第101話 温泉巡りと行きましょう!!

 かつてそこには、豊かで平和な笑顔に溢れた人間と獣人の国が存在した。

 しかし、ある日を境にその国は、憎しみが憎しみを生み、血で血を洗う戦場へと成り果てた。


 道端には誰も知らぬ骸が幾つも転がり、爆発音と悲鳴が何処からか鳴り響く。

 始まりは、貴族同士の小さな諍い。

 そんな些細なきっかけによって、笑顔に溢れた王国は血濡れた戦乱の世を迎えた。


 小さな綻びが、時を重ねるにつれ大きな綻びと拡大した。

 国は人間と獣人に真っ二つに別れ、終わりの無い戦いに明け暮れた。


 そんな、凄惨な争いを嘆き、かつて幼馴染みであった人間と獣人。

 種族の異なる2人の少女が立ち上がる。


 2人は幼い頃の平和な時間を胸に、それぞれの種族に訴えかける。

 ……しかし、積りに積もった憎しみは、そう簡単には止められない。


 2人はそれぞれの種族から裏切り者として捕らえられ、遂には追放されてしまった。

 追放された2人は、神に祈りを捧げ、神々の住まうとされている火山の火口にその身を投げた。


 その瞬間。

 その地に一人の天使が舞い降りた。


 争いを憂う2人の少女に感銘を受け、降臨した天使。

 天使の奇跡の光によって、瞬く間に2種族による争いを終結を迎えた。


 美しい白銀に輝く髪と、純白の翼。

 正しく神の様に美しい天使は人々に神の御心を伝えた……


 〝この地に住まう人の子らよ。

 其方らの争いによって大地は荒れ、この地を見守っていた精霊達は去った。

 しかし、我らは2人の少女に心動かされ、もう一度この地を見守ると決めた。

 2人の少女らが願うように、其方らが手を取り合い、平和な国を作る事を願っている〟


 その言葉を最後に、白銀の天使は一際大きな輝きを放ち……

 恵を産むダンジョンを作り上げ、天へとお帰りになった。


 その後、人々は天使の言葉通り、その手を取り合い。

 二人の少女を聖女とし、平和で笑顔に溢れる国を作りました。








「うん、まぁ何でしょう……壮大ですね」


 手に持った本を閉じつつ、コレールに本を渡す。

 今読んでいた本は、温泉の国・アルテット公国の建国神話が子供用にアレンジを加えて描かれた絵本。


 イヴァル王達に面倒事を押し……じゃなくて商談をした後、早速転移でアルテット公国に到着。


 それでもって、現在はアルテット公国首都内にあるホテルにいる訳ですが。

 勿論、このホテルもリーヴ商会系列のホテルです!!


 フェーニル王国で傘下に加えたホテルのマニュアルを参考にホテル業を開業。

 これで一々、何処かに行く度にホテルを探す必要が無くなったと言う訳です。


 因みに、このリーヴ・ホテルはリーヴ商会にて製造・販売している商品を用いており、品質・防備ともに最高峰を誇る。


 そのおかげで、様々な国の貴族や大商人。

 果てには、王族までもが御用達の超一流ホテルに成り上がりました。


 尤も、このリーヴ・ホテルに泊まる限り、王族だろうが平民だろうが。

 それこそ奴隷だろうが、お客様に差を付ける事はありません。


 リーヴ・ホテルにて身分がどうのこうのと、問題を起こせば皆んな等しく即強制退場。

 の、ハズなのですが……


「その本の事は取り敢えず置いておくとして。

 どうして、こんな事になっているのですか?」


「貴族だろうと王族だろうと、お客様として平等に扱いますが。

 お嬢様は別です」


 ジト目で訴えかける僕に対して、当然でしょうと言わんばかりにコレールが言い放ちました。

 周りを見渡すと、他のみんなも当然と頷いたりしていますし。


 ……これは、言った所でどうにもなりませんね。

 まぁでも、今回は丸々貸切ではなく、最上階だけの貸切なのでまだマシな方でしょう。


「はぁ、仕方ありませんね。

 それにしてもこの本……あながち嘘って訳でも無いんですよね?」


「はい。

 天使や理由など多少の脚色はありますが、この国の建国の際に争いを止めた者がいるのは事実です」


「因みにその天使は非常に粗雑な奴ですので、近づいてはダメですよ」


 コレールが頷く隣で、オルグイユが忠告してきました。

 オルグイユにここまで言わせるとは……油断ならぬ強者と言う訳ですか。


「吾、その話、知らない」


「フェルは顔見知りじゃ無いのですか?」


「フェルはその時も寝ていましたからね」


 なる程、アヴァリスの言葉で納得してしまいました。


「でも、フェルも知ってる奴だぜ。

 昔、フェルに勝負を挑んでボコボコにされてたからなアイツ」


「まぁ、彼は単細胞でしたからね。

 物理が一切効かないフェルさんに物理攻撃を仕掛けるような方でしたし」


 と、リュグズールにエンヴィーまでも、散々な言い様ですね。

 誰か分かったのか、フェルも苦い顔をしていますし。


「むぅ、気になります……早く火炎の試練に行きたいです!

 彼らさえ居なければ、直ぐにでも行くのですが……」


 そう、アルテット公国には八大迷宮が一つ火炎の試練があるのです。

 その事もあり、アルテット公国へ旅行に来たのですが……


 なんと、数日前に勇者一行が火炎の試練に向かったらしいのです!

 何という間の悪さ。

 フェーニルでも遭遇しましたし、もはや呪いですよ。


「ではお嬢様、待っている間、我々と共に温泉を楽しみませんか?」


 温泉……メルヴィー、素晴らしきかな!


「そうですね、そうしましょう!

 では勇者達が火炎の試練から戻ってくるまで、アルテット温泉巡りと行きましょう!!」

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