第19話 カッコよくないですか!?
地球の伝承や神話では、古来よりドラゴンや龍といった存在は火を吹くと言うテンプレが存在している。
所謂ブレスと呼ばれるものですが。
まさか、そのフィクションの世界を自ら体験する事になるとは思ってもいませんでした、はい。
今の現状を一言で言い表すと、まさにカオス!
お気に入りお昼寝スポット第1号となったこの草原を消し炭にしてくれたクソジジイ。
文句ついでにちょっと引っ掻いてやろうと思って、コレールの所に行こうとしたら突然これですよ。
あの人達が乗ってきたであろう、豪華な馬車の後ろにある森林が綺麗に消滅。
地面は溶解して煮えたぎり、グツグツと赤くなっています。
何と、コレールが仕返しとばかりにクソジジイが、さっき放った魔法と同じ魔法を放った。
それも、比べ物にならない程の威力で……
まぁ、力の差を見せつけるのが目的だったのでしょうね。
最初からあの人達ではなく、背後の森林を狙っていたようですし。
コレールの思惑通り消滅した森林を目にした人達は唖然としていますけど。
何と言うか、ちょっと可愛そうな気もしますけど……まぁ、自業自得ですね。
一番派手な服装をしている、あの青年。
貴族の当主にしては若いですね。
見た感じまだ20前半と言ったところでしょうか。
まぁ、恐らくは何処ぞの貴族の嫡男か何かでしょう。
王都に向かう途中、道すがらに偶然見かけたドラゴンであるコレールやフェルを珍しがって近づいて来たと言ったところでしょうか。
まぁ、貴族ですからね。
大方、あの魔法使いに命令してコレールを捕獲でもしようしたのでしょうね。
とは言え、所詮は一貴族の嫡男に付けられた魔法使い。
王族や国王を護衛したりする宮廷魔法師とかなら兎も角。
あの程度ではコレールに敵うはずも無い、と言うのが自然の摂理です。
まぁ、聞く所によると。
ここは何処ぞの国の国土内らしいですし、森林が消滅してしまったのは少し申し訳ない気もしますが。
そこはコレールにちょっかいを出したあの貴族嫡男が悪いと言う事で、割り切って欲しいものですね。
「それにしても、あの温厚なコレールがこんな行動に出るとは思いませんでした」
「そうですね」
そう意味ありげに微笑むオルグイユ。
「けど、流石にこの状況では、あのお爺さんを引っ掻くのは気が引けますね」
何やら諦めを含んだ瞳で笑みを浮かべながら、コレールを見詰めるお爺さんを見ると……うん、哀愁を誘います。
俺には別に、老人を無闇に甚振る変な趣味なんてありませんし。
ここはひとつ寛大な懐で許してあげるとしましょう。
「コレール」
黒龍の姿のコレールの後ろから声をかけると、彼はすぐさま振り返り頭を地に伏せた。
「主様、申し訳御座いません。
主様の尊き眠りを妨げてしまいました」
目を瞑り、心底申し訳無さそうにそう言ってくるコレール。
やっぱり大袈裟ですね。
別にそんな事、いちいち気にしなくても良いと思いますけど。
「コレールは少し大袈裟ですね。
確かに、お気に入りお昼寝スポットを丸焦げにされた事は許し難いですけど」
そう言うや否や。
凄まじく鋭い視線で貴族嫡男や魔法使いのお爺さんを睨みつけ、再びコレールの身体から魔力が迸る。
コレールが纏う魔力がバチバチっと弾けて音を鳴らす。
お爺さんとは比べ物にならない程強大な魔力、流石ですね。
「しかし! 時には寛大な心で許してあげる事も大切なのです。
誰にでもミスはありますからね」
「な、何とお優しい!
全ては主様の御心のままに」
さっきまで放っていた魔力の奔流は何処へ消えたのやら。
感動したようにコレールが再び頭を下げる。
白猫に頭を下げる黒龍……なんともシュールすぎる絵面ですね。
あのお爺さんなんて、さっきから俺の事を解析しようと、ずっと魔法をかけて来てちょっと不愉快な程ですし。
まぁ、その魔法自体は常時張り巡らせている多重結界により完全に弾いているので、これと言って問題はないのですけど……
こればかりは気持ちの問題なので仕方ありません。
何せ俺はヒキニート、いきなり個人情報を覗かれて不快に思わないはずもない。
まぁ、コレールの反応から俺の正体が気になる事も理解できますが……少しは遠慮と言うものを覚えて欲しいものです。
「これから如何なさいますか?」
黒猫オルグイユがそう聞いてくるが、ぶっちゃけ何にも考えてないんですよね。
けどまぁ、これ以上ここにいても、どうしようも無いですしね。
「そうですね、取り敢えず移動するとしましょう。
彼らがいたのでは、落ち着いて話し合いもできそうにありませんし」
「御意に」
「では、戻りましょうか」
コレールとオルグイユを引き連れてフェルの元へと戻ろうとして……待ったが、かかる。
「待ってくれ!」
と、声をあげたのは貴族の嫡男だろう思われる青年。
はぁ、せっかく穏便に済ませようとしたのに……
「人間、主様の温情を無下にするつもりか?」
コレールさん、貫禄半端ないです。
と言うか俺と話す時と口調が変わりすぎじゃないですか?
