第5章 焔神・轟臨-3
「第二神化……じゃないですよね」
空を見上げながら呟くシシェーレ──一目散にイリスの所へ走りながら。役割よりも彼女のことが心配で身体が動いていた。実際は必要の無いことだが。
空中のネフィリムへと放たれる剣閃の尖撃=「斬神矛槍!」──腕の動きだけで9つの衝撃光がネフィリムへと向かう。
ネフィリム──防御もせず/身体に突き刺さるも衝撃光は消滅/代わりにビームを打ち返す。
「あっら」
「津波!」
自分の前面にだけ波を巡らせるリップル──光線の威力からそうせざるを得ず/それでも背後のピカト・ライファとフェンは無事。予兆を捉えられず逃げ遅れたリキ=体表に纏った光が衝撃を和らげるも戦闘衣は上半身が消滅。鍛え抜かれた半裸体を晒す羽目になる。
「あっつ!」
他の醒者=ネフィリムのビームから逃げつつ誰からともなく合流を目指す。心の中で思うこと──力を合わせればいいのでは?
しかしネフィリムが空中へと行ってしまったので攻撃手段は無く/フェン以外の醒者は同様に空中の巨人を見上げる。
空中のネフィリム──“翼を抱くもの”×5+“その身を縛るもの”×4=グリゴリを中心に醒者を囲むように歪な長方形に──まるでグリゴリの降誕を祝うよう。必死で光刃を飛ばすエスタスの努力も空しく全てビームが迎撃する。
「津波!」
リップルの作る碧色の壁もビームが焼き切って貫通/宙を貫く翠光も本体を貫通するまでには至らず/ネフィリムはビームを浴びせ掛けるまま。
既にグリゴリは地上から100メートルの高さまで降下。離れた場所から頭部を狙って黒光と虹光が撃ち込まれるも、全て周囲に燃え滾る焔光がかき消していく。
その様子を側から見るシシェーレ──どこか寂しそう/苛立ちにも似た焦燥感。
(いったいどうしたのか……)
まだ気持ちに決断がついていないのかと苛立ちを上書きする。自分はイリスのもとに行くんだ。そう決めたんだ。──それで? 彼女が望むように側にいればいいのか? 側にいるだけで何もできないのか?
段々と熱源が降りてくる。あと少しでグリゴリが地上に接吻する。周囲はその場に留まっていられないほどの高熱に晒され、地表は段々と融け始めている。
「青海波ァァア!」
その地上を覆う碧光の膜=リップルの全力。空中からのビーム──がかき消される=醒者を覆うオーロラのような虹光のカーテン。グリゴリを止められず/ならばせめて時間稼ぎへと方針を変える虹と反転。
しかし碧光の波すらも圧し潰すように降りてくるグリゴリ──速度は少し遅くなった程度。押し返そうとも直下に走る足場すら無く。
「っ……はあっ、はあっ、」
一瞬途切れる虹光=熱と疲労で倒れそうになったイリス──彼女を支えるために走るシシェーレ=半ば奪うようにイリスを抱き寄せる。
支えの中でなんとかオーロラを維持するイリス──半ば意地になって。
それでも状況は絶望的で、グリゴリを倒すどころか止める手段すら見つけられず。どうしようもない雰囲気が流れ始めていた。
「あれは……」
最初に気が付いたのは輸送機の中で退屈していたファンドラだった。戦闘に能う量の光を出せない彼は、それでも万が一の保険として出撃していた。特にすることも無いのでネフィリムの行動記録を取ったり周囲の観察をしていたのだが、それも早々に飽きて適当に探査範囲を広げていた。援軍という言葉が気になっていたせいもある。
故に、彼がそれを見つけたのは、きっと必然だったのだろう。
未確認飛翔体が現れた。レーダーには映らないが計器の状態に彼の脳内チップが微かな違和感を捉え、彼に肉眼で外を見るように訴えていた。
空の向こう、地平線の果てから何かが飛んでくる。爛々と煮えたぎる太陽を背にして飛んでくる。天を斬り裂く編隊を組んで向かってくる。音を置き去りにして、灼熱渦巻く煉獄へとやってくる。
「コード確認、統合国家! メッセージ確認──神機!?」
(──神機ってなんだ??)×9+(ここで来るのか?!)×1。
ファンドラが電子的に拡大された肉眼で見た者は戦闘機。鳥のように“く”の字になって飛んでくる8機の戦闘機だ。
「えぇっとあれは……」
画像判定から外部の検索エンジンにアクセスしサーチ。完全一致どころか部分一致も少ないが、何とか似たものを見出したのは、
「F2-25、ファルコンファイター……」
ベースになったと思しきは20年前の戦闘機だ。ネフィリム登場の初期に対ネフィリムとして開発・転用されたシリーズの最後の機種。醒者によるネフィリム戦闘が確立した頃に活躍していた骨董品。
