第13話 神様達とお話しします

「初めまして、俺は伊波 光輝です」


 向かいに座っている、美丈夫に取り敢えず挨拶する。

 日本にいた時と同じ様に挨拶するのは、この男は恐らく神だから。


「初めまして、伊波君。

 私は君が召喚された世界・アニクスの大神であり、深淵の神ウェルスと言います。

 それにしても、やはり君は面白い。

 霊鳥や黒龍を眷属にした事もだが、私を見ても驚いた様子がない」


「まぁ、俺の場合は地球で一度、神様に会っていますからね」


 俺がそう言った瞬間、〝世界地図〟に空間の歪みが感知された。


「その節は申し訳なかった」


「申し訳ありません」


 背後から声を掛けてくるのは、俺がこの世界に召喚された時に色々と手を回してくれた地球の神様と……もう1人は知らない女神ですね。


 何故謝ってくるのかは分かりませんが、地球の神様と一緒にこの場に現れたと言う事は、恐らく今現在この世界を管理している神様でしょう。


「お久しぶりです。

 こちらこそ、その節はお世話になりました」


「君は……何と言うか、本当にマイペースだね」


 地球の神様がそう言ってくるが。

 まぁ、恐らくは背後から突然話しかけられたのに、俺が驚かない事に関してでしょう。


 しかし、それもそのはず。

 何故なら、神様たちがこの空間に来た事を、事前に感知していたのですから。


 〝世界地図〟と〝鑑定〟を同時発動。

 この空間を調べて見たところ、出てきた答えは『大神ウェルスの神界』だそうです。


【〝ユニークスキル・世界地図〟に〝特殊スキル・鑑定〟を統合……〝ユニークスキル・神眼〟に進化しました】


 何やら新しいスキルを習得した様です。

 スキルを使った事で進化したので、恐らく権能は今さっきまでやっていた事と同じでしょう。


 いやぁ、それにしても〝等価交換〟は便利ですね。

 何せ、ステータスを弄る事が前提のスキルですから、勿論スキルを含むステータスを管理することすら可能なのです!


