第5章 焔神・轟臨-2
灰色の空を裂いて降り来たる光の奔流。しかし、今日はいつもと様子が違う。
灰雲の表面が波立ち白とオレンジと赤の光が地上に注ぐ。光輪は十。紋様や図画を描くようにそれぞれが離れて降りてくる。
降下予測地点へと走る醒者たち。彼らの頭にのしかかる重圧は段々と強くなっていく。
ネフィリムが尖兵として光臨する。灰雲から頭を引き抜いて誕生を祝うように腕を広げ、重力を無視した鈍い速度で降りていく。
空中に停止したものは4。地上まで落ちていくものは6。停止した4は背中から光糸を伸ばして地上へと垂らしていく。
「シュート」
──その1つの頭が破裂した。
つまらなそうな顔のペブル=遠く空中でホバリングしている輸送機の中。イリスとケルケオンの近くのネフィリムを砕く。──が、その首の根本がひと際強く輝いたかと頭が再生する=わずか10秒にも満たない復活。光糸は一旦崩れて再度背中から生えて降りていく。
「ええ?! 早い!」
足止めには僅かと言うしかない時間/それでも光糸のタイミングをずらすには充分な時間/イリスとケルケオン以外の醒者が対応できる隙を与える時間──かかる叫び声「青海波ァ!」=リップルの波が光糸を受け止める/「斬神延刃!」=エスタスが光糸を斬り裂く。
エスタスの光=緑黄光──俗に言う檸檬色。手に持った機械剣によって刃となった檸檬光を飛ばして光糸を切断する。
その時には他の醒者も動き出している。
最初に地上に落ちたネフィリムに駆け寄るシシェーレ&リキ──身体中に己の光を纏わせる。シシェーレ=「征業・烈破!」/リキ=「鉄拳!」──片足首へ集中する身体強化の2人による攻撃を食らいバランスを崩すネフィリム──ゆらゆらと揺れる。
「任せろ!」
リキが脚の上を駆け奔り腰まで到達、拳を振りかぶる──「鉄拳・破城!」
重心に衝撃を受けたネフィリム=そのまま後方へ倒れていく。蟻が人を殴り倒すが如き理不尽な力──ゴリアテを倒したダビデも唖然とするパワー。
足首から離れたシシェーレ=別の地上のネフィリムへと急行。その瞬間、圧倒的な熱量の爆発に飛び退る。
「うあっ!」
すんでのところで回避──その向こうにフェンの顔。
「離れていてね。ここは私一人で対応できる」
そう言っているうちにみるみるネフィリムが再生していく──光の中に無造作に突っ込まれる彼女の手=そこに宿る赤光。ネフィリムの光が巨人を形作る/その内部から赤光が煌めく/光の場所から連鎖的に爆発するネフィリムの身体──大気を焦がす灰だけを残して。
「灰燼の醒者……でしたね」
瞬間の再生と爆砕による無限の足止め=通常のネフィリムならば数百体を相手にしてもお釣りが来る破壊力。
爆発に乗って跳んだシシェーレ──「征業・烈渦!」勢いに乗って回転し、跳んだ先のネフィリムの足首を貫く。
見渡せば地上のネフィリムはその場に釘付けにされている。リキ/シシェーレ/ピカト・ライファ/フェン──暴力へと変換された光でネフィリムの身体を再生と同速度でひたすら破壊。エスタス/イリス──地に空に光刃を放ち光糸を地上へ届かせないように牽制。リップル──波の壁により光糸を地上に到達させず/ネフィリムの進路を妨害。ペブル/ケルケオン──空中のネフィリムを破壊し続け光糸のリセットを行う。
10体のネフィリムを相手にして被害を出さず/むしろ特殊なネフィリムでなければ一瞬で撃滅している状況。あとはいつ均衡が崩れるかと焦りと落ち着きが出てきた時。
灰雲に広がる熱色の光輪。灰雲の表面を凹ませて、下から見上げれば中心に尖った足の先が見えている。
世界を焼き尽くす焔が落ちてくる。
すね、膝、腰。段々と見えていく姿に、上空のネフィリムは他の醒者に任せたイリスとケルケオンが急行する。
グリゴリ直下に2人の醒者が歩を並べる。片方は虹、片方は反転。全身を灰雲から引き抜いた焔神に、それぞれ剣と手を伸ばす。
熱に溶け出して身体中から歪なとげが生えたような身体/頭の左側だけに細く天を貫くようなツノ/ネフィリムと同じでヒトの形こそあれヒトと似つかぬ身体/背中から身体を覆う光と同じ白に似た赤色で伸びる光糸──焔に爛れた鬼のよう。
鬼神が咆哮した。大気を震わせる炎が放出され、地上にまで降り注ぐ。
