第100話 商談成立です!
旅行と言うと思い出されるのが、前回フェーニル旅の際での馬車地獄。
ですが!今回の旅行にはその心配が存在しないのです。
まぁ尤も、前回もやろうと思えばコレールの転移で一瞬で行けたのですが。
異世界での旅といえば馬車というのがお決まりですし。
何よりスキルを用いた座標演算で訪れた事のない場所でも転移可能な僕たちの転移で旅をするのは邪道です。
「しっかぁーし!!
チートな転移は邪道ですが、普通の転移は邪道ではないのです!
と言うか、むしろ王道です!」
「そ、そうですか。
あっ、椅子の上に立つと危ないですよ」
せっかく身振りも加えて前回の旅での苦痛から、旅における心情を熱く語ったと言うのに……
こんな苦笑い気味の返事が返ってくるとは、残念ながら僕の理解者では無かったようですね。
「それで、ルーミエル様、一体何の御用できたのでしょうか?」
むしろ、さっきまでの僕の力説をなかったかの様に話し出しましたよこの人。
悲しいですね…鬼畜ですよ、鬼畜。
「嘘でもいいので、ちょっとは共感して欲しいものです。
そんなんじゃ女の子にモテませんよ?」
フッ、年齢イコール恋人無しが言うと重みが違いますね。
「ルーミエル様も遠慮がなくなってきましたね。
一つだけ訂正させて頂くとすれば、こう見えても結構モテ…」
「それで、ピッツさん本題なのですが」
「伺いましょう」
僕が現在いる場所はフェーニル王国王都にあるお城の中にある執務室。
当たり前の様に、フェーニル王の執務室なのですが。
何やらしたり顔で自慢し始めたイヴァル王がちょっとウザかったです。
まぁ今は、宰相であるピッツさんにもスルーされて面白い顔で固まっていますが。
「それで、ルーミエル様がお越しになるとは、一体何事ですかな?」
僕が座っていた1人掛けのソファーの向かい側に腰を下ろしたピッツさんは、ゴクリと固唾を飲み込み真剣な表情で聞いてきました。
別にそこまで大した用事でもないので、そんなに真剣な顔をされると気まずいです。
僕がきたのだって散歩をしたい気分だったからなんて絶対に言えません。
「実は、ある国からのお誘いがやっと来たので、旅行には行くことになったのです」
「それで、まさか旅行に行くなんて報告をしに来たわけではないのでしょう?」
イヴァル王が復活した様ですね。
何食わぬ顔でピッツさんの隣に座りましたが、さっきの間抜け顔はしっかりと僕の記憶にインプット済みです。
また今度、魔法で念写してプレゼントしてあげましょう。
「はい、まぁ予測はつくと思いますが。
設立して僅か半年足らずの間にネルウァクス帝国ないでの絶対的なシェアを獲得し、商人の聖地、フェーニル王国から国内における銀行業の全権を委ねられ。
更には銀行業を通じて各国に勢力を伸ばした僕たちリーヴ商会を諸各国や貴族、大商人達が放っておくと思いますか?」
「それは、放っておかないでしょうね」
「ま、まさか…」
流石はピッツさん勘が鋭いです。
まぁ、ここまで言えば多分大概の人が普通に気づくと思いますけど。
「そのまさかです。
僕たちの代わりに、各国、諸侯、大商人達から送られた来た封書の対応をお願いしに来ました!」
全部合わせて数百にも及びますからね、やってられませんよ全く。
「勿論、無償でやれなんて事は言いません。
それなりの対価は支払うつもりですよ」
「ほう、対価ですか?」
幾らフェーニル王国を傘下に加えたからと言って一方的な関係は望むところではありません。
そうなればいずれ必ず破局を迎えますからね。
立場上、僕たちが上に立っているので全てとは言いませんが。
こう言った、契約の場では対等でありたいと言うのが僕の心情です。
「はい。
もし、僕たちに送られて来る手紙の対応をそちらで引き受けてくれるのであれば。
転移の魔法陣を差し上げましょう」
僕の言葉を受けてイヴァル王とピッツさんが驚愕に目を見開きました。
「それは……本気ですか?」
「勿論です。
転移魔法をどう使おうが貴方達の自由です。
尤も、転移魔法を用いようが用いまいが他国に攻め込んだりした場合などには、僕たちは関与しませんけどね」
転移魔法を使えれば、軍事運用や商業に用いたり、その利益は計り知れませんからね。
何処ぞの帝国やら勇者やら教団やらに目をつけられても自己責任です。
尤も、気分次第では参戦するかもしれませんが、それは今言う必要はありません。
「転移魔法はお得ですよ。
僕もそのおかげで王道な転移魔法を使って旅行ができるのですから」
王道な転移魔法の正体。
それは、銀行業を通じて各国に店舗を構えたリーヴ商会が設置した転移魔法陣を使っての移動です。
これは自力で配置したものなので、スキルを用いて座標領域を演算するなんてチートではありませんからね。
「それで、どうしますか?」
「……ルーミエル様もお人が悪い。
そんな提案、我々が断れるはずもないじゃないですか」
そう言ってイヴァル王は肩を竦めました。
まぁそうでしょうね、他国から送られてきた書類の対応と転移魔法、考えるまでもなく転移魔法を取るでしょう。
「では、商談成立ですね。
これが、約束の転移魔法陣です」
そう言って、ユニークスキル・無限収納に閉まってあった、紙切れを取り出してテーブルにおきました。
「でも、イヴァル王達が納得してくれて良かったです。
これで心置きなく旅行を楽しめそうです」
「ははは、それは何よりですね。
それで、どちらに行かれるのですか?」
僕が取り出した転移魔法陣の紙を見て苦笑いを浮かべたイヴァル王がもっともな事を聞いてきました。
「はい、温泉の国・アルテット公国です!」
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