第259話 実技試験です! その3

「では、これより実技試験を開始します。

 ふふ、皆さんは運が良い。

 フォルクレス様のようにシングル神のゴーレムと手合わせ出来る機会なんて普通はありません。

 先程も言った様に実技試験は1人ずつ試験を行いますが、そんな貴重な体験を最初にしたい方は……」


「「はいっ!」」


 くっ、僕以外にも手を挙げる人が居ようとは!

 しかも……


「希望者はルーミエルさんとアイリースさんですか」


 怖いっ! 一緒に手を挙げて、声がハモッただけなのに、何故かめっちゃ睨まれてるんですけど……

 ツンデレのデレは何処に行ったんですかっ!? これではかなり怖い、ただのツンです!


 と言うか、普通挙手しますか?

 ケルベロスの強さは全員ある程度は分かっていたようですけど。

 先程の様子を見るに、受験生諸君はフォルクレスゴーレムの強さをよく分かっていない。


 現に他の受験生達がしている様に、今は様子見をするのが正しい解答と言えます。

 それなのにアイリースさんときたら……怖いから目を合わせないでおきましょう。


 しかしこの場合、どうやって順番を決めるのでしょうか?

 妥当なところで言うとくじ引きでしょうけど……僕的にはジャンケンが最良ですね。

 ジャンケンは瞬発力と動体視力がモノを言う超実力勝負、確実に勝つ自信があります!


「では、私がどちらが最初に相応しいか、見極めましょう」


 余裕ある上位者と言った風な微笑みを浮かべて、偉そうなことを言ってますが。

 絶賛、メルヴィーのフラストレーションが急上昇中と知ればどんな顔をする事やら……

 ちょっと見てみたいですね、念話で教えてやりましょうか?


「うん、こっちのお嬢さんの方だね。

 アイリースと言ったかな?」


「は、はいっ!」


 フォルクレスに名前を呼ばれて真っ赤になるアイリースさん。

 見た目だけで言えば、確かに端正な顔立ちですけど……騙されてますよっ!

 アイリースさん、完全に恋する乙女って感じですね……


「最初に相応しいのはキミだ。

 もう1人のルーミエル君は……うん、キミは一番最後が良いね」


 なっ!? フォルクレスめぇ……!

 あの顔っ、絶対にわざとです! 揶揄って、嫌がらせしているとしか思えませんっ!!


「ふんっ、当然ね。

 シングルであるフォルクレス様は貴女の不正なんてお見通しなのよ!」


 うぅ、アイリースさんも勝ち誇った顔をして、鼻で笑ってますし……

 ここまでコケにされたのは久しぶりです! 絶対に後でアイリースさんの腰を抜かしてやりますっ!!


「では、初めはアイリースさんから実技試験を開始します。

 アイリースさんは訓練場に降りて下さい」


「分かりました」


 勝ち誇ったままの顔で、観覧席から訓練場に飛び降りるアイリースさん。

 この感じ……もしかすると重大な勘違いをしていたのかも知れませんね。

 アイリースさんはツンデレでは無く……悪役令嬢タイプなのかも知れませんっ!


「危険ならゴーレムは自動で止まるけど、万が一の場合は私が直接助けに入るから、安心して大丈夫だよ。

 全力で頑張ってね」


「は、はい! ありがとうございます!!」


 いや、これはツンデレですね。

 デレが出てます! ツンが激しいけど、確実にツンデレですっ!


「では……実技試験、開始っ!」


 試験官さんの掛け声と共に、アイリースさんのエネルギー量が跳ね上がる。

 纏う魔力の質と量が膨れ上がり、溢れ出る魔力によって大気が渦巻き、空気が弾けて紫電が走る。


 流石は魔力量計測で5億超えの数値を叩き出しただけはあります。

 到達者である十剣の皆んなとは比較にならない魔力ですね。


 ステータスには映らなくなりますが。

 超越者に至り、神種族になった事で全ステータスが跳ね上がる。

 それでも他の受験生達は1億2000万程度な事を見れば、彼女は規格外とも言えますが……


「轟け! 轟雷っ!!」


 天から降り注ぐ極大の雷。

 一般人が受けたら消し炭になりそうですが、雷が直撃する直前にゴーレムの周囲に出現した結界。

 残念ながら、ゴーレムには埃ひとつ付いていません。


 とは言え、それはアイリースさんにとっても分かり切っていた事。

 あの雷は敵の視界を奪う為の陽動ですね。


「はぁっ!!」


 ゴーレムの足元に浮かび上がる巨大な三重魔法陣。


「神の雷鳴に滅っされよ! 雷霆っ!!」


 魔法陣から放たれるは黄・青・黒の3つの雷光。

 それらがそれぞれの魔法陣によって合わさり、増幅される。

 先程の雷とは比較になら無い程に膨大な破壊力を持つ雷柱がフォルクレスゴーレムに降り注ぐ。


 既にアイリースさんは肩で息をしていますし、最初から全力で向かったのでしょう。

 確かに凄まじい威力ですね。

 アレならゴーレムの結界程度は容易に貫き、多少なりともゴーレムに傷を付ける事が出来たでしょう。

 ……ただし直撃していれば、の話ですけど。


「なっ!?」


 アイリースさんの口から驚愕の声が漏れる。

 雷光を利用してアイリースさんの背後をとったフォルクレスゴーレム。

 流石はシングル、フォルクレスのゴーレムですね。

 全力の攻撃を放った直後のアイリースさんには見切れなかったのも無理は無い速さです。


「かはっ!」


 即座に振り返ったアイリースさんの鳩尾にフォルクレスゴーレムの回し蹴りが突き刺さり、アイリースさんの体を吹き飛ばす。


 観覧席と訓練場を遮断する結界に叩き付けられ、それでもなお意識を保っている事は評価に値しますが。

 アイリースさんの膝が折れる……限界ですね。


「それまで!」


 試験官さんの判定を聞いて、アイリースさんが前のめりに倒れ伏す。

 受験生の女の子相手に容赦ないですね。


 まぁ即座に回復させられて、ダメージは一切残ってなさそうですし。

 フォルクレスを尊敬の眼差しで見つめ、悔しそうな顔をしてるし、大丈夫でしょう!


 他の受験生達も頑張ってはいますが、アイリースさんは他の受験生と比べて頭一つ飛び退けてますね。

 評価で言うと、アイリースさんは信じられ無いくらい善戦したと言えます。


「では、次は最後のルーミエルさん、訓練場へ移動して下さい」


「分かりました」


 やっとです……やっと僕の番が来ましたっ!

 アイリースさんは既に勝ち誇った顔をしてますけど……今はそんな事はどうでも良い!

 さぁ! フォルクレスゴーレム、サンドバッグの時間ですっ!!

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