第33話 眠たくなんて、ありませんよ

 あの後、コレールがずっとおろおろしてご機嫌とりをして来て鬱陶しかったのですが……


 そんな事も、コレールが手に入れてくれた米を口にした瞬間に消し飛びました!!

 やっぱり、米はいいですねっ! 流石は日本人のソウルフードです。


 とまぁ、そんな訳で冷静になって考えると、やっぱり精神年齢がかなり低くなってる気がするんですよね。


 精神状態が身体に引っ張られている事は最早疑う余地もありません。

 でも、普通これ程、幼児退行しますか?


 以前の僕であれば、この程度の事であそこまで大袈裟に反応を取る事は無かったはずです……多分、恐らく。


 何故、こんなにも感情の抑止が効か無いのでしょうか?

 以前はちゃんと表示されていた年齢が、???になってますし。

 これは一体どう言う事なのでしょう?


 一応、推測は出来ます。

 尤も、確証は一切ありませんけど……これは次に神々と会う事があれば問い質さなければなりませんね。


 だって、僕が幼女化してしまった原因は神様達ですし。

 神様達であれば、元に戻る方法を知っているかもしれませんからね。

 っと、そんな事よりも……


「ご飯美味しいですねっ!!」


 噛めば噛む程に溢れ出る米の旨味。

 これさえあれば、僕はこの世界で生きていける様な気がします!


「この功績に免じて、抜け駆けした事は許してあげます」


 コレールは安心した様にホッと一息ついたのが目に見えてわかりました。

 ふむふむ、この反応はちょっと面白いですね。

 今度、オルグイユにも少しイタズラをしてみるとしましょう。


「う〜ん、米は持ち帰って稲を栽培するとして。

 やっぱり、こうなると醤油とかも恋しくなりますね」


 神様情報だと、米はあるが醤油などの調味料は存在しないとの事。

 あの素晴らしい調味料の数々が存在しない……


 こうならば選択肢は一つ、作るしかありません!

 作った醤油を売れば大儲け間違い無しですしね、食文化革命と洒落込むとしましょう!!


 しかし、それをするにも、まずは資金が必要ですね。

 まぁその為の冒険者登録ですし、コレールがAランクになった事はラッキーだったかもですね。


「明日から冒険者稼業で資金稼ぎをしたいのですが、手伝ってくれますか?」


「はっ! 私でよろしければ、お供させて頂きます」


 いつも通りの澄ました顔ですけど、何処と無く嬉しそうですね。


「助かります。

 そうと決まれば明日も早いですし、僕はもう寝ますね」


「承知致しました。

 お嬢様はお休みして、明日の準備はお任せ下さい」


 それはつまり、コレールに全ての準備を押し付けて僕は寝るって事ですか?

 それはいけませんね。

 僕がこれから作り上げる予定の組織は、決してブラック企業ではありませんからね。


「それはダメです。

 コレールがこれから明日の準備をすると言うのであれば、僕も一緒に準備します。

 全部他人任せにして自分だけ楽をする訳にはいきませんからね」


「ふふふ、お優しいのですね、お嬢様は」


「いえ、これは普通の事です」


「わかりました。

 とは言っても、荷物は全て収納魔法で亜空間に入れますので、仕分けする程度なのです。

 あと用意する物は、食事などだけですので、お嬢様のお手を煩わせる程の事ではありません」


「むぅ、確かに帝都で売ってるポーションとかを見てみましたけど……あれでは自分で回復魔法を使った方が効果が高いですし、効率的ですからね。

 少し残念です」


 もっとポーション類の効果が高かったのであれば、冒険者らしい事ができたのですけどね。


「じゃあ、僕もコレールの準備が終わるまで手伝います」


「承知いたしました。

 ですが、風邪を引かれては大変ですので、毛布をおかけ下さい」


 そう言って収納魔法から取り出された紅い毛布を肩に掛けられました。


「わかりました。

 それにしてもこの毛布、ふかふかしていて気持ち良いですね」


「実はですね。

 その毛布もフェルの羽毛を加工した物で、保温、自動修復、不壊などの効果に加え、防御力も並みの装備を凌駕している逸品なのです」


「それは……何というか、凄いですね」


 ここまで凝った毛布って、この世界は勿論地球にも無いんじゃないでしょうか?


「お嬢様に少しでも良い睡眠をとって頂こうと、お嬢様が光に包まれている間に作成致しました」


 う〜ん、それは嬉しい事ですね。

 ありがたく使わせてもらうとしましょう!!


「ありがとうございます、ありがたく使わせて頂きますね。

 フェル達にも後でお礼をしなければなりませんね」


「お嬢様がお喜び下さったのであれば、これに勝る喜びはございません」


 むぅ、そう言われると、どう返せばいいのか困りますね。


 そう言えば、結局今日は冒険者になった事に舞い上がってしまって、迷宮にどれ程の時間いたのかも、僕以外の勇者達がどうなったのかも調べ損ねてしまいました……

 また、明日調べる必要がありますね


「ふぁ、ん……眠たくなんて、ありませんよ」


 思わず漏れた欠伸に反応して、ジト目を向けて来るコレール。

 うっ、この保護者の様な視線、何故か僕が悪い事をしている様な気分になりますね。


 うん、僕は眠たい訳ではありません。

 少し考え事をしていただけですし。

 目を擦ったのだって、痒かったからで、眠たくてしょぼしょぼした訳じゃ無いですからね!


「お嬢様、無理をしてはお体に響きます」


「むぅ……僕は無理なんてしていません、よ。

 僕は、ふぁ、大人ですから…ね」






 襲いくる睡魔に対する必死の抵抗も虚しく。

 いつのまにか寝てしまっていた様で、コレールに起こされた時には既に、窓の外が明るくなっていました。


 意識の最後では、コレールの右側にあったソファーに座っていたはずなのですが……目が覚めた場所はベッドの上でした。


 ……これは、どうやら僕は出会ってしまった様ですね。

 僕がこの世界に来て以来、最大級の強敵に。


 恐ろしい強敵に、出会ってしまったものです。

 迷宮を生き抜いた僕がいとも容易く、それも大した抵抗すら出来ずに敗北するとは……


 今回はどうやら僕の負けの様ですが、次こそは勝利してみますよ、睡魔めっ!

 朝日差し込むベッドの上。

 微かなまどろみの中で、僕はそう決意しました。

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