第12話 攻略しました
八大迷宮・深淵の試練、第190階層ボスである黒龍のコレールを仲間に加えました。
よって、今日はここで一泊して行こうと思います。
理由は幾つかありますけど、まぁ一番はこの場所にいれば魔物が全く襲ってこないから。
そもそもここに魔物達は入ってこれないのだから、襲われるも何も無いのですけどね。
翌日、清々しい朝を迎えました。
朝日も何もない地下なのにどこが清々しいかって?
何を仰いますやら。
魔物に寝込みを襲われる心配をする必要が無く無事に目を覚ます事ができる、これ以上に清々しい朝がありますか?
そのあと軽い軽食を食べて、3人でボス部屋を後にしました。
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そして現在、ボス部屋を出てから約5時間と少しぐらいですかね?
俺たちの目の前に広がるのは黒い大きな扉。
もうお分かりでしょう、ボス部屋恒例の扉です。
前回も3日という異例の速度で到達し、驚いていましたけど……今回はそれを大きく超えてきましたね。
もう乾いた笑いしか出ませんよ、全く。
そして俺は今、前回とはちょっと比べ物にならないレベルで打ちひしがれています。
それはもう迷宮の壁の端っこの方で体育座りしている程にはね!
ではここで、俺の精神を落ち着かせるためにも、一体どうやってこの短時間でこの場所まで来る事ができたのか説明しましょう。
まずボス部屋を出てから俺たちは、すぐに空を飛びました。
まぁ徒歩より確実にそっちの方が早いですしね。
それから約5時間、時々魔物に襲われながらも何事も無く、順調に2層下の階層に到達しました。
そしてその時、事件は起きたのです。
「そう言えば、主様は早く最終階層に行きたいのですよね?
それならば今すぐに行けるのですが、如何なさいますか?」
コレールが思い出したかの様に、突然俺たち2人に向かってそう言い放ちました。
これを聞いた俺の最初の言葉をお教えしよう。
……はい? です。
十分に間をとってやっと出てきた言葉がこれですよ。
まぁ、それも仕方無いと思っていますけど……だって、いきなり切り出された話がこれですよ?
それまででさえ、異常な速度で進んで行く事に驚愕していたのに、そこに大きな追い討ちを受けた訳ですからね。
そして、それを聞いたフェルも飛行速度を全く落とさずに……
「ん、吾も、忘れてた」
などと、無気力な声で呟いたのだ。
空を高速で飛ぶと言うファンタジー体験中に、そんなやる気の無い声を出さないで、と思わなくも無いですが。
いつもの事なので既に慣れました。
それに早く最終階層に辿り着き、ここを出たいのは本当の事なので、コレールの問いに肯定を持って答えました。
「御意に」
そう飛行速度を全く変える事無く答えるコレールの言葉を最後に……一瞬で俺達から数メートル先の位置に巨大な黒い扉が出現。
開け開かれた状態で現れた扉に突入した結果……次の瞬間には俺たちはここに居た、と言う訳です。
因みにその際に現れた扉は、ボス部屋の扉とはまた違ったデザインだという事しかわかりませんでした。
ですが、扉を潜った後に見えた扉は紛れも無いボス部屋のものです。
人型に戻ったフェルと、コレールに一体どういう事なのかと問いただすと、返ってきたのは……
「転移魔法でございます」
と言う、コレールの一言。
フェルとコレールによると、コレールの転移魔法では座標さえわかれば何処へでも行く事ができるそうです。
因みにコレールとフェルは、この迷宮の階層ボスになる際に、この迷宮の内部構造を教えられていると言う事です。
コレールが俺との戦闘でも使っていた転移魔法は空間魔法の一種で、空間魔法をレベル10で習得すれば使えるようになるらしい。
空間魔法と言えば俺がいつかは買おうと思いつつも、迷宮攻略には必要ないからと保留にしていた魔法スキルの1つ。
つまり俺が、最初の時点で空間魔法をレベル10で買っていれば、楽にここまで来ることが出来たと言う事です!!
転移魔法を使うには、転移先の座標を知る必要がありますが、俺にはユニークスキルの〝世界地図〟がある。
〝世界地図〟を普通に使うだけでは、違う階層まで見通す事は出来ません。
しかし、膨大な魔力を使ったとなると話ば別です。
つまり、俺は今までしなくてもいい徒労をずっと続けながらここまで来た訳です。
まぁ、そのお陰でフェルとコレール、2人の頼もしい仲間を得る事はできましたけど……それでも、やっぱり悲しいものは悲しいです。
しかし、いつまでもこうしている訳にも行きません。
世の中には乗り越えなければなら無い事ばかりですからね。
「では、さっさとこの迷宮を攻略して、外に出るとしましょうか!」
こう言う時は、今後の楽しい自分の姿を想像して乗り越える事が一番楽で簡単です。
ここを出たら何をしましょうか?
日の当たる木の下での昼寝。
ふかふかのベッドでゆったりと惰眠を貪る。
モフモフの動物たちに囲まれて寝たり……少し考えただけで胸が躍ります!!
「コウキ、復活?」
「主様の御意志のままに」
俺の言葉に、それぞれの反応を示す2人を引き連れて、最後の扉に手をかける……そこにいたのは、1人の女性だった。
輝く金髪を腰まで伸ばし、俺と同じ様な白い肌に爛々と輝く紅い瞳をした美女がそこにいた。
ざっと見た感じ、このボス部屋には今までのボス部屋には無かった相違点が1つある。
それは、このボス部屋内に存在する数個の扉。
今までのボス部屋にあった扉は、入口と出口の2つのみ。
しかし、このボス部屋には入口を含め、全部で5つの扉が存在しています。
「よくぞ、ここまで辿り着きましたね」
このボス部屋のボスであり、恐らくはこの迷宮のラスボスでもある女性が少し驚いたように話しかけてきました。
「まぁ……相当苦労しましたけど、何とか来ることができました」
「そうですか。
それで、貴方の隣にいるのは方は霊鳥殿ではないですか?」
「ん、久しぶり。
でも、吾には、フェルと言う名前が、ある」
それを聞いて女性は目を丸くして驚きを大きく見開きました。
「まぁ! それは驚きました!!」
心底驚いた様子でそう言うと、次は俺の斜め後ろに控えていたコレールに目をやる。
「そして、其方の貴方は黒龍殿では?」
「ええ、ご無沙汰しております。
現在は主様よりコレールと言う名を頂き、眷属として御使えさせて頂いております」
「やはり名を……では、お二人は眷属になっていると言う事ですか……
しかし驚きましたよ。
まさかこの様な形で、貴方方と再会するとは思ってもおりませんでした」
さて、俺は完全に空気と化している訳ですが、ここで1つ物申したい。
何? 君たち知り合いなのですか?
まぁ、フェルとコレールも顔見知りだったので、不思議では無いですけど。
「おっと、申し訳ありません。
自己紹介させて頂きます。
アロガンツと申します」
アロガンツ。
確かドイツ語で傲慢と言う意味でしたか。
まぁ、彼女の正体と合わせて考えればイメージは大凡当たっていますね。
彼女に名をつけた存在は、どうやら地球を知っていそうですね。
偶然でそんなジャストな名前を与えるなんて事はあり得ないでしょうし。
「これはご丁寧に。
俺の名前はコウキ・イナミです、どうぞよろしくお願いします。
ところで質問なのですが、貴方に名をつけたのは神様ですか?」
「ええ、その通りですが……何故、貴方がその事をご存知で?」
「いえ、すこし知っている言葉と似ていたものでしてね。
それで、もしかしたらと思ったのです。
神様であれば、この世界とは違う世界の言葉を知っていても不思議では無いでしょうからね」
「この世界とは違う世界……では貴方は別の世界から来たのですか?」
「ええ、俺はこことは違う世界から、この世界に召喚されましてね。
そこからはまぁ、色々とあってここに来たと言う訳です」
「それは御気の毒ですね」
「いえいえ、お気遣い無く。
それで、俺は貴方と戦えばいいのでしょうか?」
「いえ、その必要はありません。
先程も言った様に、私はこの迷宮の全権代理をこの迷宮の創造主から仰せつかっております。
その際、私が創造主から言い渡された指示は3つ」
この迷宮の創造主と言えば、フェルとコレールによると大神の一柱。
彼女に名を与えたのも同一の存在と見て、まず間違いないでしょうね。
「1つ、この迷宮を維持し管理していく事。
2つ目は、迷宮の最終守護者として、この場を守護する事。
そして3つ目は、もしこの迷宮の攻略者が現れた場合、そのお方にここの全権を譲渡しサポートする事です」
「攻略の判断基準はどう言ったものなのでしょうか?」
「創造主が仰るには、私が認めた方が攻略者となられるようです。
創造主がその条件を仰った時は、まさかその様な方が現れる訳が無いと思っておりましたが……」
そこで彼女は言葉を区切り、佇まいを正して俺の方を真っ直ぐ見据え……
「貴方様が現れました。
本来、階層守護者であった霊鳥殿と黒龍殿……フェル殿とコレール殿を眷属として従え、私の前に現れるとは予想だにしておりませんでした。
私は貴方様こそが、この迷宮の攻略者として相応しいと判断いたしました」
そう宣言しました。
「ありがとうございます。
俺としても貴方と戦うのは本意では無かったので、助かりました」
「ふふふ、そうですか。
では貴方様をこれより八大迷宮・深淵の試練攻略者として、この迷宮に関わる全ての権限を譲渡させて頂きます。
こちらに」
彼女はそう言って歩き出す。
向かう先は5つある扉のうちの1つで、俺達もその後を続く。
扉の先は制御室的な作りの、それなりに広い空間。
「こちらに手を」
俺は言われるがまま、彼女が指を指す球体に手を乗せる。
すると球体から何かが流れ込んで来た様な感覚。
直後、脳内に凄まじい勢いで説明書の様なものが浮かび上がり……意識がシャットダウンした。
いや、シャットダウンしたと言うより、させられたと言うべきか。
今、俺の意識は、あの白い空間にある。
俺が地球の神様と邂逅した場所の様な白い空間に……そして当然のように、1人の美丈夫が椅子に座っていた。
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