第011話 『その日、北の森ダンジョンに挑んだ 後編』
まずはキラーアントを風魔法で粉微塵にする。その後襲い来るキラーコマンダーを炎魔法で火ダルマにし、風魔法で相乗させて爆炎に包ませた。
「あはは、楽しい! ……まぁ、実際にこいつらの巣に乗り込むときがあれば、素材とかを残せるように、精密操作できるようにしておかないとね。っていうか地下洞窟だろうし爆発魔法なんて生き埋めになるわ。……まぁ今はソレを気にする余裕はないわ。時間的にもね」
出現した宝箱を開ける。2種のアントの甲殻に牙、そして求めていたものが入っていた。
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名前:土の魔石(小)
説明:土属性の魔物に宿る魔石。土属性の魔力を補充することで半永久的に利用できる。また、砕いても利用出来るが『魔石屑』になり、補充は出来なくなる。
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「はぁー、これで調合に錬金術、作れる幅が大幅に増えるわ。大事にしまっておきましょ」
『レベルが4になりました。各種上限が上昇しました』
「これで上限値は40か……。スキル10ちょっとじゃ心配だし、念のためスキルを上げておきましょうか」
各種ボール魔法を操り、魔力を練り込みスキルを上げていく。スキルが高まればどのようなことが出来るのか、一度知っているために出来るスキル上げだ。
最初にスキルを上げる時に使用したスキル上げ方法は擬似魔法の発動だったけど、スキルレベル3以降のスキル上げ方法は発動している魔法の質を高め続けるというもの。
炎は熱量を上げる。水と風は切断力を上げる。と言ったものから、ただひたすらに密度を増やし圧縮していくなど。
これを繰り返すだけでどんどん熟練度は高まり、それ相応にスキルレベルも高まる。
また、可能な限り魔力を込めて、密度も圧も最大値の状態で敵にぶつける事でスキルの上昇速度は跳ね上がる。
限界まで濃縮されたソレがもたらす暴力を五感で感じる事。そうする事で技術がもたらす結果を深く理解できるというわけね。
今は敵がいないから使えないけど。
短時間で6種のスキルレベルを40まで上げた私は、次の獲物を求めていく。
「さぁて、つぎは誰がお相手してくれるの?」
もうステータスは確認するまでもない。目の前の扉をくぐり、いつもの無機質な声が流れた。
『条件を満たす魔物の検索……ヒット。半径80キロ以内に目的の魔物を発見。召喚シーケンスに移行します』
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名前:テラーコング
レベル:40
説明:身長8メートルの巨大なゴリラ。災害指定の魔物で、普段は人が寄り付かないような山の奥に住まう。一度人類圏に降り立てば、災害を撒き散らすため、危険な存在。
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「うわ、ヤバいのが来た。ていうか距離近っ! そんな近くにこんな化け物居たの!? ……もしかしてストーリーの中盤くらいにボスとして戦った奴らかしら? そんなのがこの辺りで出待ちしてたってこと? ……1年間も? しかも当然のように2匹って。どの山からやってきたのよ!」
出現したテラーコングは2匹とも蹲っていた。彼らは8メートルの巨体。対してこのダンジョンは高くても4メートルちょっと。まぁ、流石にこの大きさの敵はダンジョン側も想定外みたい。
「ん? 血生臭いわね……こんな近場だと人間の生活圏にいた? ……恐らく、きっとそうね。さっきまでお楽しみだったのかしら?」
情けない格好でも本来は高レベルかつ残忍な魔物。混乱も最小限に私を知覚すると、2匹はすぐさま腕を伸ばしてきた。
一度捕まったら、もがく獲物を眺めて、手足を一本一本千切るなりして楽しむつもりなのだろう。だけれど、相手は私だ。
「『魔法剣』『ウィンドブラスト』」
