第28話 可愛い過ぎますっうぅぅぅ!!

 視界を塗りつぶすほどの眩い光。

 神代の大戦を生き抜き、神獣や亜神と呼ばれるフェル・コレール・オルグイユの3名であっても突然の事に視界を奪われる。


 しかしそれもほんの一瞬のみ。

 即座に視界を回復させた3名が初めに取った行動は敵の確認では無く、自らの主人の安否確認。


「これは一体……」


 光が収まり、静まり返った空間にオルグイユの声がポツリと響く。

 その視線の先には彼女が敬愛する主人の姿は無く。

 白き光を放つ球体が宙に浮かんでいた。


「ん、これは、触れない、ほうがいい」


 宙に浮かぶ白い光を放つ球体に手を伸ばしたオルグイユは、フェルの言葉で動きを止めた。


「この球体から発せられている膨大な魔力……幾ら我らでも不用意に触れれば、ただではすみそうにありませんね」


 コレールは淡々と現状を語るが、本来であればそれは驚くべき事に他ならない。

 神々と同等に戦う事すら可能な程の力を持つ彼らは、傷を負う事ですら滅多に無いのだから。


「お二人の言う通りですね。

 確かにこの球体からは尋常では無い程の魔力を感じます。

 しかし、これは……」


「ん、この魔力は、安心する」


「ええ、これ程の魔力を発しながら、本来であれば脅威に感じるはずでしょうに……心地よいですね」


「ん、この球体、コウキの、気配がする」


「確かにコウキ様の気配を感じますね。

 しかし、これは一体何なのでしょうか?」


「わかりませんが、これが性別を変えるために必要な手順なのでしょう。

 フェル、オルグイユ」


 諭すように2人の名前を呼ぶコレールに2人は心外だとばかりの視線を彼に向ける。


「ん、わかってる」


「勿論、不用意に触れたりなどしません」


 若干拗ねた様な2人の様子にコレールは苦笑いを浮かべた。


「我々にできる事が見守る事だけとは……儘なりませんね」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 さてと、これは一体どうなっているのでしょうか?

 俺は今の今まで迷宮の最深部でコレール達と今後の事についての相談をしていたハズなのですが。


「おはようございます、光輝様」


 視線の先には頭を下げる執事服を着た初老の男性……しかし、それは俺に対してではありません。

 いえ、俺なのは俺なのですが……う〜ん、なんと言ったらいいのか?


 そう、これはまさに夢で自分を見ている感じです。

 俺が今見ているのは過去の記憶、勇者として召喚される以前の記憶です。


 記憶の中の俺に頭を下げている執事は態度にこそ出してはいませんが、その目には確かな侮蔑が浮かんでいますね。


 まぁ、家に引きこもってずっとゲームしたりアニメを見る事に勤しんでいたら仕方ありませんね。


 記憶の中の俺はそんな執事に軽く相槌を返し、足早にダイニングに向かう。

 まぁ、ダイニングと言っても長いテーブルと大量の椅子が設置された、まるで会議室のような場所ですけど……


 今にして思うと家族揃って食事を摂ることなんて殆ど無いのに、こんな広い部屋必要ないと思うんですよね。

 ダイニングにたどり着くと、珍しく先客が2人……


「あらあら、お久しぶりですね光輝」


「ふん、何故お前のような愚弟を父さんが家に置いているか理解できないな」


 確かな侮蔑を瞳に宿し、微笑みながら挨拶してくるのが俺の姉。

 そして挨拶どころか目すら合わせ様としないのは俺の兄。

 2人とも分野は違えど、それぞれ一つの業界のみならず世間にも名の知られた人物です。


「おはようございます、姉さん、兄さん」


 まぁ、この頃の俺は例え家族と言えど兄と姉の向けてくる目が嫌で、大した会話もしていませんでしたが。

 もう会えないと思うと感慨深いものですね。


 あぁ、それと父さんが俺に何も言って来ないのにはちゃんとした理由があります。

 何せ我が家が所有する財産の約3割程は俺が動かしてましたからね。

 まぁ今更言っても、記憶の中の兄さんと姉さんには聞こえ無いでしょうけど。


 う〜ん、そう言えば今まで自分の事で手一杯で考えていませんでしたが。

 いきなり3割の財産を運用していた俺が居なくなって、両親にはかなりの迷惑をかけてしまったでしょうね。


 俺の実家の伊波家は世界経済界の重鎮ですからね。

 そんな家の財産の3割ともなれば、その損失は計り知れないでしょう。

 伊波家としても、世界経済としても。


 まぁ、それでも、あの父さんと母さんならどうにかしてしまいそうですけど。

 まぁ無いは思いますけど、もしまた再会できたら謝罪するとしましょう。


 尤も、これは俺にも全くの予想外の事態。

 謝罪の時は俺を召喚した張本人であるフォルクレスとアフィリス。

 二柱の神様にも手伝ってもらうとしましょう。


「ん? なんだ、お前が部屋から出て来るなんて珍しいな」


 俺に続いて部屋に入ってきたのは……



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ん……はて、これは一体?」


 父さんが部屋に入ってきたところで目が覚めたのですが……目の前のこれは、白い壁、ですかね?


「さてと、これはどう言う事でしょうか?

 確か性別を〝等価交換〟で買ったはずなのですが……何故こんな事になっているのでしょうか?」


 首を動かして周囲を確認してみても、見えるのはどこも一面の白い壁……どうやら俺は今、球体のような物の中にいるようですね。


 どうしてこんなことになっているのかはわかりませんが。

 取り敢えず、ここから出る必要がありますね。


「さて、どうすればここから出る事ができるのでしょうか?

 ……あれ?」


 どれくらい硬いのかな? と軽く白い球体の壁をノックする様に叩くと……瞬く間に亀裂が広がり、パリィッンと音を立てて割れてしまいました。


「コウキ様っ!」


 そして、白い膜の壁が割れると同時に聞こえるオルグイユの声。

 そして感じる柔らかく暖かい温もり……うん? 柔らかい?


「お目覚めですか? コウキさ、ま……」


 どう言う訳か俺は今、オルグイユに抱っこされる形で抱き抱えられているようですね……や、ヤバイです! 恥ずかしさが半端じゃありません。


 何故か語尾が小さくなり唖然と見つめて来るオルグイユ。

 どうしたのかは気になりますが、それよりも今は早く下ろして欲しいのですが……


「主様、お加減はいかがでしょうか?」


「ん、やっと出てきた、長かった」


 固まってしまったオルグイユにどうしようかと思っていると、コレールとフェルがこっちに来てしまいました。


 はい、これでまた一つ俺の黒歴史に新たな1ページが追加されました……


「はぁ、取り敢えず、下ろしてもらえませんか?」


「……」


「あの、オルグイユ? 大丈夫ですか?」


 一体オルグイユはどうしてしまったのでしょうか?

 コレールとフェルはいつも通りなので、俺が眠っていた間に敵襲を受けたと言う事は無いでしょうし。


「…い…ます」


「えっ?」


「可愛すぎますっうぅぅぅ!!」


 硬直から復活したオルグイユの絶叫? が迷宮最下層の屋敷の中に響き渡りました。

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