第258話 実技試験です! その2

 ケル、ベロスっ!!

 狼の様に凛々しく、カッコいい!

 艶があって、撫で心地が良いだろう事が容易に想像できる見事な毛並み!!


 まさに雷に打たれた様な衝撃とは、よく言った物です。

 これ程までに凄まじい破壊力、かなり危なかったですね……


 ベヒーモスは厨二心を擽るカッコよさを誇り。

 フェンリル達もカッコよくて、可愛いですけど……ケルベロスも負けていない!

 あぁっ! 撫でたい、愛でたい、モフりたいっ!!


 あの巨大に抱きついて存分にモフり倒したいっ!

 しかし……今の僕は女性達が憧れる、カッコイイ女性。

 モフモフを前に取り乱して、はしゃぐ事は許され無いっ!!

 とは言え……


「うぅ……」


 ま、まずい、ポーカーフェイスです!

 余裕のある態度を保って、内心の動揺を悟られ無い様にし無いと……

 と、取り敢えず落ち着くのです! ひっひっふー!


「皆さん落ち着いて」


 はっ! 興奮を隠すのに必死で気付きませんでしたが、どうやら他の人達もかなり動揺していた様ですね。


 これなら恐らく、子供みたいに目を輝かせて、興奮していた事は気付かれて無いでしょう。

 しかし、モフモフの不意打ちを仕掛けてくるとは……流石は最難関の学園、油断なりませんね!


「先ほども言った様に、この観覧席は強固な結界で守られています。

 いくらケロベロスと言えども、破壊する事は不可能です」


 とは言え、ケルベロスを目の前にしてモフれ無いとは。

 せめて、見るくらいは許されて然るべきですね!

 順番がどうなるかは知りませんが、あの凛々しい姿をしっかりとこの目に焼き付け無ければっ!!


「これで私の言う事が納得して頂けただろうと思います」


 試験官さんが話しを真面目に聞いているふりをしてケルベロスを見つめる。

 完璧です! これで、誰も僕が内心凄く興奮している事には気付きません!!


 あのフワフワしてそうな首なんて、とっても撫でたいですね。

 フェンリルやベヒーモスも一緒に、晴天の草原でお早寝なんてのも……

 あっ! 目があった、ラッキーです!!


「く、くぅん……」


 あ、あれ? ケルベロスの様子が……もしかして体調でも悪いのでしょうか?

 それなのに受験生の相手をし無いといけないなんて、可哀想に……

 今すぐ駆け寄って抱きしめたいっ!


「くぅん〜」


 おぉっ! 伏せです、ケルベロスが伏せしてます!

 しかも、上目遣いっ! 伏せてし上目遣い……可愛すぎますっ!!

 しかもしかも、首が3つあるから、破壊力も3倍! 一瞬、抱き着きに行っちゃいそうでした。


「こ、これは一体……?」


 何か皆んながまた騒つき始めましたね。

 やっぱり、皆んなもあの破壊力抜群のケルベロスの仕草には耐え難いと言う事でしょう!


 さっきまで殺気を振りまき、低い唸り声を上げ、牙を覗かせ。

 夥しい涎を滴らせていた姿からは想像もつかない愛くるしさですし、当然ですね。


「あのケルベロスが怯えて……いや、これは服従?

 しかし、一体何故……」


 おっとマズイ、ケルベロスを見つめてしまっていたようですね。

 何やら呟いていた試験官さんと不意に視線が合っちゃいました。

 まぁ取り敢えず、ポーカーフェイスで営業スマイルを浮かべておきましょう!


「嘘でしょう……」


 む、試験官さんが疲れた様な苦笑いを。

 やっぱり、魔力量計測で水晶を消滅して、迷惑をかけてしまったせいでしょうか?

 う〜ん、仕方ありませんね、後で復元してあげるとしましょう。


「あ、あの、試験官。

 これは一体、どう言う……?」


「アイリースさんも、他の皆さんも落ち着いて下さい。

 ケルベロスは完全に服従の意を表していますので、暴れて襲い掛かるなんて事はまずあり得ません」


「ふ、服従?

 ケルベロスはナンバーズに名を連ねる程高位の神々とすら渡り合うと聞きました。

 何故、あのケルベロスがそんな事を……いえ、そもそも一体、誰に服従していると言うのですか?」


「それは……」


 あれ? 試験官さん今一瞬、チラッと僕を見ませんでしたか?

 僕はケルベロスを見つめてただけなのにっ! 解せませんね!


「私達、学園側としましても初めての事ですので、ハッキリとは断言できません。

 しかし、これでは実技試験は無理そうですね……」


 えっ! それってつまり、あの愛くるしいケルベロスを痛めつけなくて済むって事ですよね?

 ふぅ、これで安心です!


「その心配はいらんよ」


「受験生諸君、頑張っているかな?」


 突然の声にアイリースさんを含めて受験生達に騒めきが走る。

 いつか来るとは思っていましたが、やはり来ましたね……


「学園長! それにフォルクレス様まで!

 な、何故、お2人がこちらへ?」


「いや何、少し思うところがあっての」


「まぁ、計測用の水晶が全て消滅させられたと聞いたからね」


 な、何故2人もこっちを見るんですかっ!?

 しかも、試験官さんも納得した様に頷いてますし……


「とは言え、ケルベロスが完全に戦意喪失しているとはね……」


「え、ええ、こんな事は初めです」


「仕方ないね。

 この組みだけ実技試験無しなんて事には出来ないから、私が一肌脱ごう」


 微笑みを浮かべるフォルクレスの言葉に、騒つきが一際大きくなる。


「おや、良いのですかな?」


「構わないよ。

 将来有望な受験生達の実力も見たいと思っていたからね。

 とは言え……」


 チラッと視線を投げてよこすフォルクレス。

 な、なんでしょうか? 水晶の事は絶対に謝りませんからね!

 だって全力で良いって言われましたし!


「私が直接、と言うのは流石に危険だし。

 私のゴーレムを実技試験の相手にしよう」


 パチン、とフォルクレスが指を鳴らすと同時に、フォルクレスと瓜二つなゴーレムが出来上がる。

 その光景を目の当たりにしてどよめく受験生達。

 確かにあのケルベロスと同等程度には強いゴーレムですけど、皆んな大袈裟ですね。


 しかし、これはアレですね。

 ゴーレムがフォルクレスの姿をしているなんて、喧嘩を売られているとしか思えません。

 良いでしょう、その喧嘩買ってあげましょう! 今までの鬱憤を晴らしてやりますっ!

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