行かないで、と言わないで。

架橋 椋香

行かないで、と言わないで。

「夢は、見るものじゃない、知るものだよ。」

 そのことを知ったのは、今日の朝、朝食の汁物を啜っていたときだ。少食な私は朝食はいつも汁物だけで済ませるのだけれど、そのときに声が聞こえた。

「朝食に汁物を食べるのは、身体が温まっていいね」

 私は驚いて、「うわっ」と言って、朝食の入った特に装飾もされていない木製のを机に落としてしまった。

 それから私は辺りを見回す。誰もいない。若い男性の声がしたはずだけど、気のせいかも知れない。もし気のせいなら、私は傍から見ればなかなか滑稽だろうと考えていると。

「驚かせてしまって済まない。でも説明している余裕もないから、一回で覚えてくれ。」

「夢は、見るものじゃない、知るものだよ。」

 最後の一言。「夢は、見るものじゃない、知るものだよ。」直接脳に響くようで、素直に脳に浸透し、思想が伝播する。街は研磨剤みたい。



 駅まで送っていこうか?そんなフレーズが頭をよぎる。

こころの雨は正直言ってバカみたい。年賀状にも白黒あって、いいじゃないか。

夢は夢のまま、喧騒に削られ磨かれ、摩耗していく。


街はやっぱり研磨剤だ。


この世のすべてをなす術を必死にもがきながら、探す。差額を無くす。世界と自分を統一する。そのために街の列車は日々轟音を響かせ、人を轢き続ける。街はいつだって人格を殺し続け、ともに同じ条件でものを生産することを願い続ける。



「以上の情報が脳に一度に伝播したため、システムを一時停止いたします」

そう言って脳が休憩状態になってから、再び再生すると朝焼けが世界を語るかのように輝くものだから、私困ってしまって、結局生産することなんていやなものだった。

 だから『行かないで』なんて無責任なこと、言わないで。


この物語は、とりあえずここでおしまい。

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行かないで、と言わないで。 架橋 椋香 @mukunokinokaori

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