第24話 なんか泣きそうです
眩しくも優しく暖かい。
世界を照らしだす光……太陽の光が降り注ぐ穏やかな草原。
見渡す限りどこまでも続く広大な草原には、太陽の光で暖められた心地よい微風が通り抜ける。
この楽園のような草原の中心部に唯一の遮蔽物である建物がポツンと一つ。
その建物の正体は平民であれば絶対に住まう事ができない程の敷地面積を誇る、広大な屋敷。
まぁ、この空間が広すぎて、どこが中心なのかなんて肉眼では全くわからないんですけどね……
そして現在、俺達はこの素晴らしい草原にあるこの屋敷にいます。
さっきまで帝都に居たはずなのに何故こんな場所にいるのか?
勿論! ここが俺達のマイハウスだからです!!
この世界に家なんて無いはずの俺が何故こんな屋敷を持っているのかと言うと、それはこの場所に起因します。
実はここって、追放されてずっと生き抜いてきた迷宮、その最下層なのです。
あの後、雲に隠れて地上からの目が無くなった事を確認したところで、コレールの転移でとりあえず迷宮最下層に戻りました。
では何故あの最下層が、こんな状態になったかと言うと……ズバリ、俺がこの迷宮のダンジョンマスターになったからです
深淵の大神ウェルスに会った時に得た情報にあったダンジョンマスターの権能の一を利用し、この草原はクソジジイに焼かれた草原をイメージしたものです。
因みに、この空間を形作るのにそれなりに大量の魔力を消費しました。
まぁ実際には形作ると言うよりも書き換えると言ったほうが適切ですけどね。
どれくらいの魔力が必要だったかと言うと、具体的に大体1000万と少し程度でしょうか。
とは言え、この程度の魔力で迷宮の階層を書き換える事が出来るなんて、どれだけコストパフォーマンスがいいかよくわかるでしょう。
なんと言っても今の俺の総魔力は5億を変えますからね、1000万程度大した事ありません。
俺でも5億なんて馬鹿げた数値なのですから、噂に聞く帝国の大賢者は一体どれ程の魔力を誇るのか想像もつきませんね。
話が逸れましたが、まぁこの場所がこうなった経緯はこれでお終いです。
今はそれよりもこれからの事が重要です。
「やはり、今からでもあの者どもを皆殺しにするべきです」
「ん、都市ごと、消すべき」
ここに戻ってからずっとそんな事を言っているコレールとフェル、そして……
「いえ、それでは人間どもに絶望を与える事ができませんよ」
なんと、オルグイユすらもこの話し合いに参加しています。
今そんな現実から目を背けていた訳ですが……いつまでもこのままと言う訳にも行きませんね。
世界が作り変えられる様な光景を目にして衝撃を受け。
常識人だったはずのオルグイユがコレールとフェルの帝都の人間報復計画に参加した事に衝撃を受け。
俺が現実逃避した時から続いているこの不毛な話し合いを終わらせるとしましょう。
「3人とも聞いてください」
すると、今の今まで3人の世界に没頭していた皆んなが、一斉にバッと効果音が聞こえそうな勢いで俺に顔を向けました。
「主様、ここはやはり皆殺しに御座いますね?」
「都ごと、吹き飛ばす?」
「いえ、皇帝に絶望を与え殺すべきですよね?」
と開口一番、口々にそう言ってくる。
全くこれだからバトルジャンキーは困ったものです。
俺は別にバトルジャンキーでは無いですから、特にあの帝都の人々に何かをするつもりはありません。
そんな事をするのは時間の無駄、ぶっちゃけ面倒ですからね。
「まず初めに言っておきますが、俺はあの帝都に住む人達に何かするつもりはありませんよ」
まぁ、これだけ言っても3人は納得してくれ無いでしょう。
さっきまであんなに白熱した言い合いを続けていましたしね。
「勿論理由もあります。
それはズバリ面倒だからです!」
……わかってますよ、わかってますとも、こんな適当な理由でこの3人が納得するはずもないということは。
「御意に主様の御心のままに」
「ん、じゃあ、やめる」
「では今回は水に流す事にいたしましょう」
あっれぇ? おかしいですね。
絶対にこんな理由では納得してくれ無いと思っていたのですが……まぁいいでしょう。
何故かはわかりませんが納得してくれた様ですし、俺としてはその方がありがたいですからね。
「それじゃあ今後の事を相談しましょうか。
一番の目的はダラダラと自堕落な生活を送る事です。
そこで、そんな生活を送るために最も簡単な方法は何かわかりますか?」
「やはり世界を手に入れる事でしょうか?」
「ん、コレール、違う。
答えは、寝る事」
コレールにえっへんと胸を張って得意げに言うフェル。
それを微笑ましそうに見ているオルグイユとコレール、和みますね。
まぁ、普通に違いますけど。
「違います、答えは莫大な財力です。
汚い話ですが、人の世界では金さえあれば大抵の事はどうとでもできますからね」
それを聞いてコレールは成る程と頷き、フェルはおぉ〜と驚く。
そしてオルグイユは意味ありげに笑みを深めました。
オルグイユはわかっていたのでしょうね。
彼女は策略とか策謀とか得意そうですし、これから作る予定の組織の頭脳となってくれそうですね。
「そして、その為には敵対する連中を退けるための力が必要になってきます。
それも物理的なものだけでなく、社会的なものもです」
3人とも真剣に聞いてくれてますし、掴みは上々。
「その両方をカバーし、スローライフを送る為にちょっとした組織を作ろうと思うのですがどうでしょうか?」
さて、どうなるでしょか?
皆んなが反対するなら、別のやりたい事を探す必要が出てきます。
眷属となってくれたと言っても、皆んなを俺のエゴに付き合わせるのは嫌ですからね。
「勿論、これは俺個人の意見なので、強制するつもりはありません。
皆んなが反対するなら考え直します」
「何をおっしゃるのですか。
我らは主様の眷属にして配下に御座います。
全ては主様の御心のままに」
「ん、コウキが、いいなら、それでいい」
「私も2人に同様です」
コレールは執事の様に片腕を胸に当て礼をし、フェルは見た目相応に大きく頷き、オルグイユは優雅にカーテシーをしました。
「……ありがとうございます。
コレール、フェル、オルグイユ、これからもよろしくお願いしますね」
この感じ、なんと言うのでしょうか……なんか泣きそうです。
しかし、こんなところで泣いている暇はありませんね。
吸血鬼や迫害されている人々の為に、そして何より俺がスローライフを送る為に……
「では裏から世界を牛耳る巨大組織を作るとしましょう!」
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