壱章 其の弐 空の吸血鬼

壱.


高校2年の5月。五月病などと言われる病気が

有名な月。人によると思うが、少しずつ

新クラスに慣れてきた頃で、恋人や友達を

作っていって青春を謳歌するビッグイヤー。

まぁ別に1年でも3年でも青春出来ることには

変わりないが、1年はやはり学校に慣れきっていない。高3は受験と、これらの理由から最も青春を謳歌するならば、高2と言う方が多いことだろう。


まぁ正直。1人でいることが多い僕としては

青春とかそういう類の、キラキラとした

言葉は無縁であるし、特段刺激的な

人生を送ってきたわけではない。

だからまぁ、

今までの平凡な物語ストーリーを

読んでも面白くないと思う。

だから高2の5月からの物語を語るとしよう。

僕の人生の中でも1番の出来事が始まる。

そう、ゴールデンウィークの初日から最終日までの物語。間藤樹と彼女、キラー・サン・バーミリオンとの奇妙で奇怪な始まりの

物語を。


弐.


間藤樹まとういつき


年齢・16歳(現在高校2年生)

趣味・読書やゲーム

特性・変人に好かれる

所属・人間



つまり僕なのだが、

自分の分と妹の分の弁当を作って、

学校へ行く為の準備を全て整えていた。

明日からはゴールデンウィークなので、

内心ワクワクしながら、家業に勤しむの

だった。ちなみに今日の献立は卵焼きと、

唐揚げ、それにきんぴらごぼうという、

それなりに派手ではない弁当になる。

というか。にしても、僕が

朝6時30分に起きて色々弁当作っていると

いうのに今更、ギイィ。という音がなる。

妹の舞が、眠そうに目を擦りながら、

自分の部屋から扉を開けて出てきた音だ。


「んー、おはよう。ふわぁ.....んっ....!?

兄さん。また卵焼き何だけど?本日で

4日連続だよ」


どうやらこの15歳のパジャマ少女、

兄に作らせておいて、文句があるらしい。


「卵焼きはいくら食べても死なないから」


そういう問題ではない。と言われたが、

コスパが良いのだから仕方ない。


「つかさ、お前今日学校あるだろ?もう7時49分だぞ」


僕はリビングを指す。

具体的にはリビングに置いてあるテレビの

上の方に置いてある時計を指して、

言った。するとmy sisterから「んっ、」と

言って冷蔵庫に貼ってある

『世良中学校知らせ★』を指差してきた。


なんだ妹。何が言いたい?

しょうがないから見てやろう。


『5月1日休日。休みでも

ちゃんと宿題をやってきてくださいね』


........あれ?嘘だろ?

確か今日も5月1日だった筈だ。


「....ん?えっ!?嘘っ!?何で休み?」


「今日、中学の創立記念日だから」


・・・・・・・。


「えー、言ってよー。兄ちゃんもう

無駄に早起きして弁当作っちゃったじゃん!!?作る必要なかったじゃん」


「だって兄さんの弁当美味しいんだもん」


「うっせぇ。休む奴は昨日の残り物か、

自分で作って食べろヨォ!!作らざる者

選択出来ずって言葉を知らんのか?」


当然そんな言葉がない事ぐらい知ってるが、

ノリで言った。


「そんな言葉は存在しないよ......というか

兄さん今日朝なのにテンション高いね。ん?