「いえ、そうでもありませんよ。

 俺は神様方が、転移して来た事を感知しただけですので」


「えっ!」


「まぁ!」


 そう言うと、何故かとても驚かれてしまった。

 理由はわからないけど……まぁ、何でもいいかな。


「それは驚いたな」


 そんな声に振り向くと、この空間の主人であろう大神ウェルス様も目を丸くしていました。


「伊波君、そもそも本来人間が神の転移を感知する事など不可能なのだ。

 それこそかつての魔王、その配下の残党でも無いとな」


「そうなのですか。

 まぁ俺の場合は地球の神様に授けて頂いたスキルがありますので」


「地球の神というと、フォルクレス殿の事だな」


「その通りだよウェルス殿。

 今更だけど、お久しぶりですね」


 ウェルス様の問いに答えたのは地球の神様こと、フォルクレス様だ。

 どうやら2人は知り合いの様ですね。


「それに、そこに居るのはもしや、アフィーではないか?」


「お久しぶりです。

 ですが、人の子の前でアフィーはおやめください。

 私の名はアフィリスです」


「そうか! やはりアフィーか。

 前に会った時は、こんなに小さな生意気娘だったと言うのに……懐かしいな」


「ウェルス殿、変わったのは見た目だけです。

 中身はまだまだ悪戯好きのお子様ですよ」


「そうなのですか? それはいい」


 ウェルス様とフォルクレス様が楽しそうに笑っているのを、アフィーと呼ばれた女神様が顔を赤くして悶えている。


 わかります。

 親の知り合いに、小さい頃の話をされる時と同じような微妙な気持ちなのでしょう。


 まぁ、そんな感じで神の御三方は昔の話に花を咲かせていますね。

 どうやら久しぶりの再会の様ですし、話したい事が色々とある事はわかるのですが。

 俺も早く帰って日の光の下で寝たいですし、ここは口を挟むべきですね。


「盛り上がっているところ申し訳ありませんが。

 俺が、今回この神界に呼ばれたのは何故でしょうか?」


「おっとすまないね。

 君をここに呼んだ理由、それは君の力が特別だったからでね。

 本来なら迷宮を継承した際に脳内に直接、本人が一番親しみやすい形で説明が流れる仕様なのだが。

 そこに少し介入して、君をここに呼んだ訳だ」


「俺の力が特別と言うと。

 フォルクレス様に授けて頂いたスキルの事ですか?」


「それもそうだけどね。

 君が使っている魔法もだね」


 真剣な眼差しでそう告げるフォルクレス様。


「フォルクレス殿が言う通り、そもそもアニクスに滅光魔法と言う魔法は無いのだ。

 神の中にも、その様な魔法を使うものは存在しない。

 つまり、滅光魔法は君だけのオリジナル魔法という事になる訳だ」


 いつも愛用していた滅光魔法が、神でさえも使う事が出来ない俺だけのユニーク魔法……なんて言うか普通に驚きました。


「そして君の使う滅光魔法は、かなり強力な魔法だ。

 それは君も覚えがあるだろう?」


 確かに言われてみれば、今まで滅光魔法を防いだ奴は誰1人として、いなかった気がしますね。

 まぁ魔物なので1人ではなく1匹、もしくは1体でしょうけど。


「言われてみれば、コレールの翼も打ち抜いていましたね。

 けどそれは翼が他の部位に比べて薄いからであって、フェルには何の効果もありませんでしたよ」


「空を飛ぶ存在は、空を飛ぶ為に翼が必須であり、翼を破損しないために本来身体の中でも強い部位。

 それに本来不死である霊鳥を殺す為には魂を砕く他に無い」


「そもそも霊鳥の身体はホーリー程度では容易く弾かれる程には強靭なのだ。

 それをいとも簡単に貫く滅光魔法は十分に強力と言っていい」


 2人……じゃなくて二柱様、ご説明ありがとうございます。


「なるほど、俺の滅光魔法が強力なのは理解できました。

 しかし、それが俺をここに呼ぶ事とどう言った関係があるのですか?」


「本題はそこなのだ。

 君はアニクスに召喚された際、吸血鬼と疑われ追放された。

 そこに誤りは無いはずだ」


「まぁ、そうですね」


「それには、我ら神々の勝手な思い込みの結果、君のステータスに勇者の称号が無かった事も影響している」


「本当に申し訳ない」


「まさか吸血鬼と間違われ、追放されるとは。

 そこまで考えが及ばずに、ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした」


 ウェルス様がチラッとフォルクレス様とアフィリス様を見ると、2人は揃って謝罪してきました。


「いえいえ、その事に対する対価は既に頂いているので構いませんよ。

 追放された事も……まぁ仕方ないでしょう。

 人間は危険を排除しようとする生き物ですしね。

 それに迷宮に追放されたおかげで、面倒な勇者の使命とかから解放され、仲間もできましたしね」


「そうか……やはり君は面白い。

 そう言ってくれる君ならば、君を追放した国、しいてはアニクスへの復讐に走る事も無さそうだな」


 ウェルス様は少し安堵した様にそう言った。

 なぜ俺がそんな事をすると思ったのか? わかりませんね。


「俺がそんな面倒な事する訳がないでしょう。

 しかし、今後あの国や他の国と対立する事が無いとも言い切れませんけど」


「まぁその場合は仕方がない。

 しかし我々神の立場からしてみれば、君が復讐心を抱いていたらかなりマズイ事になっていたのだ」


 成る程そういう訳ですか。

 だから俺の〝滅光魔法〟が、強力な魔法云々のくだりがあったのですね。


「どうやら分かった様だな。

 神にでさえ通用する〝滅光魔法〟の使い手である君がアニクスと言う世界そのものに憎悪を抱き、復讐を決意する。

 それは第2の魔王の出願を意味しかねない。

 そうなってしまえば、人間たちに抵抗する力は無いと言う訳だ」


「まぁそうでしょうね、だからこそ勇者を召喚した訳ですし。

 しかし、そんなに簡単に俺の言う事を信じてもいいのですか?

 俺が嘘をついている可能性もありますよ」


「それは無い。

 何故ならば、私は他者の嘘を見抜く力を持っているのでな」


「それは……凄いですね。

 今後商売をしていく上でとても役に立ちそうです」


「君のユニークスキルと魔力量を持ってすれば、このスキルを習得する事も可能な筈だが?」


「……確かに可能ですね。

 地上に戻ったら早速真似させて頂いてもよろしいですか?」


 〝等価交換〟のオーダーメイドで嘘を見抜く権能のスキルを作るための値段を調べ、十分に可能な事が確認できました。


 あとはご本人の許可さえ得られれば真似できるのですけどね。

 あ、でもアニクスには地球と違って著作権が無いので気にする必要はないのですかね?


「別に構わない、それが君の力の権能だからな。

 地上で君がその力をどう振るおうが、それは君の自由だ。

 しかし、それで我々と対立する事になる可能性を知っておいて欲しかったのだ」


「わかりました。

 でも、俺は自分のしたい事をさせてもらいますよ」


 これだけは絶対に譲れません。


「その過程で、国家と対立する結果になるかもしれません。

 勿論こちらから手を出すつもりはありませんが……向こう側から仕掛けてきたのなら、容赦するつもりはありません。

 俺に敵対するのなら、誰だろうと全力を持って叩き潰します」


「それならば問題ない、それは人間たちの問題なのだからな。

 世界を破滅に追い込む事をしなければ、それ以外は人達が乗り越えるべき事だ」


 それから、ウェルス様に迷宮についての説明を受けた。

 その説明によると、どうやらあの迷宮がこのウェルス様の神界に入るための扉の役割を果たしているらしい。

 そして迷宮内で消費された魔物の経験値の一部は、ウェルス様が復活する為の糧となっていたようです。


 結果として、俺が迷宮を突破した事によりウェルス様は無事に眼を覚ます事ができたそうだです。

 それでもまだ全盛期の頃には、遠く及ばないらしいですけど。

 これからはアフィリス様と一緒に、この世界の管理をしていくそうです。


 ちなみにウェルス様が復活し、迷宮における全権が俺に移った現在。

 迷宮内で消費された魔物の経験値の一部は俺に入る事になる。

 つまりは寝ているだけでレベルアップできるという訳だ……ここは天国なのだろうか?


 あとウェルス様、フォルクレス様、アフィリス様の全員に、他の八大迷宮を出来ればでいいので攻略してくれと頼まれてしまった。


 そこで古代の魔法やレアなスキル、何らかの融通を通してもらう事を対価に、その依頼を引き受ける事にしました。


 それからはウェルス様達に神々の話を色々と聞いて、楽しい時間を過ごした後。

 また会おう、挨拶を交わし……俺の意識は現実世界へと戻ってきた。


 ちなみに今回も現実世界での時間は止まっていた様なのだが。

 目の前にフェルとコレール、アロガンツがじっと俺を見詰めながら立っていた。


「……何をしているのですか?」


 取り敢えず、そう聞く事にしました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る