第29話 なんて事をしてくれたんだあぁぁぁ!!

「……ビックリしました、いきなり大声で叫ばないで下さい」


「はぁ〜ん…うふぅっふっふ」


 ……全くオルグイユはどうしてしまったのでしょう?

 ちょっと怖いですよ。


 話しかけても心ここにあらずと言った感じで、恍惚な表情でだらしない笑みを浮かべていますし……まさか、本当に何かあったのでしょうか?


 う〜ん、取り敢えず下ろして欲しいのですけどね。

 いつまでも抱かれたままでは少し……かなり恥ずかしいです。


 しかもこれ所謂お姫様抱っこですよ。

 まぁ普通に抱っこされていても恥ずかしいですけど、これはこれで恥ずかしい。


 唯一の救いは、この現場を目撃した人物が少ない事でしょう。

 これがもし街中とかだったら、数週間は引きこもる自信があります。


「オルグイユ殿、いつまで主様を拘束しているつもりですか」


 オルグイユの腕の中で右往左往している、とコレールがオルグイユに呆れた様に言いながら脇下を持ってヒョイっと救い出してくれました。


「お帰りなさいませ主様」


 やっとオルグイユはから解放されたのはいいのですが……そう言うコレールの顔がちょうど今、俺の目線の高さにあります。


 そう、同じ目線の高さに……


 それだけであれば特に問題はないのですが。

 問題は……現在の俺の状況にあります。

 今俺は地面に足なんて付いておらず、プラ〜ンッて状態です。


 ……はっはっは! そんなバカな事があるはずが無いですよねー。

 つまり俺はまだ寝ていて、これは夢の中と言うことですね。


「どうかなされましたか?」


 恐らくはハイライトの消えた死んだ目で現在現実逃避を図っていた俺を地面に下ろすと、心配に聞いてきます。


 地面に足がついた時にはコレールを見上げる形になりました。

 因みにフェルと比べても小さい。

 フェルの身長が150半ば程度なので、俺の身長は120後半と言ったところでしょうか?


 ……よし、まずは落ち着きましょう。


「ふぅ〜……さてと、これはどういう事なのでしょうか?」


「主様こちらへどうぞ。

 お飲物でも用意して、お座りになってから話し合いましょう」


「まぁ、そうですね。

 何事においても、落ち着いて現状把握する事が大事ですからね」


「ん、それがいい」


 フェルがいつもの無気力な目でうんうんと頷いていますが。

 う〜ん、やっぱりいつもと視線の高さが違うと言うのは違和感がありますね。


「はっ! わ、私の愛しき女の子はどこにっ!?」


 どうやらオルグイユも復活したようですね。それにしても普段は頭も回り、非の打ち所の無いオルグイユが、まさかこんな事になってしまうとは……


 ソファーに座わり、コレールがいつもの様に淹れてくれる紅茶で、落ち着く為にも取り敢えず一口喉を潤す。


「さてと、現在俺はどうなっているのでしょうか?

 しっかりと女性になれていますか?」


 全員がソファーに腰掛けたのを確認すると、そう問いかけますが。

 うん、まさか自分でこんな事を言う日が来るとは思いもしませんでした。


「はいっ! それはもう、とってもお可愛らしいお姿に……いえ、これは最早、可愛いなどと言うレベルでは表現できない神々しさですっ!!」


「そ、そうですか。

 まぁ、何はともあれ取り敢えずは成功したと言う事でよかったです」


「ん、コウキかわいい、妹」


「そうで御座いますね。

 これからは、お嬢様とお呼びさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


 う〜ん、まぁコレールが言っている事は一理ある。

 人前で主様とか言われてたら流石に目立つ。

 お嬢様でも、それはそれで目立つ気がしますけど、主様よりはましでしょう。


 それにフェルは一体何を言っているのでしょうか?

 オルグイユに続いてフェルも、おかしな事を言うようになってしまいました。

 それに、流石にそろそろ自分の見た目が気になりますね。


「今の自分自身の姿を確認したいのですが……こうなったら鏡でも買いますか」


 残念ながら現在この場所には鏡が存在しません。

 まぁ、そもそもここは地下迷宮なので、鏡なんて無いのが当たり前なのですけどね。


「いいえ、お嬢様それには及びません」


 コレールがそう言うと、すぐ隣の空間に真っ黒の穴が空く。

 そして、その中から2メートルは確実にあるだろう鏡を取り出してくれました。


「おぉ〜、凄いですね。

 こんな物まで持っているとは……」


 しかも、明らかに金をかけている事がうかがえる、細部までしっかりと整えられた黄金の細工。

 しかも下品にならない程度に使われている宝石の数々……


 まぁ言うなれば何処ぞの貴族や王族が持っていそうな逸品です。

 何故コレールがこんな物を持っているのでしょうか?


「お恥ずかしながら私も龍種ですので、こう言ったものには目がないのです。

 とは言え、手に入れれば興味が失せてしまいますが……捨てるのは忍び無かったので、こう言った物もそれなりに持っているのです」


 言われてみれば、地球の神話などに出てくるドラゴンも宝石類や光っているものを集めていたような気がしますね。


 まぁ、コレールの言う通り、それは龍の本能から来る衝動なのでしょうね。

 タバコをやめられない喫煙者みたいな感じでしょうか?


「それは、またかなりの量を持っていそうですね。

 ありがとうございます、これで無駄な出費をしなくてすみました」


 さてさて、俺は一体どの様な見た目になっているのでしょうか?

