第1章 神葬・七光-2

 イリス・アースウィはいつものように戦っていた。大剣の形をした機械剣、透光剣・カレイドスコープは手に馴染み、振るえばネフィリムは壊れていく。

 刃渡りは2メートル。刃は厚さ3ミリの透明な特殊キチンセラミックで出来ており内側は空洞。峰は直線で銃のように先端には穴が開いている。刃と峰は根本から半分が空洞で繋がっていて、それは手に持つ柄へと続いている。

 イリスは剣に虹光を流し込む。柄を通った虹は刃へと通り、刃に一瞬の紋様を浮かび上がらせた後、周囲に虹を撒き散らすことなく、さらに大きな刃の形となって伸長する。刃渡り20メートル。刃先の方は虹が薄まり神光の中に陽炎のように消えている。それを横薙ぎに振るう。

 刃は断裂を作った。虹光は神光を中和し、あるいは破壊し、破壊力を生む。薄く刃となった虹色は神光に分断を作り、刃の動きで虹を叩き込んでネフィリムの身体を切り裂いていく。

 ひと振りで20メートル。実際には神光で中和されているから15メートルが限度。ネフィリムの首を刎ねるには足らず、神光が剥離するもすぐに内側から新たな神光が湧き出て治してしまう。

(連続で斬り込まないといけない)

 イリスは思う。しかし醒者といえども神光に曝されて無事ではいられない。いくら肉体の強度があっても神光には関係ない。自分の周りに虹光を展開してようやく近接戦闘が行えるのだ。ネフィリムの体内を流れる神光を受け止めるにはそれなりの虹光が必要で、剣に回す光を考えると連発はできない。

 そうでなくても大型のネフィリムである。いつもならば数回も剣を振るえばネフィリムは消滅しているのに、今日のは活きがいいというか虹光が中和されすぎている感じがする。心なしか神光も多いような気がする。

 1度巨人の肩へと退く。光の刃を一旦消して柄を握り直し、腕を伸ばして剣先を塞がりつつある斬り痕に向け、柄の根本の引き金を引く。

 凝縮された虹光がレーザーとなってネフィリムの首を貫通し、細い穴を穿つ。

 ネフィリムは痛みを訴えるように細かく震え大きく身体を揺らすが、それで落ちるようなバランス感覚は持っていない。連続で十数回レーザーを発射して首に穴を開ける。向こう側には朽ちたビルが見える。

 再び剣を構え直す。両手で掴んだ柄に虹光を流しながら水平に倒して軽く左後方へ引き、塞がりつつある穴を誘導にネフィリムの肩を蹴る。

 揺れる足場を駆ける。一歩目で8メートルを越え、二歩目で7メートルを踏み、三歩目で10メートルを越えて足を止める。その間わずか四半秒。ネフィリムの首の付け根に達して両足は揺れること無し。勢いを上半身に受け渡し、腕を前に振り、勢いをつけた剣を前に出す。

灯虹彩色レインボーワールド七光一閃セブントゥワン!」

 叫びながら剣に虹を注ぎ込む。剣より吹き出る虹光は通常時より多く、振るう勢いと相乗して刃は倍にも伸び、刃を撃ち出すように振り切った。

 ネフィリムの首は直径約40メートル。虹の刃はネフィリムから溢れる光を遮り、水平に虹を満たして首の上下を繋ぐ神光をわずか数メートルを残して絶ち斬る。

 イリスはさらに一歩を踏み込みネフィリムの首へと侵入する。繋がろうとする神光は上下から身を焼いて、虹光を纏っても遮り切れず防護服を侵食してくる。痛みに耐えながら、右へと振り切った剣を反動で返す刃にして神光を首の向こう側まで絶ち斬る。さらに一回転、首の全周に内側から刃を巡らせる。ダメ押しの虹光は首と胴体を完全に分断し、噴き出す神光に反発する虹光の勢いで首が胴体から落ちる。その向こうに、大地が見えた。

 ネフィリムの頭が落ちる。神光は噴水のように溢れ出し滝のように流れ落ちる。動きを止めた巨人はビルの残骸が残る荒野に立ち尽くした。

 イリスはネフィリムの肩へと移動する。首の断面は光を湛え直視できない。──おかしい。ネフィリムが自壊しない。いつもなら、首を落とせば全身の神光も弱まりすぐに崩壊する。腕や脚だとしても傷口を縫うように光は治まる。でも、これは光が弱まってはいるものの停止しているだけだ。どうして。

『上っ!』

 切羽詰まった男性の声。通信機からだ、と思った時にはネフィリムから飛び降りていた。

 落ちながら上を見る。

 灰色の雲から光輪が降りてきていた。そこから糸のような細い光が伸びている。その先が首を失ったネフィリムの身体へと繋がっている。足に、手に、身体に、首の断面に。糸の根本は、雲から降りてきたネフィリムの背中に。

 新たなネフィリムは空中に浮遊したまま動かない。その代わり、《首なし》が再び動き始めた。足が軽く引かれ、突如前へ出る。強烈な蹴りあげは地表の砂を巻き込んで空気を爆発させ、落下中のイリスをネフィリムから遠ざける方向に吹き飛ばす。

「これは、厄介……」

 ネフィリムの光糸はさらに増え、雨のように背中から地上に降り注ぐ。行き着く先は地上。ネフィリムの正面、半径500メートルほどの半円状の大地に光糸は突き刺さる。糸はすぐに引き抜かれ、その先には大小様々な生き物の輪郭が魑魅魍魎かのように光っていた。

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