんも心なしか満足そう。なでりこなでりこ。

 よし、のりこめー!


「悪名高い闇ギルド、『ゼイドリッチ商会』! 街の女性やギルドマスターの誘拐並びに、サブギルドマスターへの暴行、他余罪多数! 随分街で好き勝手してくれたみたいだけれど、私が来たからにはあなた達の悪だくみもここまでよ! 私の歴史の1頁に加えてあげるわ、ありがたく思いなさい!」


 突然の襲来に茫然とする闇ギルド員を尻目に、決め台詞を放つ。


 決まった……!


 ドヤ顔を抑えられない。リリちゃんが隣でパチパチしてくれている。あとでナデナデね!

 後ろで呆れるシェリーに気付くことなく、私はしばらくニマニマしていた。


『……ああ、ドヤ顔の私カワイイ』

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