第106話 デジャブです!!

「まさか、ここで最後だったとは……」


 獣の王と称されるベヒーモスのバーゲンセールをコレールが容易く捌いた後、下の階層に下がってきたのですが。

 厳かで重厚感がある巨大な扉、そして……


『最終試練』


 と、書かれた旗が高々に掲げられていました。

 この迷宮を造った方は、絶対にふざけた奴なのは確定でしょう。


「お嬢様、あの者はエンヴィーとはまた違った変態ですのでお気をつけ下さい」


「変態って!?」


「わかりました」


 変態と言われて反論の叫びを挙げたエンヴィーを綺麗にスルーして頷きました。


 メルヴィーを含め、エンヴィー・リンチ事件に関わった3人の中ではエンヴィーは変態と認識されてています。

 因みに、メルヴィーはエンヴィーの事だけは絶対に敬称をつけて呼びません。


 まぁ、皆んなは文字通り一蓮托生の家族ですけど、関わらない方がいい事はあるのです!

 踏み込んではならない闇というやつです。


 それにしてもエンヴィーは兎も角、メルヴィーがここまで辛辣な評価を下すとは。

 いったい、この扉の奥に待ち受けているのはどんな人なのでしょうか?


「ご安心下さい。

 何かあれば、私が始末致しますので」


「は、はい」


 微笑んでそんな物騒な事を言うアヴァリス。

 メルヴィーもですけど、いつも温厚なアヴァリスまでも……本当に何があったんでしょうか?


「じゃあ、行きますよ」


 この扉の開け方は分かっています。

 だって、深淵の試練で散々見て来ましたからね。


 扉に手を当てると思った通り、自動的に扉が開いていき。

 両開きの扉の隙間から光がのぞく。


「こ、これはっ!?」


 今までの階層の、暗い無機質な部屋とは打って変わって、そこに広がるのは真っ白な空間。

 何処となく、神界を連想させるその場所の中心には……



 ぴこぴこ



 周囲の光景なんてどうでもいい!

 僕の視線はもう、に釘付けです!!


「どうやら、お客のようだね」


 部屋の中心にいた男の人が僕たちの方に向き直りましたが、それもこの際別に構いません。


「ね…」


「ね?」


「ネコ耳ですっ!!」


 そう! その男の人の頭の上にある2つの白いネコ耳!!

 時々、ぴこぴこって動いてますよっ!?

 触りたい! 今すぐもふりたいっ!!


「お、お嬢様、落ち着いて下さい!」


 ネコ耳に向かってスタートを切ろうとしたところで、背後からメルヴィーに捕まってしまいました。


「あぁっ…ネコ耳が」


 メルヴィーに抱っこされてしまったので、いくら手を伸ばしてもネコ耳をもふれません……も、もどかしいです!


「メルヴィー…」


「ダメです」


 即答されました。

 まだ何も言ってないのに……


「こんな幼女に、あの数のベヒーモスがやられたと言うのか……」


 メルヴィーの腕の中で項垂れていると、そんな呆れたような声が聞こえて来ました。


 まぁ、そう思いますよね。

 自分で言うのもなんですが、僕の見た目は無力な幼女ですからね。


 でも残念。

 ベヒーモスの相手をしていたのは、僕では無くコレールです。

 無論、僕でも容易に出来ますけどね!


「貴方如きがルーミエルお嬢様の事を〝こんな〟だなんて……死にますか?」


 隣から聞こえて来たその声に、思わずビクッと震えました。

 恐る恐る隣を見ると、いつになく冷たい声のアヴァリスが、いつになく冷たい笑顔を貼り付けていました。


「ん?」


 そして、偉ぶったようにアヴァリスを見て、ネコ耳さんが驚愕に目を見開きました。


「も、もしや、貴女は九尾殿では?」


 絞り出したような、彼の声は僅かに震えていました。

 彼とアヴァリスとの間に何があったのか、気になりますね。


「あら、あれだけ躾けてあげたのに、もう私の顔を忘れてしまったので?」


 首を傾げてニッコリと微笑むアヴァリスとは対照的に、ネコ耳さんは滝の様な汗を流しながら固まりました。

 デジャブです!!

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