 オルグイユ達の反応からすれば、そこまで酷い容姿ではないと思うのですが。


「ふむふむ、これはこれは」


「いかがですか? お嬢様」


「そうですね、普通に女の子って感じですね」


 鏡に映る自分の姿は白い肌に、光を反射して角度によっては銀色に見えなくも無い白い髪、そして特徴的な赤い瞳。


 うん、わかりませんね。

 俺からしてみれば、オルグイユが騒ぐ程に容姿端麗と言うようには思えません。


 まぁオルグイユ含め、眷属の皆んなは俺の事を過大に評価する節がありますからね。

 世間一般からの評価でみれば普通の女の子と言うところでしょう。


「これで容姿に関しては、俺がノワールだとバレる事は無いでしょう」


「確かに疑われる事すらないでしょう。

 しかしながら、これではまた吸血鬼と容疑をかけられる事になり兼ねませんよ」


 おっ、コレールが意見を言ってくれるとは珍しいですね。

 まぁコレールも成長してくれていると言う事ですね。


「そうです。

 幾ら女性になったとしても、この見た目ではどのみち吸血鬼と疑われる事になるでしょう。

 だからこそ、今からステータスを改竄しようと思います」


 そうすれば、仮に疑われてもステータスを見せれば、間違いだったとなるでしょうからね。


 前回はステータスの改竄をしてい無かったから、ステータスを見せる事が出来ませんでした。

 しかし俺は、同じミスは二度繰り返しません!!


「ん、それで、いいと思う。

 でも、その見た目で、俺は変」


 む、フェルから尤もな指摘を受けてしまいました。

 確かにフェルの言う通り、一人称が俺では周囲に違和感を抱かれる可能性を否定できませんね。


「その通りです! ここは是非ワタシに変えるべきです」


「流石にそれはちょっと……」


 まぁ確かにオルグイユの言っている事が正解でしょう。

 しかしです、流石にそれは許容出来そうに無いですね。


 精神が身体に引っ張られると言うのは、よく聞く設定ですが……おそらくその通りなのでしょう。

 現役ヒキニートだった俺が突然女の子になったと言うのに特に何も感じませんしね。


 まぁ、これはこれで男に戻った時にかなりの羞恥に襲われそうですが。

 それはその時の俺に頑張ってもらうとしましょう。


 まぁ話が逸れましたが、ワタシは流石にちょっと嫌です。

 男に戻った時に羞恥で死ぬ自信があります。


「う〜ん、そうですね妥協案として僕でどうですか?」


「ん、それで、いいと思う」


「私にお嬢様に対して、反対意見など御座いません」


 この2人はまぁいつも通りの反応ですね。

 まぁ反対が無いと言うのであれば俺……僕にとってはいい事なのですが。

 そしてワタシ推しのオルグイユは……


「こ、この容姿でボクっ娘……素晴らしいですっ!!」


 何やらエキサイティングしていますね……まぁ、反対じゃ無いのであればいいでしょう。


「ついでに俺……僕の名前ですが、先にステータスの改ざんを行うので、その間に考えておいてくれたら嬉しいです」


 その言葉に肯定を持って答える3人。

 これで名前決めは楽になりそうですね。


 偽名の事は皆んなにお任せするとして……ステータスの改ざんですね。

 どうやって行うのかと言うと、勿論僕のユニークスキル、等価交換で買います。


 買う商品名はステータス改竄とまぁ、そのままです。

 他にも先日やった隠蔽なども、ここで買う事ができます。


 因みに、これらの商品はスキルに当たります。

 つまり俺の魔力だけで買う事が可能なのでとてもお得なのです!

 さてと、早速取り掛かるとしましょうか!!


(等価交換)


 表示される画面の中からスキルの項目から、ステータス改竄を選択。


《対価として魔力量にして一億が必要です》


 これは、高いですね……まぁステータスを改竄するのであれば高いのも理解できますけど。

 まぁ尤も、一億程度であれば今の俺とっては大したことの無い量です。


(決済)


《対価の支払いを確認しました。

 またのご利用をお待ちしております》


 さて、これであとはステータスを改竄するだけですね。

 取り敢えずステータスを開いて……あれ?


 これは何でしょう?

 ステータスを開くと同時に、通達と言う文字が表示されました。


 全く身に覚えがないのですが、これは一体……まぁ、取り敢えず読んでみるとしましょうか。


『こんにちは、この通達は地球の神である私がアニクスを管理している大神アフィリスとウェルスと共に出したものだ。


 今回君は性別を変えてしまったようだね。

 我々でも難しい事を成すとは、流石と言っておこう。


 さて、本題だけど、以前も謝罪したけど我々は君に申し訳ない事をしてしまった。

 よって少しお詫びをと言うことになってね。

 そんな時、ちょうど君が今回の事を行なったから、ついでにちょっとサービスをしたんだ。


 まずは性別を変えたかったようだから、私達も少し協力させてもらったよ。

 あのままだと、また男に戻る可能性があったから完璧な女性になるように調整しておいた。


 それと、性別が変わったら名前に困ることになるだろうから、私たち三柱の神々が君に名前を授けよう思う。

 君の名前は、ルーミエル。


 地球のフランス語で、光って意味の言葉を少しもじってみたんだ。

 どうやら君は偽名でノワールと名乗るようだからね、フランス語で合わせてみた!


 気に入ってくれる事を願っているよ。

 これからも協力できる事があればできる限り協力するつもりです。


 では、アニクスでの生活を楽しんでね!!』



「な、何て事を……何て事をしてくれたんだあぁぁぁ!!」


 神々から届けられた通達を読み。

 女の子となった、伊波 光輝……ルーミエルの絶叫が地下迷宮・深淵の試練の最奥に響き渡った。

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