まぁ、威厳たっぷりの黒龍って結構様になるので良いと思いますけど。
「主だと?」
「その猫が主だと言うのか!?」
今度は何やら、騎士達が騒ぎ始めましたね。
まぁその気持ちもわかりますよ。
だって黒龍の主人が猫って……うん、ないですよね。
もう、ぶっちゃけ面倒なので無視したいのですが……コレールはそれを良しとしなかったようで、また魔力が滲み出てますね。
こうなったら仕方ありません。
あの貴族嫡男が何故俺たちを引き止めたのかは分かりませんが、話を聞いてあげましょう!!
そうしないとコレールが暴走しそうですからね……
「コレールは俺の後ろに」
「御意に」
指示に従ってコレールが俺の背後に移動し、静かに座る。
白猫の指示に従い座る黒龍……何とも言えない空気になる事も当然と言えます。
「さて、何か用ですか?」
俺も座ってから、そう貴族嫡男に問いかける。
しかし、その当人は困惑したようにお爺さんに視線を送るのみ。
まぁ、猫に話しかけられたら普通こうなりますよね。
でも、さっきから結構喋ってますし、早く用件を言って欲しいのですが。
「失礼、本当に貴殿が黒龍様の主人なのか?」
その視線を受けて、お爺さんがそう問いかけてくる。
そして、それに答えたのは俺ではなく……
「貴様、主様に向かって何と無礼な!」
と憤慨するコレールの声で魔法使いの疑問はあっけなく肯定。
まぁ、別にいいですけど。
仕事モードにならなければ、俺は初対面の人とまともに話せませんし。
「と、まぁそう言う事です」
「で、では、貴殿らは何の目的でここに来られたのですか?」
こっちにだけ、自己紹介をさせておいて、自分たちは名乗らないとは、なってませんね。
「貴方は?」
この様では商業の世界では生きていけないですよ。
まぁ、この人は貴族でしょうから関係ないでしょうし、よくよく考えれば俺も名乗ってはい無いんですけど。
まぁ、名乗ってしまえば。
せっかく姿を変えてまで正体を明かさなかった意味が無に帰す事になるから、名乗る訳にはいか無いのですが。
「これは失礼した。
私はネルウァクス帝国の皇帝、ウェルス・エル・ネルウァクスと言います」
そう言って、本来ならば余裕を持って浮かべるであろう笑みを、少々引きつらせながら優雅に一礼。
うん、普通に驚きました。
まさか何処ぞの貴族嫡男だろうと思っていたこの青年が皇帝とは……
しかし! ここで取り乱しては商人の名折れ。
商人とはいつ如何なる相手でも、冷静に余裕を持って対処しなければなら無いのです!!
「そうですか。
では貴方の質問にお答えしましょう。
我々がこの場に来たことに、特に意味はありません。
言うなれば偶然ですね」
「それは先程、黒龍様から聞きました。
しかし神獣である黒龍様と霊鳥様を連れて、偶然などと言う事はないでしょう?」
う〜ん、困りました。
本当に偶然なのですが……信じてくれそうもありませんね。
「そう言われてもですね。
まぁ、強いて言えば草原が気持ちよさそうでしたので少し昼寝をと思いましてね。
確かに勝手にこの場で寝ていた事と森林の件については謝罪しましょう」
尤も、森林の消滅はそっちの責任もあると思いますが。
「では、貴殿ら何者なのですか?」
「ふむ、そうですね。
皆んなとの関係で言えば、主人と眷属となります。
今のところ、それ以上に言いようが無いですね」
それを唖然として聞いている騎士達、そして何故かこんな場所にいた皇帝。
一拍程待ちましたけど、他に質問もなさそうですね。
「他に何もないのなら、我々は失礼させて頂きます」
そろそろこの人達の相手をする事も限界に近い……何せ俺は現役ヒキニートでしたからね!
「最後に忠告しておきましょう。
貴方がこの国の皇帝ならば連れている護衛が弱過ぎるのでは?」
フェルの元へ踵を返して歩き出したと言うのに、再び呼び止めようとする皇帝に親切に忠告しておいてあげました。
これくらいが今は限界ですね。
まぁでも、忠告できてよかったです。
絶対的な強さの存在を従える謎の存在が去り際に残す忠告……カッコイイ!!
現役ヒキニートだった俺が、アニメ・漫画・ライトノベル・ゲームに夢中になった事は自然の摂理。
そんな俺が、こう言ったシュチュエーションが嫌いなバズがない!!
これは謎の組織を率いるボスってのもいいかもしれませんね。
とまぁ冗談は置いておくとして。
フェルは既に目を覚まして、俺たちの事を待ってくれていたようですし。
颯爽とフェルの背に乗ってこの場を離れるとしましょう。
猫の柔軟な身体で軽くジャンプしてフェルの背中に乗ると。
みるみる小さくなる地面。
うん、絶景かな。
ここまで来れば、彼らに話し声なんて聞こえ無いでしょうけど。
まぁ、万が一に備えて結界だけは張っておきましょう。
跡を追けられても面倒ですしね。
「さてと、では出発しましょうか」
「ん、何処に、行くの?」
「そうですね。
取り敢えず、人口の多い街へ行ってみる事にしましょう!」
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