第303話 鬱陶しいですっ!!

「このっ、小娘がっ!」


 せっかくの忠告を無視して、また激昂したゼサータレンに向かって地面を蹴る。

 直上的で真っ直ぐな切迫。

 学園の生徒達では反応すらできない速度でもゼサータレンなら簡単に対応できるハズ……ですが。


 怒りは正常な判断力を鈍らせ、視野を狭める。

 だからこそでしょうね、今目の前でゼサータレンが目を見開いているのは。


「はっ!」


 ゼサータレンの顔面目掛けて蹴りを振り抜く。


「っ!?」


 首を捻って回避したゼサータレンの背後の地面が抉れ、地面が割れて舞い上がる。

 咄嗟に躱しましたか、流石ですね……でも……


「とやぁっ!」


 ふっふっふ、変な咄嗟に躱した事が仇となりましたね!

 横腹がガラ空きです!!

 僕の鋭い回し蹴りをくらって吹き飛ぶがいいっ!!


「グッ……」


「む?」


「クックック、捕まえたぞ」


 まさか回し蹴りを受け止めて、さらに手で足を掴まれるとは……

 激昂して前が見えなくなっていると思ってましたけど、存外やりますね。


「離して下さい」


 嫌がる幼女の足を掴んでニヤニヤ笑うスーツ男。

 ヤバ過ぎる絵面ですね……目撃者がいれば通報されても不思議じゃない光景です。


「いいでしょう。

 お望み通り……離してあげましょうっ!!」


 ニタァと笑みを深めたゼサータレンが、僕の足を掴んだまま腕を振り上げる。

 離すってもしかして……まぁ当然ですよね。

 普通に離してくれるはずありませんよね……


「潰れろ小娘ぇっ!!」


 ゼサータレンが腕を振り下ろす。

 瞬間、凄まじい轟音が鳴り響き、地面が砕け、陥没して天高く煙が舞い上がる。


「クックック、まだまだこの程度ではないぞ小娘!!」


 距離をとって地面の崩壊から免れていたゼサータレンが高笑いをあげる。

 掌の上に浮かぶのは、拳大の小さな漆黒の球体。

 ゼサータレンが手を上げていくに従って、漆黒の球体も上昇して行き……


 ゴウゥッ!!


 頭上に至り、一気に膨れ上がる。

 そこに現れたのは小さな黒き太陽。

 呑み込まれそうな灼熱の黒炎が蠢き、周囲の空気を焼き焦がす。


「我が黒炎によって、一欠片の塵すら残さずに存在そのものを焼き尽くされるがいいっ!!」


 ゼサータレンが手を握り締めると同時に、巨大に膨れ上がった黒き太陽が幾多もの漆黒の球体に分裂する。

 そしてその数多くの球体が一斉に、崩壊した地面に向かって殺到する。


 一弾一弾が、常人を一瞬で消し去る熱量を誇る黒炎の弾が連鎖的に爆発し。

 破壊力を高め合いながら、天にまで届く程の黒炎を巻き上げる。


「クックック、クハッハッハッ!!

 ……まぁ、フォルクレスの前哨戦。

 準備運動としてはなかなかでしたよ」


 とかまぁ、高笑いしてくれちゃってますけど……

 本当にボンボン、ボンボンと鬱陶しい!

 連鎖して爆発するのは勝手ですけど、流石に長い! もう十分でしょう!!


 叩きつけられる瞬間に翼で体を包み込んで衝撃を吸収したと思ったらコレですか。

 好き勝手やってくれたものです。

 いくらこんなモノ痛くも痒くも無いとは言え、流石に煩いです!!

 少しは周囲への騒音被害を考慮して欲しいものですね。


「あぁ、もう! 鬱陶しいですっ!!」


 翼を思いっきり押し開いて、鬱陶しい黒炎を消し飛ばす。

 あれ? なんか凄くデジャブ感が……まぁいいでしょう、今はそれよりも騒音公害の加害者です。


「よくもやってくれましたね」


「な……」


 騒音を撒き散らしての精神攻撃。

 まさに意表を突く攻撃……でも、もう同じでは効きません!!


「アレをくらって無傷、だと?

 それに……」


 愕然としているところ悪いですけど。

 そっちがその気なら、もう僕も容赦しません!

 徹底的に自身の力に対する自尊心と自信をへし折って負かしてやりますっ!!


「騒音での精神攻撃、着眼点は良かったと言っておきましょう」


 翼をはためかせて、ゼサータレンの頭上に飛び上がる。


「何だお前のその姿は……いや、この膨大なエネルギーは……」


「しまっていた翼を出しただけですけど、それがどうかしたのでしょうか?」


 僕の翼は謂わば、エネルギーの貯蓄機関ですからね。

 しまっていたそれを出せば、僕のエネルギー量が跳ね上がるのは当然のことです。


「それはそうと……」


 何故か驚愕に目を見開くゼサータレンの頭上で、翼を広げて対峙し……


「滅光結界」


 一瞬にしてゼサータレンの周囲数百メートルを結界が包囲しする。


「次は僕の番ですね」

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