第109話 感動の再会です?

「とは言え、あまり遊んでいる暇は無さそうですねぇ。

 仕方ありません、コイツの試運転の実験材料にでもなって頂くとしましょう!」


 そう言って、白衣の男が懐から取り出したのは中身の見えない真っ黒な瓶。

 その気になれば、瓶の中身を覗く事は容易いですが……まぁ良いでしょう。


 初めから全部わかってしまっては面白くありません。

 深淵で学んだ教訓には反する事になってしまいますけど。


 深淵で学んだ教訓。

 例え圧倒的な力の差があったとしても、必ず勝てるとは限らない、油断や慢心を抱けば死を招く。


 ですが、現状は異なります。

 何せ、例え僕が窮地に陥ったとしても、今の僕には皆んながいますからね!


「キミ達が地面に這いつくばり、無様に泣き叫びながら許しを乞う姿を見られないのは些か残念ですが……」


 余裕の笑みを浮かべながら、瓶の中身を空中にばら撒きました。


「これは…」


 今の僕の嗅覚であれば、その味は勿論、どの様な素体から採取されたのかまでわかってしまう赤い液体。


「血、ですか」


「そうっ! よくお分かりになりましたねぇ!!」


 良く出来ました、と言うような微笑みを浮かべて頷く白衣の男。

 いちいち所作がムカつきます、でも……


「おぉ、魔力を含ませているのですか」


 空中にばら撒かれた血液は、重力に逆らい、地面に落ちる事なく宙に漂っています。


「驚きました。

 ですが残念、それがわかったところでキミに出来る事は死を待つ事だけでぇす!」


 白衣の男がニヤッと顔を歪ませると、漂っていただけの血液が魔法陣を描き始める。


「召喚魔法、開け血門っ!!」


 そう声高々に叫ぶと同時に、構築された血液の魔法陣がその効力を発揮する。

 そして……


「スライム、ですか?」


 そこにいたのは、巨大なスライム。

 言わずと知れた最弱の代名詞ですが、わざわざ血液を媒介にしてまで召喚したからには、ただのスライムでは無いのでしょう。


「その通り!

 私が作り上げた究極の生命体ですぅ!!

 物理攻撃、魔法を魔力に変換して吸収し、その魔力を用いての半永久的な再生力!!

 実戦で使うのは初めてですが、せいぜい足掻いてぇ?」


 チュンッ、と空気を焼く音に白衣の男は目を極限まで見開いて固まりました。


「ふむ、なるほど。

 その吸収と再生がどれ程のものかは知りませんが、取り敢えず貫通させる事は出来る様ですね」


 僕の視線の先には、巨大なスライムに出来た鉛筆ほどの太さの穴と、その奥にいた白衣の男が肩から血を流す姿。


「痛いっ!? イタイっイタイっイタイっ!!

 私の肩がぁぁっ!?」


 うん、肩を貫かれたら痛いですよね。

 でも、コイツがやってきただろう事を考えるとこの程度で悲鳴をあげられては困ります。


「煩いです」


「ギャァァアッ!!」


「黙らないと次は左足を貫きますよ?」


 そう言って、軽く頬をかすめると漸く黙りました。

 黙った事で少し冷静さが戻ったのか、僕の事を睨みつけてきます。


「き、貴様ぁ、この私にこの様な事をして生きていられると思っているのかぁ?

 私は教団の最高幹部が一人、ディベル様だぞ!?」


 なる程、初めて会いますがコイツは教団の人でしたか。

 しかも最高幹部……けどまぁ今はそんな事はどうでも良いです。


「お前が何者かはどうでも良いです。

 けど、先ほどお前が使った血液、アレはお前の血液では無いですよね?」


 先ほどの血液。

 あの血は女性、それも未成年のものです。


「しかも、あの血液の状態。

 お前がその人をどの様に扱っていたのか……胸糞悪いですね」


 あの感じからすると、素体の女性は既に殺されています。

 それに血液に僅かに残った烈火の如き屈辱と僅かながらの恐怖の思念。

 複数名の人間、ゴブリンなどに弄ばれた形跡が見られます。


「っ! デモン・スライム、速く奴らを皆殺しにしろっ!!」


 ディバルの命令を受けてスライムが数体に分裂し、スライムからは想像もつからない速度で襲いかかって来ます。


「確かに、スライムにしては強い様ですが……それだけです」


 覆いかぶさる様に向かってきたスライムを軽く払うと、それだけでスライムが弾け飛びました。

 所詮はスライム、と言う事でしょう。


「けど、この無数に分裂しての波状攻撃は鬱陶しいですね。

 滅光魔法・ホーリーフィールド」


 深淵の試練でお馴染みのホーリーフィールド。

 深淵の試練の魔物達ですら消し去るこの魔法を前にスライムが無事な筈もなく。


「そ、そんな…バカな……」


 スライムだけを選定して消し去り、一人残ったディベルが唖然と呟きました。


「早く終わらせるつもりでしたが、お前には話を聞かなければなりませんね。

 取り敢えず、逃げれない様に足を潰しておきますか」


「ま、待って下さいっ!!

 ほ、本当に私に手を出すと教団が動きますよ?

 そうだっ! 取引しましょう、キミも魔教団の噂は知っているでしょう?」


「取引ですか?」


「えぇ。

 この場で私を見逃すのならば、今回の一件で教団が動かないと約束しますよ?」


「話になりませんね」


「どうやらキミは教団の力が良くわかっていないようですねぇ」


「教団の力?」


 確かに、この程度の奴があの血液の持ち主を捉えたとなると、何らかの力を隠し持っているのでしょう。

 何せ、あの血液は吸血鬼、それもかなり上位の存在のものですからね。


「えぇ……ですが、どうやら時間切れの様です」


「それはどう言う…」


 事ですか? と言う僕の言葉を遮ってディベル目掛けて炎の魔法が飛んできました。


「ひゃっひゃっひゃっ! 無駄話に付き合って頂けて助かりましたよぉ!!

 まさか、キミが彼らより余程強いとは想定外でしたが、天は私に味方した様ですねぇ。

 では、私はこれにて失礼しますねぇ?」


 一瞬、炎の出どころに意識を向けた隙をついて、ディベルが魔法で煙幕を起こし。

 そんな言葉を残しつつ事前に用意していたであろう転移魔法を用いてディベルが消えました。


「くっそぉ!」


 思いっきり地面を踏み込んだ事で、地面が陥没しました。

 邪魔が入ったとは言え、取り逃すなんて……


「はぁ、これは後で鍛え直す必要がありますね」


 てか、ディベルが来た時も思いましたが。

 これってやっぱり、自動で再ポップする様にしてませんでしたね……


「それにしても……」


「お嬢様、ご無事ですか?」


「はい、ですがディベルを取り逃してしまいました……けど、今は彼らの対応ですね」


「その様ですね」


 僕の隣まで移動してきたコレールと共に、先ほどの炎の出どころに視線を移すと。

 そこには十数名の人、かつてのクラスメイト達の姿。


「感動の再会、ってやつですかね?」

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