第104話 聞き捨てなりません!!
フロントで騒いでいるのは、ちょび髭を生やした三十代くらいの小太りおっさんでした。
服装などの見た目からして貴族か、名のある大商人と言ったところでしょう。
周囲の人から注がれる非難の視線もお構い無しに騒ぎ散らしています。
いい大人なのですから、少しは節度ある行動を心がけて欲しいものです。
「ご不快なお思いをさせてしまい申し訳ありません、お嬢様。
ここは私が対応しますのでお嬢様は皆とカジノルームへでお楽しみ下さい」
コレールが対応をしてくれるのなら安心です。
でも、コレール1人に面倒ごとを押し付けて僕たちだけ遊ぶ訳には行きません。
「わかりました。
でも、僕たちもここで待っています」
「……承知いたしました。
ですが、危険ですので特別室から出ないようにして下さい」
危険って、クレーマー1人の対応にそんな物騒な事なんて起こらないと思いますけど。
取り敢えず、頷いておきましょう。
「わかりました。
コレールも気をつけて下さいね?」
自分で言っておいてなんですが、いったい何に気を付ければいいのでしょうか?
断言できますが、あのクレーマーではコレールに傷一つつける事すら叶わないと言うのに。
「もうよい! 貴様では話にならんわっ!!
早く上の者を読んでこんか!」
「ですから…」
今、クレーマーに対応しているのは吸血鬼のゾルさんですね。
貴種、それも伯爵であるゾルさんの正体を知ればあのクレーマーの人はどんな反応を見せるのか、ちょっと気になりますね。
ゾルさんも随分と辟易しているようですし、後で労っておくとしましょう。
「下がりなさいゾル、ここは私が対応を代わりましょう」
いや、でもあのクレーマーさんは命拾いしましたね。
後もう少しコレールの介入が遅ければ、ゾルさん実力行使に出ていましたよ。
「こ、コレール様!?」
突然現れたコレールにゾルさんが目を丸くして驚いています。
伯爵級の吸血鬼でもあんな顔をするんですね……今度、驚かせてみましょう。
「ゾルは、お嬢様にお飲み物を」
「承知しました」
ゾルさんはそう言って一度礼をすると瞬間移動と見間違う様なスピードでその場を立ち去りました。
コレールに言われた通り、多分僕たちの飲み物を取りに行ってくれたのでしょう。
ゾルさんが消えた様に見えたのは、影を利用するスキルを使ったからでしょう。
それを見ていた周囲の人達が騒めき立ちました。
僕たちの為に、有難いのですが……飲み物のためにそこまでしなくて良いと思います。
「ふ、ふん!貴様、コレールと言ったな?」
「ええ、このホテルを経営しているリーヴ商会の代表をしております。
それで、どう言った御用でしょうか?」
おぉ、結構冷たい対応ですね。
あれは怒っている時のコレールを彷彿とさせる声のトーンです。
「き、貴様っ!平民の分際でこの私にその様な態度をとって良いと思っているのか!!
私はアレサレム王国貴族なのだぞ!?」
「そうですか。
ご存知ない様ですが、我々のホテルでは身分によって対応を変える事はありません。
ご納得出来ないのであれば、どうぞお引き取り下さい」
「なっ!?
属国であるアルテットのホテルなど、私が圧力をかければ如何なるか……」
「他のお客様にご迷惑です。
ご用が無いのであれば強制的にご退場願いますが?」
容赦ないっ!
相手がいかにもな貴族なのでコレールの気持ちもわかりますけどね。
「ぐっ、まぁ良い。
現在、アレサレムから勇者様方が起こしになっているのは知っておるな?」
「存じております」
「なら、話が早い。
明日、勇者様方がダンジョンからご帰還なさる、今すぐ最上級の部屋を用意するがよい」
それはちょっと聞き捨てなりません!!
今、あのデブオヤジは明日と言いましたか? 言いましたよね?
温泉に入ってせっかく、ゆっくりと旅行を楽しもうと思っていたのに……なんて間の悪い。
「残念ながら、現在当ホテルに空きは御座いません」
「それを如何にかしろと言っておるのだ!!
勇者様一行には第一王女殿下も同行なさっているのだぞ!
これよりも優先する事など、何があるというのだ!!」
第一王女と言うと、確か……サリアとか言いましたっけ?
召喚された時に一度会っただけなのでハッキリ覚えて無いですね。
「それに噂では、このホテルの最上階は常に空いているそうではないか。
勇者の皆様以外に相応しい者など何処にもいまい!!」
「確かに、我々リーヴ商会が運営する全てのホテルの最上階は開放していませんので、お泊まりになるお客様はいらっしゃいません。
ですが、現在当ホテルの最上階には然るお方が貸し切っておられます」
えっ!?
僕そんな事知らなかったんですけど。
もしかしなくても、それって僕達が泊まることを想定してって事ですよね?
「そう言う事ですので、どうぞお引き取り下さい。
でないと、実力行使に移らせて頂きます」
もはや営業スマイルすら浮かばずに有無を言わせ無い雰囲気を醸しながら言い放ちました。
「なっ、何だと! 貴さっ……」
ワナワナと顔を真っ赤にして震えて叫び声を上げようとしたクレーマーが、言葉を最後まで発する事なく消え去りました。
多分、外に留めてある馬車の中にでも強制転移させられたのでしょう。
「皆様、お騒がせしてしまい大変申し訳ございません。
不躾なお客様には強制的にお帰り願いましたので、どうぞ束の間のひと時をお楽しみ下さい」
優雅に一礼するコレールに、ことの成り行きを見守っていた人達から拍手が巻き起こりました。
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