ハイランク職業『魔剣士』の専用魔法『魔法剣』の効果で、風の魔法を剣に纏わせた。風魔法スキル5で覚えるもので、武器に魔法をまとわせる簡単な魔法だ。
魔法の効果により、もうこの剣の切れ味はレベル1相当の剣ではない。高ステータスによる暴力の塊だ。
そのまま両側から襲いかかる10本の指を切り落とした。
「……さぞかし今まで、人間相手に好き勝手暴れてきたのでしょう? おしおきの時間よ。スキル上げの、サンドバッグになりなさい」
悲鳴を上げるテラーコング達。暴れようとするも彼らにこの空間は狭いのだろう。ジタバタともがいていた。
その片割れに、照準代わりの剣を向けた。
「『ゼクスランス』!」
神聖と暗黒を除く6種の魔法スキル値が15を超えることで使用できる特殊魔法。計6本の槍が空中に現れ、照準通り1体のテラーコングへと襲い掛かった。
使用可能な職業レベルは3からなのだが、専用の魔法書が希少性が高く、序盤での習得が不可能なため、ゲーム時代では割と不人気な魔法だった。
消費MPは本来の3回分程度なのだが威力は据え置きなので、コストパフォーマンスに優れた魔法であり、綺麗でカワイイので私は愛用している。
そして6属性を操るため、スキルの上昇判定もしっかり6個分ある優れもの。
同じようにもう1体のテラーコングにもお見舞いすると、2体ともに粒子となった。
戦闘が完全に終わらないと、魔物が死んでいたとしても粒子にならずその場に残り続けるというのも厄介なポイントね。原型が残っている場合、本当に死んでいるか確かめる術が今の私には無いんだもの。
「残りHPが見れる魔道具も欲しいわね……。今の私、自分のHPもMPも見れないし。……学園に入ったら作成は急務ね」
いつもの流れで宝箱を開ける。両手が2セットに、右耳と巨大な毛皮と心臓が2つずつ。そして魔石だ。大量ね。
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名前:炎の魔石(中)
説明:炎属性の魔物に宿る魔石。炎属性の魔力を補充することで半永久的に利用できる。また、砕くといくつかの『炎の魔石(小)』と『魔石屑』になる。
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名前:風の魔石(中)
説明:風属性の魔物に宿る魔石。風属性の魔力を補充することで半永久的に利用できる。また、砕くといくつかの『風の魔石(小)』と『魔石屑』になる。
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「便利な属性2つゲット! 強いて言えば水が欲しいところだけれどね……」
『レベルが5になりました。各種上限が上昇しました。職業アビリティを取得しました』
「あ、そっか。レベル5で覚えるんだっけ。まぁ確認は全部終わってからにしましょうか。……さぁ、有終の美を飾るのはどなた?」
最後の扉をくぐり、無機質な声が流れる。
『条件を満たす魔物の検索……ヒット。半径150キロ以内に目的の魔物を発見。召喚シーケンスに移行します』
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名前:灰色の災厄竜
レベル:56
説明:高さ3メートル、体長12メートル。その体は瘴気を生み、猛毒を身に纏い、翼を広げれば疫病を撒き散らす。一度ブレスを吐けば、その地は生物の住めない荒地になるとされる。魔界の奥地に住まうとされている。
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「うっわ、ストーリー終盤のボスが来た。距離で考えれば、実際の史実で戦う場所ではないわね。どこにいたのか知らないけど、レベルは本来よりも10は低い。まぁ、何でもいいわ! コイツが周辺国を滅茶苦茶にしてしまう前に倒せるのはとても大きい!」
『ギヤオアー!!』
『状態異常『恐慌』レジスト』
『状態異常『麻痺』レジスト』
『状態異常『絶望』レジスト』
その咆哮だけで本来なら『恐慌、麻痺、絶望』というの3種の厄介なデバフ判定がある。