「青海波!」
地上と水平に醒者の頭の上に起こる波──光は壁となって醒者たちを熱から守る。
「危ないねえ……」
涼しい顔で空を見上げるケルケオン──攻撃可能範囲に入る瞬間を狙って待機。
「……」
静かに睨むイリス──少し暑くて手で扇いでいる。
その他の醒者──ネフィリムを抑えるのに必死。2人が抜けた穴を埋めきれず地上のネフィリムは若干放置気味。それでも融解光は放たせないと予兆が見えれば倒しにかかる。
頭上500メートル。そろそろかとグリゴリに狙いをつけるペブル──その様子がおかしいことに気が付いた。
「光る──!?」
果たしてその現象を発光と呼んでいいのか分からずうろたえ気味なペブル──しかし異変は醒者に伝わった。
「青海波!」=即座に防御へ移行するリップル──いつも通りの息の合い方。一瞬遅れて虹光を周囲に展開するイリス──守れるのか不安げ。
空の上から焔が吹き荒れる。ネフィリムが融解の光を放つようにグリゴリも焔を放つ。しかし、それは酸素を使い大気を焼いていく。
「あちっ?!」
声を上げるリップル=すぐに波が破られたと気づいて蒼白に。ネフィリムの融解光さえも防御する光の波が貫通されたことに驚愕。
イリスとケルケオンは無事=虹光までは通さず。
「シュート!」
姉の声に誘発されて狙撃するペブル=いつもより多めに溜めた光──怒りを込めて。まるでその身体に見合った質量を持っているかの如く下降してくる焔の塊の頭を正確に貫く──こと無く、グリゴリの身体から吹き上がった焔に遮られて消滅する。
吹き上がった焔=防御にとどまることなく地上へと放射。ネフィリムをも巻き込んで地上へ叩きつけられる。
しかし威力の大きさ=地上への近さ──「GO!」=ケルケオンの声。両手の平をグリゴリへと掲げ/その間が一瞬黒く光り/次の瞬間すら無くグリゴリの脚部が削れている。
観測上は光の速度すら超えて原因と結果が同居する破壊=反転の醒者の力。光の加速によって世界の法則すら捻じ曲げ破壊を為す黒光──それが通過した場所は数瞬だけ傷跡のように虚無が残る。
同時にイリスがカレイドスコープで射撃。黒光が通過した場所に命中させる。
苦悶の声を上げるように身をよじるグリゴリ=悲鳴のように全身から焔を噴き出す/熱が地上まで届く/炎が大地を焼いて燃える──割と戦いづらい状況。黒光/虹光の連続射撃──噴き出したままの焔が全てを遮って頭には届かない。
イリスとケルケオン──グリゴリの落下は止められないと悟る。それでも地上に被害を与える前に倒さなくてはならない。
「どうする?」
疑問を呈するイリス──案が考えつかないといった様子。
「頭を狙う」
気の抜けた顔で答えるケルケオン──当たり前だと言わんばかりに。
「どうやって?」
「直下から貫通するしか無い」
それをどうやって達成するのだろうか──真っ当なイリスの疑問が発せられる前に遮られた。
グリゴリ──焔光を下方に発する。イリス──虹光を展開して光を無力化/ケルケオン──黒光を頭頂までの正中線から撃ち上げる。焔光が発される前にグリゴリを直撃する結果を産み出した黒光は、しかしグリゴリの体内で燃え尽きて消える。
唖然とするケルケオン──「そんなのあり?」
展開の速さにチャージが追いつけないペブル──(御免なさい)。
焔光を受け止めきったイリス──虹光を発射するも黒光と同じく体内で燃え尽きる。
手段が無い──しかし勝機を見出さなければいけないと、一旦下がろうとする2人。
しかし2人は気づかない。グリゴリの焔を受けたネフィリムの光に赤色が混じり、熱を発するように輝き始めたことに。
ネフィリムの変化──光が赤くなる/光糸で自らの身体を縛る/身体から長方形が歪んだような翼が生えてくる──異形化した2種の巨人。空中の巨人は光糸を自らに巻きつけ発光を始める/翼の巨人は空へ向かう。
嚇灼の巨人を止めようとする地上の醒者──翼に光刃を飛ばすエスタス/翼を突き破ろうとするリキ+ピカト・ライファ/変わらず燃やし尽くそうとするフェン。それでもフェン以外は失敗し9体のネフィリムが地上を睥睨する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます