第1章 神葬・七光-6

 シシェーレは光糸の波を捌きながら背後を見る。自分のやるべきことはイリスの援護とはいえ彼女に付いて行ってもできることは無いだろう。だから、少しでも彼女が動きやすくなるように状況を整え、ネフィリムの気を逸らし自分に眼を引きつける。

「通すわけにはいきませんね」

 光糸はまだまだ迫っているがこちらも同じようなものだ。むしろ、寄生虫の苗床にされたように全身から光糸を蠢かせている《首無し》の方が厄介に思える。

 背後の光糸を感じながら《首無し》へと走る。膝立ちになりながら左腕を使い擦り寄る《首無し》は、光糸を伸ばして中距離から迎え撃つ。こちらも空中のネフィリムと同じ、物量で押し流そうとする波だ。

「変に小細工するよりは確実ですけどね」

 量を頼みとするのは戦闘の常道で基本だ。ただし、単体に向けて大戦力を一度に向けることはできない。そこに付け込む隙がある。

 殴るのではなく払う。光糸は単体ではただの細い(とはいっても太さはひと抱えもあるが)糸に過ぎない。それがまとまっているから流されるのであって、ひとつひとつを叩いて/弾いて/跳ね返して/受け流していけば対処はそこまで難しくは無い。

 押し寄せる光糸を払い除け突き進む/叩き伏せて上に乗る/うねる光糸を力任せに乗りこなす──イリスと同じ手法。ただ、《首無し》を倒す術が無いのが違う点。

 走って飛んで曲芸みたいだと感じ、胸の下まで来てもう片方の腕でも破壊しようかと考えた時。

 光糸がたわみうねり自分を包むように持ち上がってくる。物量の壁が形成され、自分を閉じ込めようとする。上方も光糸が降下して空が見えなくなる。殴る端からそれを超える速さで光糸が供給され、ついには白い光に囲まれてしまった。

「いやこれは予想外」

 光糸の操り方が段々と器用になっている。この状況、少しまずいのではないか。イリスの様子も見えなくなってしまったし早く抜け出さないと。

「征業・烈破!」

 反転。拳に光を溜めて正面の壁を殴る。手甲は光で藍色に染まり、眩しいほどの白色をした光糸を吹き飛ばす──はずだった。実際に衝撃は光糸を破壊した。しかし外まで届かなかった。光糸の量に吸収されて衝撃は和らげられ、同時に光糸が隙間を埋める。

(ものすごくマズいのでは……)

 開けた穴もすぐに閉じる。神光を切り裂くイリスならともかく自分ができるのは殴ることだけだ。自分に宿ったこの藍色の光を叩きつけ神光に対抗し、同時に自分の力を以って破壊しているだけ。そこに打撃のための技術が重なっているとはいえ単純な暴力にしか過ぎない。

 とりあえず手甲に藍光を溜めていく。あまり大きな技を使いたくはないのだが仕方ない。外まで力を通すことをイメージする。技のストックはあるか。ある。この囲みを抜けるには──

 右腕を胴体の脇に付ける+拳を軽く握る+身体を大きく捻る=右の拳を足と同じ高さまで下げる⇒藍光を開放する/勢いをつけて身体を戻す/腕を回転させる/腕を伸ばす──

「征業・烈渦!」

 螺旋を描く藍光で光糸の壁を殴る──破壊と同時に藍光が壁を切り裂き/食い破り/進んで──神光の壁を蟻が開けた穴のように穿つ。反動を利用し左の拳を叩きつける/追加で右。正面に開いた穴に飛び込んで殴り続ける=右/左/右/左/右/左/右/左/右/左/右/左/右/左/右/左/右/左/右/左/右/左/右/左/右/左/右/左/右/左/右/左/=掘削するように/どこまでも/地上の光が見えるまで。

 螺旋の藍光が切り裂いた痕は段々と修復されていく。早く出なければいけないと焦燥感ばかりが募る。止まることはできず、ただ一つの方向に進むのみ。目標は左腕。もう片方も砕いてやらないと。

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