しかし、ステータスの高さによりその尽くがレジストされた。
「最初で最後の難所を突破! それどころか完全にレジストした? ヤバいわね。ステータス差どうなってるのよホント」
この世界にはドラゴンと呼べるものが大きく分けて3種類存在する。
第一に下級ドラゴンとして竜。上級ドラゴンとして龍。最上級ドラゴンとして古代龍だ。
龍や古代龍は翼を使って飛翔することが出来るが、竜は翼はあれど空を飛ぶことはできない。
地べたを這いずり、まるでトカゲのようですらある。
しかし腐ってもドラゴンの名を冠するだけはあり、膂力は凄まじく、鋼より硬い鱗を持ち、弱点以外の魔法には耐性を有し、持ち前の魔力で自己強化もお手の物。
さらに色によっては持ち合わせの属性が決まり、個体のレベルによっては使用する技が大きく変化し、対応方法も千差万別という非常に厄介な相手だ。
でも、悲しいかな。MMOにおいて最初のシナリオで出現する中ボスは、後々のバージョンアップで雑魚敵として登場することがある。更にはメタ対応された魔法が実装されることで、途端に哀れみを覚えるほどに弱体化する場合がある。
この竜もそのうちの1体だ。コイツの属性は暗黒。弱点は正反対に位置する神聖。
神聖魔法はスキル上げをしていないため未だに0だが、それすら問題ないほどにその魔法は天敵なのだ。そして神聖魔法の倍率を上げるステータスはMNDとCHRである。
負ける要素がまるでない。
「本当に相手が悪かったわね。……『浄化』!」
『浄化』の効果は、汚れを落とし綺麗にするだけの魔法。必要スキルは驚きの50だ。実装当初は「お掃除魔法(笑)」という認識しかなく、ネタ魔法とされていた。
しかし、アンデッドや暗黒属性の魔物相手であれば、存在を消し去るレベルの極悪な魔法であると知られると、評価が逆転した。今までは面倒かつ厄介な相手と認識されていた不死者達が、この魔法1つで地に落ちたといっても過言ではない。むしろ地に還された。
ある意味公式チートな魔法だった。
その後『浄化』が効かないアンデッドなどが現れるなど、イタチごっこが続いたのは、ある意味オンラインゲームの宿命だろうか。
現在はスキル値が0であるせいで見様見真似魔法ではあるけれど、ステータスの高さで無理やり効力が発揮されている。
見る見るうちに、竜の周りの毒素が消え、纏う瘴気も薄れていく。竜は抗うように体に暗黒属性を纏おうとするも、まるで効果がない。
まだこちらに反撃して、魔法行使を邪魔するように行動した方が良かっただろう。……私なら避けられるでしょうけど。
ドラゴンという強力なボス、高レベルによる高いHP、弱点属性、私の高ステータスによる『浄化』、知っているが故の本物に近い不完全魔法、尽きることなく溢れる私の魔力。
それらの要素が絡み合い、凄まじい勢いでスキル値は成長を遂げる。竜が完全に浄化されきる前には、スキル値はスキルキャップの50に達していた。
「これでトドメよ。『セイクリッドランス!』」
光属性のスキル15の魔法で槍を作り、あえて手に持ちぶん投げる。
DEXの高さも相まり、竜の眉間へと深々と刺さる。竜は断末魔の悲鳴をあげながら消滅した。
そして後には、今までの比ではないサイズの宝箱が出現していた。
「あぁ~、気持ちよかった! それに、光の奔流を放つ私、天使? カワイすぎでは!?」
鏡を取り出し悦に入ろうとするも、目に映ったのは神聖具合がマイナスになりそうな、レベル1の革装備であった。
「……こんなことになるくらいなら、ベビードールを着て戦った方がまだマシだったわね。……いえ、逆にそれはエロカワイイ+神聖な雰囲気。マシどころか、全然ありね!? カワイさが限界突破していた可能性も……。ああっ、なんてこと! もう1匹おかわりを要求するわ!!」
『ピコン!』
世の理不尽さに嘆いたところで、目の前の宝箱からカウント数字の60が出現する。これは宝箱の消失時間を意味するものだ。
「……やっば!」
長時間嘆いていたつもりはなかったが、実際はそうでもないらしい。
数秒思考停止で無駄にするも、急いで宝箱を開ける。中の素材を慌ててマジックバッグに詰め込んだ。量が量だけに、詰め込み終わった瞬間宝箱は煙のように消え、目の前に終点の扉が現れた。
