第23話 我が名はノワールです!!

 うん、まぁギルドマスターの言っている事は正しいですけど。

 だって今の俺は吸血鬼ですし。

 しかし……吸血鬼、嫌われ過ぎてませんか? まぁ別にいいですけど。


 予想とは多少成り行きが違いますが……これは最も楽に、この場を切り抜ける事が出来る状況に変わりありませんからね。


「悪しき吸血鬼とは言ってくれますね。

 もし俺が吸血鬼じゃ無かったらどうするつもりですか?

 一般市民を吸血鬼と決め付けて殺したなんて、世間に知れれば冒険者ギルドの信頼は地に落ちますよ」


「ふん、戯言を。

 我らを言葉で惑わそうとしても無駄だ。

 貴様がここで死ぬ事は決定しているのだ」


 ギルドマスターがそう言う同時に、俺の周囲を取り囲んでいる人たちの内の数名。

 ローブを纏い杖を持つ、実に魔法使いですと主張している人達が何やら詠唱を唱え始める。


 さて、こんな状況ではありますが、ここで一つ大きな疑問が浮上しましたね。


「ギルドマスター、一つ聞いてもいいですか?」


「いいだろう、冥土の土産に答えてやろう」


 何やら勝ち誇った様な笑みを浮かべながら承諾してくれました。

 何をそんなに勝ち誇る様なことが? と思わなくもないですが。

 冥土の土産にとか言ってますし、俺が諦めたとでも思っているのでしょう。


「ではお言葉に甘えて。

 あの人達がしているのは魔法の詠唱ですよね?」


「見ればわかるだろう。

 この魔法が貴様をこの世から消し去る魔法となるのだ」


「そうですか。

 では何故あの人達は詠唱なんて唱えているのですか?」


「何だと?」


 ギルドマスターは訝しむ様な顔をしてますけど、それは俺の反応ですよ。

 詠唱なんて時間の無駄ですからね。

 地下迷宮では詠唱なんて悠長に唱えていたらその間に死んでますよ。


「実はここに来るまでに一度、魔法を詠唱して使っている人を見みたのですが。

 何故皆さん。詠唱破棄で魔法を使わないのですか?」


 すると、ギルドマスターと俺を取り囲んでいる人達から一斉に笑いが起こった。

 うん、なんか馬鹿にされてるみたいですね。


 ムカつきます……思ったのも束の間。

 今にもフェル達3人が暴走しそうな気配が背後からするのですが……


 と言うのも、実はこの部屋の中にフェルたちもいるんですよ。

 周囲から見えない様に、透過と迷彩の魔法を使い気配を遮断してますけど。

 実は、3人共しっかりとこの部屋にいるのです。


 まぁ展開している結界は気配を遮断するだけなので、音などは普通に伝わると言う訳で。

 この人達の反応が癇に障った様ですね。


 この3人の怒りに比べれば、俺がちょっとイラっとした程度大した事はありません。

 むしろ俺はこの3人の手綱を上手く取らないとダメですからね。

 じゃ無いと、ちょっとした事で大量殺戮事件が……


「何を言いだすかと思えば、貴様はそんな事も知らないのか?

 無知とは哀れな物だな吸血鬼よ。

 詠唱破棄を使える者は、限り無く稀有な存在なのだ。

 それに、仮に詠唱破棄を使えても、発動する事が出来るのは下位の魔法程度だ」


 えっ……驚きの情報なんですが。


「帝国が誇る大賢者グラウス・ロドラ様でさえ中位魔法を詠唱破棄するのがやっと。

 それ以上となると伝説に語られる存在だけだろう」


「成る程、つまり貴方達は今構築している魔法程度でさえも詠唱しなければ使え無いという事ですか」


「何だと?」


「いえ、ただ期待外れもいいところだな、と思っただけです」


「ふん、その慢心を持ったまま死ぬがいい!」


 ギルドマスターが高らかに宣言すると同時に室内を魔法が吹き荒れ、俺だけを範囲に捉える様に部屋の中に火柱が生成される。


 室内でこんな魔法を使うなんてバカな? って思っていましたが、部屋の中は特に何ともない様ですね。

 一体どう言った仕掛けなのでしょうか?


「フハッハッハァ! これは火属性中位魔法でたるファイアートルネードを極限まで細く絞り破壊力を増減た一撃だ。

 しかも数人がかりの魔力、その威力は大賢者様のものにも匹敵するのだ!!

 と、説明してやっても既に貴様には聞こえてい無いだろうがな」


 いえいえ、はっきりと聞こえてますよ、はい。

 それよりも、この部屋の仕組みが気になりますね。


 何の仕掛けも無くこんな事をすれば、多少なりとも部屋に被害が出ると思うのですが……まぁいいでしょう。


 いい加減、この火柱も鬱陶しいですしね。

 しかし、これで最終手段を使わなければなら無い事は確定ですね。

 まぁ致し方ないでしょう。


 魔力を放出して火柱を消し飛ばす。

 因みに魔力を放出しただけなので死人も出てないし、被害もない。


「な、何だと!?」


 けどまぁ、ギルドマスター達はそれなりに驚いた様ですね。

 驚愕に目を見開いてこっちを見ています。


 うん、先程までは見下してきてたのに、今のギルドマスターが抱く感情は驚きと畏怖の念。


 スカッとしますね。

 しかも敵が勝利を確信した攻撃を椅子から移動すらせずに余裕で弾く……カッコいい。

 テンション上がってきました!!


「フフフ、この程度ですか?」


「き、貴様何をした!?」


 軽く笑うと、ギルドマスターが恐怖を振り払う様に声を張り上げる。

 周囲を取り囲んでいる人達も油断なく俺の隙を見極め様としつつ、その目には恐怖が宿る。


 まぁ、そんなに警戒しなくても、実際には魔力を放出しただけで他には何もしてないんですけどね。


「魔力を放出しただけですよ」


 そう言いつつ足を組む。

 ヤバイ……これマジでカッコよくないですか!?


「嘘だっ!」


 先ほど魔法を発動させた魔法使いの一人が声を荒げる。

 ギルドマスターはただ唖然と俺を見つめるのみです。


 まぁギルドマスターほどの実力があれば俺の言葉に嘘がない事を悟ったのでしょう。

 それに先程の魔法に自信を持っていた様ですし、ギルドマスターが唖然とするのは当然ですね。


「さてと、実害が無いとは言え、一方的に攻撃されると言うのは釈然としません」


 取り敢えず、風属性魔法でこの部屋の天井でも吹き飛ばしておきましょう。


「吹き荒れろ」


 そう呟きつつも、椅子からは立たずに指を鳴らす。

 それだけで、その場に凄まじい突風が吹き荒れ、窓ガラスを、壁を、そして天井を巻き上げ吹き飛ばす。


 勿論周囲に被害を出さない様に吹き飛ばした瓦礫は粉々に打ち砕いて、そのまま帝都の外まで飛ばしてやりました。


「では、これにて失礼します」


 飛行魔法を使い軽やかに宙に舞い上がる。

 因みに天井まで吹き飛ばしたので、この場から去る事は簡単です。


「き、貴様は一体何者なのだ…」


 そうですね……これからの方針は今決まりですね。

 やっぱり裏世界の巨大組織でも作るとしましょう。


 この分だと吸血鬼や俺と同じアルビノの人々が、どの様な扱いを受けているか分かったものじゃありませんしね。


 それ以外にも不当な扱いを受けている人たちは相当数いるでしょうし。

 そう言った人達を集めるとしましょう。


 それに、その組織を用いて商会を結成したりして新たに商売を始めれば……期待が高まりますね!


 そして何より裏世界を統べるボス。

 勇者のピンチに人知れず手を貸してあげる影の組織……カッコよすぎませんか!?


 そうなるとどう名乗るかが問題ですね。

 ここで本名を名乗れば俺の正体がバレる恐れがありますし、やはり名乗るならば偽名でしょう。


 となると、吸血鬼ですしブラッドとかでしょうか?

 でもそれだと微妙ですね、では色のイメージで行くとしましょう。

 俺自身のイメージでいえば白でしょうか。


 でもそれだと俺の見た目から疑われる可能性が拭えませんし。

 やっぱり裏の組織、影の組織と言えば黒のイメージでしょう。


 黒・ブラックは単純ですね。

 シュヴァルツは、黒ってイメージでは無いですし……となるアレですね。


「そうですね、我が名はノワール。

 裏の世界を統べる者、とだけ名乗っておくとしましょうか。

 では、これで失礼します」


 因みに一人称を我にしたのは、そっちの方が雰囲気が出るから!

 唖然とするギルドマスターとその他の人達を一瞥し、無くなった天井からギルドを脱出しました。

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