第105話 最強の幼女姫
「はぁ…」
もう何度目かもわからない、ため息をつく。
僕たちは今、勇者一行が本当にアルテットに帰還したのを確認し、火炎の試練に訪れています。
火炎の試練は深淵の試練よりで、その内容は神聖の試練とは全く異なる。
ダンジョン内は深淵の試練ほど広くはありませんが、下に連なる多層構造になっていて、戦闘をするには十分な広さがあります。
そして、深淵の試練と最も異なる点は、その全ての階層が深淵の試練で言うところのボス戦だと言う事です。
深淵の試練が魔物が蔓延る魔境だとすれば、ここは終わりの無い闘技場と言ったところでしょうか?
並大抵の人なら、早々に諦めて逃げ出すでしょうね。
尤も、僕が先ほどからずっと、ため息をついているのは場の理由があるのですが……
「どうして、あんな事に……」
「ん、エルが、調子に乗ったから」
「うっ…」
フェルの容赦のない言葉が僕に深々と突き刺さります。
昨日、コレールがクレーマーを撃退した後、予定通りにカジノルームへと向かったのですが。
実は僕たちリーヴ商会が経営しているカジノには、一風変わったルールがあります。
それは、〝バレなければイカサマをしてもいい〟と言うものです。
イカサマがバレてしまえば、そのゲームは負けになり、掛金の1.5倍のチップを失う事になります。
これだけでは、ただ普通にイカサマをしただけで、イカサマをするメリットも面白味もありません。
よって、そのゲームの終了後にディーラーが見破ったイカサマを実演しなければダメで。
もし、実演出来なければ、失った1.5倍のチップがゲームの倍率を上乗せされて返ってくるのです。
その特別ルールとも言える特徴が、話題を呼び。
今では、通常運営のカジノは勿論、ホテルなどにあるカジノも大盛況です!
何故、そんなルールを作ったのかと言えば、そっちの方が面白いから、と言うのが答えですし。
ルールと言えども別にイカサマをしなければならない訳でもありません。
そんなルールのもと、ポーカーを始めた訳ですが……ハッキリ言って、僕たちレベルになればイカサマなんて造作もない事です。
コレール達は自重し程々にしていた様ですが……無論、僕は勝ちに勝って勝ち続けました。
そして、座った椅子から地面に足が届いていない、年端もいかぬ幼女がバカ勝ちすれば、当然周囲の注目を集めます。
カジノと言う事もあり、気分も高揚していたのでしょう。
注目を集めた事で僕は得意になり、勝ち続けました。
そして遂にはディーラーが匙を投げ、カジノ内で最も実力の高い支配人が満を侍して登場。
粉砕してやりました!
アルテット公国でも、最強のディーラーとして有名な支部長を圧倒し。
気が付けば、〝最強の幼女姫〟〝カジノの幼天使〟なんて通り名が付けられていたのです!!
その名は既に、公都全域にまで広がり。
巷ではどちらの呼び名が正当か2つの派閥に分かれて対立しているらしいです。
どうでもいいわっ!!
「た、確かに調子に乗っていた事は認めます。
通り名が付くのも…百歩譲って認めます。
ですが……何故、両方ともに〝幼〟って入ってるんですかっ!?」
それだけは、どうしても納得できません! せめて〝幼〟が付いて無ければ……
「そんな事、言っても、仕方ない」
「確かに、ただの人間風情がお嬢様の事を語るのは解せませんが。
フェル様の仰る通り、気にしても仕方ありません。
気分転換に、お菓子でも如何ですか?」
むぅ、僕も分かってはいるんですけどね。
一度広がった噂を止める事は不可能に近いですからね。
「そうですね。
メルヴィーの言う通り、お菓子を頂くとしましょう!」
もう吹っ切れました!
ステータスの二つ名の項目に新しいのが、2つ増えたから何だと言うのです!!
「それにしても……」
視線を地面から前に向けると、そこには牙を剥いて襲いかかる数十体のベヒーモス。
そしてそのベヒーモスを瞬殺するコレールの姿。
いつもなら、僕が戦うのですが。
今回は変な通り名が広まった事に落ち込んだ僕の代わりに、つゆ払いをやってくれています。
階層ごとに一人ずつループで、誰が一番時間が掛かるか遊んでいるようです。
神獣であるコレール達にとって、火炎の試練に出てくるボスなどただの雑魚でしかありませんからね。
「次でもう50階層目ですか。
勇者達は12階層で引き返した様ですが、いったい何階層目まであるのでしょうか?」
まぁ、深淵の試練の事を考慮すると100階層以上続いても不思議ではありませんね。
何故、勇者達がそんな低層で引き返したのかだけは謎ですが。
そうなると、流石に1日で最下層まで行く事は難しいかも知れませんね。
僕が地上に戻る事には、通り名も落ち着いてくれてればいいんですけどね……
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