「ギ、ギリギリセーフ……。はぁ、前の世界ならミーシャがよく咎めてくれたっけ。悠長にしすぎだとかなんとか……。やっぱり一人は寂しいなぁ。落ち着いたら仲間も探そうかな……」
『レベルが6になりました。各種上限が上昇しました。超過経験値発生。レベルが7になりました。各種上限が上昇しました。超過経験値発生。レベルが8になりました。各種上限が上昇しました』
若干気分が沈むも、突然のコールにびっくりする。
「そっか、ドラゴンは他と違って超大型種。経験値の入りが普通じゃないんだった。超大型討伐ボーナスに、ソロ討伐ボーナスもあるだろうし、一気に上がったのね」
気を取り直した私はゴールへとたどり着く。そしてそこにはクリア報酬として3つの宝箱が並んでおり、対応する文字が浮かんでいる。
『武器』
『防具』
『アイテム』
『この中から一つ選んでください』
この報酬は1つを選ぶと他の2つが消滅する。しかし、玉手箱のようにハズレが用意されているわけではない。
きちんと全ての中身が、プレイヤーの総戦闘力を基に必要な物を用意してくれている。
開ける宝箱は、このダンジョンに挑む前から決まっていた。
今欲しいのはステータス相応のアイテムでも武器でもない。高性能な防具だ。高性能な防具は総じて見た目も高性能だから大体カワイイ! っていうかカワイイドレスが欲しい!
「エッチカワイイけど革装備はもうダメ! 似合ってるけどそうじゃないの! おしゃれな服が着たいの!!」
駄々っ子のような気持ちで防具入りの宝箱を、勢いよく開け放つ。中身は……。
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名前:白の乙女
装備可能職業:精霊使い、大賢者、グランドマスター
必要ステータス:MND1800以上、CHR1800以上
説明:精霊に認められたものだけが装着することを許された伝説の装束。装備者の魔力を使い、様々な攻撃に対して防壁を張る。各種属性魔法の効果を高めてくれる。
効果:装着者の全ステータスに+3%補正。
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「……はえっ?」
『白の乙女』は死ぬ直前まで羽織っていた一番のお気に入り衣装だった。それが目の前にある。
あまりの衝撃か、それとも嬉しさか。しばらく言葉が出てこなかった。
そっと宝箱から掬い上げ、抱きしめる。大切な半身を取り戻した気分になった。
「……嬉しい。この装備を初めて着用した時を思い出すわ……。それにしても要求ステータスが最終レベルのはずなのに、条件は満たせていたのかしら?」
『ステータスチェック』
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総戦闘力:10884(+1600)
STR:1322
DEX:1322
VIT:1322
AGI:1322
INT:1322
MND:2133(+800)
CHR:2141(+800)
称号:求道者
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「ああ、うん……余裕で超えてたわね。それにしても1万超えかぁ。総戦闘力だけで言えば、ハイエンドの前衛の純レベル100相当あるわね」
まぁでも実際は、MNDとCHRという、強さに勘定しにくい部分が大部分を占めてしまっているので、同じくらい強いかと言われるとそうでもないのだが。
それにスキル値も本来の2倍成長するとはいえ、最大値まで育ててもレベル16相当。
ステータスおばけなだけで、他はまだまだ全然ね。
「さあて、レベルの準備は整ったし。行くとしますか。ありがとう低レベル専用ダンジョン、楽しかったわ!」
いつの間にか現れていた魔法陣に乗り込み、ダンジョンから脱出を果たした。
『やっぱり私には、その服が一番似合っているわ』
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