第304話 本来の姿です!

 押さえ込んでいた魔力を解き放つ。

 瞬間、世界が唸る。

 空気が軋み、地面は悲鳴を上げ、大気が震える。


「これは……」


 背後でコレール達と一緒に観戦しているリーリスがブルリと身体を震わせる。

 僕のやろうとしている事を察した様ですね。

 騒音攻撃と言う嫌がらせへの仕返しに相応しい一撃、それは……


「星天魔法」


「さ、さらに魔力が、エネルギーが跳ね上が……」


 愕然と呟きを漏らし、僕を見上げていたゼサータレンが目を見開いて動きを止める。

 真っ赤に染まった空と、そこから覗く巨大過ぎる赤い塊に……


「グラン・シャリオ!!」


 騒音攻撃への仕返しに相応しい攻撃。

 それは星天魔法を用いた轟音と凄まじい衝撃、さらには視界を埋め尽くすほどに舞い上がる爆風と煙!!

 ふっふっふ! せいぜい苦しむがいいっ!!


「し、神能〝獄炎ノ王・獄炎槍〟!!」


 全長十数メートルはあろうかと言う、黒き輝きを放ちながら流動する巨大な黒槍。

 サイズでは圧倒的に隕石の方が巨大ですが……


 ゴゴウゥッッ!!


 放たれた黒槍の穂先が隕石に触れた瞬間、一瞬で隕石が燃え尽き、塵と化す。


「ですが……」


 リーリスは神能を展開した状態で、バリアを張って4撃耐え切りましたけど。

 今回は前回のリーリス戦の時とは違う。


 元々神能を上乗せして放っている隕石に、更に滅光魔法の層を作ってますからね。

 ゼサータレンが迎撃に放った獄炎槍は削られ、その威力を落とす事になる。


「なぁっ!?」


「何撃耐える事ができるのか、見ものですね」


 塵となった一つ目の隕石の影から姿を見せた二つ目の隕石にゼサータレンが驚愕の声を漏らす。

 一つ目の隕石を塵と化した獄炎槍が、そのすぐ背後に迫っている2つ目の隕石に到達する。


 今度は一瞬では燃え尽きず、隕石に罅が入って砕け散る。

 黒炎に包まれた数メートルから十数メートル程度の隕石の残骸がゼサータレンの頭上から降り注ぐ。


 まぁ、その殆どが地上に届くまでに全て燃え尽きて、塵と化してますけど。

 幾つかは落ちてますし、ふっふっふ! 轟音と舞い上がる煙の鬱陶しさに辟易するがいいっ!!


 当然、事前に展開した滅光結界によってこっちに被害は一切無し!

 全ての被害を被るのは結界内のゼサータレンのみ。

 リーリスの時とは同じミスはしないのですっ!!


「くそっ! 一体幾つ……!」


「全部で七つ。

 残りは後、今見えているのを合わせて五つ、カンバです!」


 まぁ二撃目の様子を見る限り、限界は近いでしょうけどね。


「何なんだお前は! 何故それ程の力を……その膨大なエネルギーは何だっ!?」


 何だって、支離滅裂な事を言いますね。


「この翼を広げた状態が、僕本来の姿」


 この翼は羽一枚一枚に魔力を貯める事ができて、魔力の操作媒体および貯蔵庫の役割を果たしてはいますけど。

 有り余った魔力で満たしているに過ぎませんからね、貯蔵庫としての役割はあってない様なモノ。


「翼をしまっている状態の全力と、出している状態の全力では、後者の方が出力が出るのは当然でしょう?」


 分かりやすく例えるとドラゴンですね。

 ラノベ等でドラゴンが人間の姿になると、ドラゴンの姿の時と比べて弱体化する。

 ざっくり言うとそう言う事です。

 まぁ面倒なんで一々全部は説明しませんけど。


 それに何をそんなに驚く事があるんでしょうか?

 膨大と言っても、今の僕のエネルギー量なんてゼサータレンを上回る程度。

 ネルヴィア様曰く、シングルの中で最弱なフォルクレスの七割程度なのに。


 ふっふっふ! エネルギー量だけで見れば、最弱とは言え神々の頂点たるシングルのフォルクレスすらも凌駕しますからね。

 まだまだ驚くのは早いのですっ!!


「僕の全力はまだまだこんなモノじゃありませんよ?」


 ピキピキ……バキィッ!


 三つ目の隕石と衝突し数瞬の拮抗の末に獄炎槍が砕け散る。


「急がないとモロにくらいますよ」


「くっ! 神能〝獄炎ノ王〟!」


 焦燥に塗れたゼサータレンの声が、隕石の落下音に呑み込まれた。

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