第110話 それでは皆様、良い一日を

 各々、武器を構えて臨戦態勢をとっている勇者達。

 出来れば、素直にUターンして帰ってくれたら楽なんですけど……


 この様子を見るに、帰ってくれそうにありませんね。

 こんな幼気な幼女に武器を向けるなんて、勇者にあるまじき行為ですよっ!


 しかし、本当にどうしましょう。

 何この沈黙、キツいんですが……そもそも、いきなり乱入してきたのに名乗りもしないとは。

 勇者のくせに、テンプレがなってません!!


「貴方達は何者ですか?」


 おぉ! 向こうから話しかけてきてくれました。

 うんうん、やっぱり彼等もこの沈黙が辛かったに違いありません。

 良くやってくれました、学級委員長!


 とは言え、流石に元クラスメイト達と面と向かって何を話せば良いのか分かりません。

 しかし! 僕には奥の手、コレールにお任せがあるのです!!


 さり気なくコレールにアイコンタクトを送ると、微笑みながら頷きました。

 流石コレール! お任せ下さいってその目が語っています。


「突然攻撃を仕掛けておいて、謝罪も無しとは……

 我々が名乗る前にそちらが先に名乗るのが礼儀なのでは無いでしょうか?」


 やれやれ、と言った風に軽く首を振り、子供を促す様に言うコレール。

 コレールだけでなく、皆んなリーヴ商会を発足してから、こう言った駆け引きが上手くなりましたね。


 コレールなんて、もう既に大商会の商会長としての貫禄が凄い。

 流石は万能執事です。


「攻撃って、こっちはその子をアイツから助けてやったんだぞ!」


 と声を上げるのは……おおっ! 懐かしい。

 キミは修学旅行の時の難癖君じゃないですか!!


 キミがそう言うって事は、ディベルとの戦闘は見られていないって事ですか。

 あの戦闘を見られていたら、誤魔化すのが面倒なので助かりました。


「貴方の言い分はそうかも知れません。

 ですが、貴方方の魔法によってお嬢様が危険に晒されたのは事実です」


「何だと?」


「まぁまぁ、日高も落ち着いて。

 名乗るのが遅れました、俺は稲垣 涼太、アレサレム王国の勇者です」


 まぁ、知ってましたけどね。

 もうここはコレールに任せて、僕はネコ耳に行ってもいいでしょうか?


「そうですか。

 私はコレールと申します、以後お見知り置き下さい」


「ではコレールさん、幾つか質問しても?」


「答えられる範囲であればお答えしましょう」


「では、貴方達は何故この場所に?

 ご存知だとは思いますが、ここは命の危険がある迷宮です。

 子供を連れて来るような場所ではありません」


 そう言って、稲垣は僕とフェルにチラッと視線を向けました。

 何故かニッコリと微笑まれましたが、一体何がしたいのでしょうか?


「この場に来た理由は機密です。

 申し訳ありませんが、お答えできません」


「そう、ですか。

 じゃあ、ここに来るまでに居た魔物が何処に行ったのか、知っていますか?」


「あの魔物共でしたら我々が始末しました」


 淡々と答えたコレールの言葉に、勇者一行が唖然なる。


「おいおい、俺達をナメてんのか?

 俺達でさえ12階層まで行くのがやっとだったんだぞ!」


 マジですか!

 何であんな低階層で引き返したのか疑問でしたが、まさか普通に実力だったとは……


 修学旅行で絡んで来た……日高君、でしたっけ?

 ハッキリ覚えてませんが。

 取り敢えず、思わぬカミングアウトをしてくれましたね。


「そうだよ、あんまり権力を笠に着る様な事はしたく無いけど。

 ここで隠し事をしても後々アレサレムが出てきて、どうなるかわからないよ?」


 ちょっとムッとした顔でそう言ってきたのは、クラスの双子の妹、双葉 真衣。

 確かにその脅しは、高位の冒険者にも有効でしょう。


 けど、僕達には悪手以外の何でもありませんね。

 僕は勿論の事、皆んなもアレサレムには良い感情を抱いていませんからね。

 この状況では最悪手でしかありません。


「ご安心を、お嬢さん。

 アレサレム王国が、我々に害を成すのであれば、我々もそれなりの対応をさせて頂くだけですので」


「それなりの対応?

 ハッ、一般人が調子に乗ってんじゃねぇぞ!

 お前如きがアレサレム相手に何が出来るってんだよ!?」


 何かもう、日高が三下の雑魚にしか見えなくなってきました。

 言うなれば、フェーニルでの3人組と同列ですね。


「申し上げておりませんでしたでしょうか?

 私はとある商会の商会長を務めているのですが……」


「あぁ? だから何だってんだよ?

 たかが一商会の分際で国に、勇者に楯突くんじゃねぇよ。

 俺たち勇者がお前の商会を使わないって言いふらせばどうなるのか、分からねぇのか?」


 あ〜あ、コレールの言葉を遮って、遂に言っちゃいましたね。

 日高の性格を見て、この言葉を引き出すのがコレールの狙いだと言うのに。


「おい、日高……」


 稲垣が日高を諫めようとしますが、もう遅い。


「そうですか。

 では今後一切、我々の商会を勇者殿達はお使いにならないと言う事で宜しいですね?」


「は? お前、何言って……」


「では、各店舗にその様に通知致します。

 アヴァリス、お願いできますか?」


「ええ、分かりました」


 勇者が使わないと広めるって脅せばこちらが焦るとでも思っていたのでしょう。

 コレールの対応に戸惑っている日高を他所に、指示を受けたアヴァリスが転移でこの場から消えました。


「「「っ!?」」」


 その光景に、驚愕を露わにする勇者一行。

 イヴァル王達から聞いてはいましたが、どうやら本当に転移魔法って凄いみたいですね。


「そう言えば、先程はその方に遮られたので、まだ申し上げていませんでしたね。

 改めまして、私はリーヴ商会の商会長を務めております」


「えっ! リーヴ商会ってあのっ!?」


「貴方方は全リーヴ商会の支部、系列店、及び経営施設の使用は出来ませんので悪しからず」


 唖然と呟く、勇者一行を全く意に返さずに淡々と告げるコレール。


「う、嘘……」


「残念ながら本当ですよ、お嬢さん」


 コレールの言葉を受けて双葉姉妹も、軽く青ざめる。


「しかし、勇者殿達に使わないと公言されると流石にアレサレム国内での活動は難しくなりそうですね。

 仕方ありません……」


 その言葉で、一斉にコレールへと勇者一行の視線が集中する。


「アレサレム王国から王宮への招待を受けていたのですが。

 お断りしてアレサレム国内から撤退するとしましょう」


 無慈悲な微笑みを浮かべながら、勇者一行を完全に無視してそう呟きました。


 これは中々に酷いですね。

 上げてから落とす、今はコレールが悪魔に見えます!!


「そう言えば、皆様は我々が魔物を始末したと言う事を信じていらっしゃらないご様子。

 事実を虚偽と思われるのは心外ですので、少し我々の力をお見せしましょう」


「ちょ、ちょっと待って下さい!」


「それでは皆様、良い一日を」


 お腹に手を添えてコレールが一礼すると同時に、勇者達が消え失せました。

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