第32話 コレールなんて嫌いですっ!!

 取り敢えずこれで当初の目的は達成した訳ですし。

 そろそろ家に帰る、と言いたいところですが……


 コレールと合流しなければなりませんね。

 待ち合わせ場所は帝都の大通りを繋ぐ中央広場にある噴水の前。

 とは言え、まだ待ち合わせ時間にはそこそこ時間がありますね……


 そう! 非常に遺憾な事に、予定していた待ち合わせ時間まで2時間程の余裕が出来てしまいました。


 と言うか……冒険者になりに来た若者に強面のおっさんが言い掛かりを付け、返り討ちに遭う。

 異世界No.1とも呼び声高いテンプレさんは何処にっ!?


 わざわざテンプレに遭遇して騒ぎを起こた事で注目を集めて。

 そのせいで、ギルドマスターに呼ばれるってところまで読んだ結果、この待ち合わせ時間にしたと言うのに!!


 ここまで誠実に展開されていたテンプレさんは一体どうしてしまったのでしょうか?

 迷宮に追放なんて、されたく無かったテンプレは発動したのに……


 何故、冒険者テンプレは無いのですかっ!?

 全く、これだからテンプレさんは信用ならないんですよ。


 はぁ……それにしてもする事が何も無くて退屈ですね。

 まぁ、こうなっては仕方ありませんし、屋台でも巡って時間を潰すとしましょう。


 そうと決まれば、こうしては要られません!

 まだまだ時間の余裕はあるとは言え、見たところこ屋台の数はかなりの数に登りそうですからねっ!!




 ワクワク気分で屋台散策をしている内に時間になったので噴水に向かうと、既にコレールが来ていました。

 少し待たせてしまったようですね。


 う〜ん、屋台巡りでコレールを待たせてしまったのは少し罪悪感を覚えますね……これはやはり、長距離連絡手段を確立するべきでしょうか?


「すみませんコレール、待ちましたか?」


「おや、まだ予定の時間にはなっておりませんが、もうよろしいのですか?」


 優しい笑みを浮かべてコレールそう言ってきました。

 この色男め! 今の微笑みで中央広場の各所から黄色い悲鳴が巻き起こりましたよ。


「はい、用事は既に済ませたので問題ありません。

 それにコレールを待たせては悪いですからね」


 それに、まだ時間では無いにしても、僕が暇を持て余していた事には変わり無いですしね。


「それよりも、コレールの方はどうでしたか?」


「少々想定外の出来事はありましたが、滞りなく」


「想定外の出来事が気になりますが……わかりました。

 それは帰ってから聞く事にしましょう」


「承知いたしました」


 惚れ惚れする一礼ですが……僕は出来るだけ早く、この場から逃げたい気分で一杯です。

 まさかこんな事態に陥るとは思ってもいませんでした!


 ここ中央大噴水前広場にいるのは、どこもかしこも男女のペア……ハッキリ言って僕達はかなり浮いています。


 現役ヒキニートの僕には、この場は重過ぎます。

 くっ! こんな所に、孔明の罠が仕掛けられていようとは……


 そんな状況に多少のダメージを受けながら、しっかりと手を繋がれた状態でコレールが押さえてくれている宿に向かいました。






 さて、結論から言いましょう。

 宿に到着し、職員に部屋まで案内されて、ベッドに腰掛けた僕の感想。

 それは、うわぁ……です。

 これ以外に言葉が出てきません。


 コレールの案内でたどり着いた場所にあった宿……と言うより宮殿の様な最高級ホテルです。

 まず初めに、従業員さん達が一列に並んで、寸分違わな動作で腰を折って迎え入れてくれました。


 そして入り口を潜るとそこに他の客の姿は無く。

 メイドさんとモノクルを掛けた老執事が総出で出迎え。


 落ち着いた雰囲気のエントランスには優美な細工施された調度品の数々。

 決して派手すぎず、高い品が漂っています。


 部屋に案内されている間もメイドさん達が飲み物を持って来てくれたり。

 そして何より特筆すべきは、この敷地の広さ! これ一体何坪あるんでしょうか?


「あ、あのコレールこのホテルは?」


「このホテルは帝国が直接運営している国営ホテルです。

 主な用途は他国の貴族や王族の宿泊になりますね」


 他国の貴族や王族っ!

 僕の驚愕をよそに、コレールの説明は止まらない。


「どうやらこの場所が帝国内で最も格式高いホテルのようでしたので、こちらのロイヤルスイートを確保いたしました」


 因みに、ホテルで最もレベルの高い客室がこのロイヤルスイートだそうです。

 まぁ確かに、案内された部屋も凄く豪華ですよ。

 王族が住む城か何かと思う程に。

 しかし、今はそれよりも重要な事があります。


「こ、コレールさん、よくこのホテルの部屋をとれましたね?」


 そう、帝国直営のこのホテル。

 他国の貴族や王族が泊まる事を前提に作られているこのホテルの部屋を、どうやってとったのかという。


 しかし、そんな疑問さえも軽々と吹き飛ばす一言がコレールから発せられました。


「それをご説明する前に、お嬢様に良いご報告がございます。

 実は食糧を調達している際、以前お嬢様が仰っていた米と言う穀物が東方の国にあると耳にいたしまして」


 ……


「っ!! それは本当ですかっ!?」


「はい」


「米が、あの米がぁっ!!」


「お喜びになられた様で何よりです」


「コレールよくやりました! これは必ず手に入れなければなりません」


 そりゃあ喜びますよ、だって日本人ですからね。

 米とは最早、日本人の命といっても同義なのです!


「こちらをご覧くださいお嬢様!」


 軽く微笑みを浮かべたコレールが収納魔法から取り出したのは……


「こ、これはっ!」


「はい、米で御座います」


「し、しかし、どうやって?」


「私には転移魔法が御座います。

 お嬢様に驚いて頂こうと、話に聞いた国へと出向き戻ってきたのです」


 おぉ! 何という高スペック!!


 「その際、偶然にも商隊を襲っている火竜を見つけました。

 愚かな事に攻撃をして来たので、仕留めてやったのですが。

 そこに以前、草原を焼いた老人が駆けつけて来たのです」


 草原を焼いた老人……と言えば、あの時の人ですね。

 火竜が出たと言う報告があって急遽駆けつけたのでしょう。


「その場を去ろうとしたのですが、引き止められてしまい、話を聞いたのですが、

 どうやらあの者が、帝国が誇る大賢者だった事が判明したのです」


 なんと、あの人があの名高い大賢者だったのですか! これは驚きの情報ですね。


「火竜を討伐したと言う事で、大賢者の推薦もあり何故かAランク冒険者になったのです」


 ……えっ?


「Aランク冒険者と言う身分と大賢者の威光を使いこのホテルを取る事が出来たのです」


 成る程、何故このホテルをとれたのか分かりました。

 確かにAランク冒険者と言えば、子爵よりも権力を持ちますからね。

 けど……Aランク冒険者になった?


「コ、コレールなんて嫌いですっ!!」


「えっ!?」


 驚愕の表情を浮かべるコレールですが、そんな事で僕の怒りは治りません。

 コレールだけいきなりAランク冒険者とかズルイです!!

 皆んなでFランクから徐々にランクを上げると言う僕の楽しみが……


「もう知りませんっ!」


「えっ? えっ!?」



 目尻に軽く涙を浮かべながらそっぽを向くルーミエル。

 想定外の事態に戸惑うコレールが、どうにか機嫌を取るのに何時間もかかる事になるのだった。

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