だが、その形状は大きく形を変えている。主翼は後方に絞られ垂直尾翼は消失、2対目の水平尾翼として大きく後方に伸びている。そして極め付きは機体下部と一体化して装備された巨大な砲。ネフィリムに通常兵器の攻撃は通用しない──それこそ臨界状態の核融合炉ほどの熱量でも持って来ない限りは。
では、あれは何を発射するのだ? ファンドラが疑問を抱いた時、砲から光が伸びた。
真紅色の光が空間を焼く。それは光学兵器に見えた。ファンドラのセンサーは荷電粒子砲と認識した。しかしファンドラの脳は、自然の認識は、科学的な発光ではなく別の次元のものと認識した。そう、自らも持つ神光にも似た、しかし何か別の光に。
真紅光がネフィリムを直撃──破壊した。
「?!!」
シシェーレ以外の醒者たちが驚愕──どうして人類の武器が通じたのか。すかさず解説に回るシシェーレ──「あれは神機といって、神とか仏とか……まあよく分からないのですが、醒者と同じ超自然的な力でネフィリムに対抗できるそうです!」
よく分からないがそういうことだろう──思考放棄で醒者は一致/ネフィリムに対抗する手段をが来たことに少々の安堵をする。
戦闘機──の姿をした神機は再生するネフィリムに驚いた様子も無く再度の攻撃を行う。ビームの連発をかいくぐり荷電粒子砲を連射──4機が同じネフィリムを撃破し別の4機はグリゴリに狙いを定め近づいてくる。
上空へ顔を向けるグリゴリ──神機を認識したかのように熱波を放出×3。地上にも熱波は届くが碧光と虹光が相殺する。
神機=熱波を受ける直前に機体を急下降/急加速=放射する球面と垂直になるように。荷電粒子砲の斉射で正面から突撃──熱波に穴を開けてグリゴリへ急接近。荷電粒子砲×4を叩き込む。グリゴリ──焔を噴き出して防御=荷電粒子砲が有効な攻撃方法と判明/人類の武器はそこまで通用しないはずなのに。
醒者──グリゴリが神機に気を取られている間に翠光&光刃&黒光をグリゴリに叩き込みつつ臨時の作戦会議──今までやったことがないためグダグダ。
「グリゴリに通すにはどうする」
「届くだけなら黒光と虹光がいける」
「虹光は熱まで防御できないんだっけ」
「……はい」
「我慢するとか」
「リキを見なさい」
「……」
「エスタス、何か無いの」
「核融合炉と醒者の命、もしくは無尽の醒者がいればできるが……」
さすがに誰かを犠牲にできず/自分を犠牲にしたくはなく/無尽の醒者を呼ぶ時間も無く。
宙に浮かぶネフィリム──醒者を無視して神機を追い回す。神機=醒者に比べれば大きいもののネフィリムにとっては小動物並み──蚊か蠅のように逃げ回る。ネフィリム=業を煮やしたか全身からビームを放射/身体を動かしながら面への攻撃──射線上のネフィリムにも当たっている=奇妙な追いかけっこ。
4体の“その身を縛るもの”が動く。身を縛る光糸×10×3がほどかれ空中を奔る──上下左右へ3次元的に折れ曲がり神機を追撃/茨のツタが取り囲むように/追尾ミサイルが目標に喰らいつくように=自由自在の雷のよう。追われる神機──光糸から逃げ後方にも荷電粒子砲を発射/主翼&尾翼の角度を調整し急制動+急上昇+急下降の繰り返しで光糸の先端を前方に置き去りに=変態的な軌道を描いて飛翔──人並みの醒者の目では追いきれず。
醒者たち=展開に追いつけず/さりとてグリゴリを押し返す術も持たず/地面が溶解し燃える沼になって広がっていくのを見ているのみ。神機の攻撃もグリゴリを空中へ押し戻すまでには至らず──その神機すらも攻めあぐねている。
心臓の拍動のリズムで熱波を放出するグリゴリ=容易に近づけず。荷電粒子砲もすべて打ち消され地中に踏み込まれるのも時間の問題に。
(どうやって倒せばいいんだ……本当に誰かを犠牲にするしか……)
追い詰められた心に起死回生の案など浮かぶはずも無い。最も可能性がある対象方法──イリスかケルケオンに視線が集まる/彼らの特攻が提唱されそうに/さりげなくシシェーレがイリスの盾になったその時。
グリゴリの接近=上空50メートル。
醒者の視界が白銀色に塗りつぶされる。誰も見たことの無いほどの莫大な光量──その中にふと現れた人の気配。
「手助けに来たよ」
軽い言葉=散歩でもするように/ゆっくりと歩く歩幅/どこからともなく現れた少年──神出鬼没というよりも幽霊のよう。防壁の作成に集中しているイリスもリップルも唖然として光を解いてしまう。
「おっと危ない」
瞬時に彼らを包む白銀の光=少年を中心とした半球状──炎熱すら遮るシェルターになる。空の上からその光景を見ていたファンドラだけが彼の正体を知っていた。
「センター・キファ……」
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