どうちたの?」


と言って彼女は首を傾げた。

その行為自体に問題はない。だけれども、

なんともまぁこのズルい。

自分のせいって分かる筈なのに、

首を傾げる+幼児言葉

の二段構えで誤魔化してきているのだ。

まるで、子供だから分かりませんよ。

という意図を感じる。特段兄弟だし

ロリコンでもないので欲情しないけれども

美人の妹がこんな事をすると、他男子が

どう思うか分かったものではない。


「お前、他人の前でその誤魔化し方

するなよ?」


「え?何がぁ?」


何というか声にエコーがかかったかの

ように、甘ったるい声に聞こえた。

何だその技術!?と思うが、

取り敢えず置いておく。

にしても何とも怒りづらい。

可愛いらしい小動物に対して何も叱れない

駄目主人を擬似体験しているようだ。


「ま、まぁ、いいや。もう兄ちゃん学校

行ってくるから、戸締り宜しく」


妹は姿勢を戻して、手を頭に添えて

敬礼姿勢を取った。


「ご無事で!」


「いや、何もないから。後、敬礼の手逆だよ」


言って僕はドアノブを半回転させて、

家を出る。そしていつも通り学校へ

向かうことになる。


── 拾分後


最寄り駅に着いて、いつも通り、当然電車に

乗り込むわけだが、今日はラッキーだ。

人が少ない。いつもは満員とは

いかなくとも、椅子は基本的に

空いてないのだが、この、僕が乗り込んだ

車両は6人程度しかいなかった。

暇なのでスマホをいじくるとする。

そうして僕が暇を持て余していた時だった。

反対側に座っている女子高生2人組の話し声が

聞こえてくる。


「ねぇねぇ、知ってる?」


「うん?」


仮にだが、この栗毛の、ねぇねぇと発言した

少女をAさんとしよう。そして、もう1人の

黒髪ロングの少女をBさんとする。

まず、Aさんが語り出す。内容はこうだった。

最近流行っている噂について。


とある男性が人っ子1人いない、夜の道を

歩いていたそうだ。すると背後から

中学生ぐらいの子供に話しかけられ、

男は「忙しいから」と言って、子供を

無視した。すると子供は怒ってその男を

殺したそうだ。


と、彼女らは10分間語っていたけれど

纏めるとこんな感じ。この話を聞いた

Bさんは「ええー、怖いぃ」などと

言っていたが、僕的にはこんなガバガバな

話をよく信じられるものだ。と素直に

そう思ってしまった。だって目撃者が

1人もいないのに、その男の人が

死ぬオチって、それって結局当事者だけで

完結してて、噂になるわけないじゃないか。

まぁ、この人達にこの噂が至るまでに、

色々脚色されたのだろうが。


などと熟考、いやというよりも自動思考マインド・トークか。していると、目的の駅についてしまった。急いで降りて、高校へと向かう。


私立箔銘高校。

全生徒1055名で、一応は偏差値70の

進学高である。全体的に白と黒で交互に

彩られており、巨大な長方形や台形の塊が

積まれるような外観。近代建築というのか、有名な建築家が造ったらしい。

僕がこの学校を選んだ理由にも少し繋がる。

1番近くて、それなりに校則が自由で、

個人的には建物自体がオシャレだ。


そして現時刻8時30分。

授業が始まる5分前にそんな学校の

クラスに入る。基本的に制服は

着ても着なくてもいいので、私服組と制服組で別れていた。そして、僕は私服を選ぶのが面倒くさいので制服組である。

バックを降して席に着くと、私服組の

金髪野郎が声をかけてきた。

短パンにアロハシャツで

片耳に大きめのピアスを開けている。

どうみても学生じゃないだろこいつと

思うが、数少ない友達である。


「よおよお、樹くん。今日はどうだい

死んでるか?」


教室の扉を開いてすぐに、

僕に向かって一直線に向かってくる。


「おい東雲しののめ、出逢って1秒で死んでるか?

って何だよってツッコンで良い?」


「やだなぁ、樹くん。死んでる?って

いうのは比喩表現じゃないか。疲れてる?

って意味の。本気にしちゃった?」


言いながら東雲は前の席に移動する。

そう、気づいているかもしれないが、

僕の前の席が東雲だ。そうして奴は

椅子の背凭れ向き(つまり僕方向)に

座って僕の机に肘をかけてきた。


「樹くん。彼女出来た?」


「出来たよ」


当たり前だけど嘘である。

もはや在ないとか言うのは、つまらない気が

してノリで言ってみた。


「へぇー、あの樹君がねぇ。例え会話の

為とはいえ、思いっきり嘘をつくとは」


一瞬で看破された。


「ほっとけ。別に嘘を付くぐらい、

誰でもしてる。というか何で急に

そんな事を?」


「僕、彼女出来たんだよ」


牛乳でも飲んでいたら思わず

目の前の金キャンパスに白をぶちまけそうに

なったであろう。え?何だって?

彼女が出来たって?


「お前.....幻覚見てんのか?」


「あっはー、面白いこと言ってくれるが

失礼だなぁー。僕にも彼女くらい出来るよ」


東雲花蓮しののめかれんに彼女だと?

何でだ女子ィ!!何でコイツを選んだ!?


「へ、へぇー。別にお前に彼女が

できょ.....出来ようがどうでも良いし?」


強がった。精一杯強がった。

というか噛んじゃった。


「できょって何だい樹くん?もしかして

できょと書いて出挙すいこって

意味かな?樹くんは古代の貸付制度に

興味があるのかな?」


「うるせぇ、噛んだんだよ!というか

分かんないよ。何だ出挙って?」


「あはは、からかっただけだって、

まさかこれだけで、辛辣な

こと言われるとは.....ちなみに今のは

からかったと辛辣の辛の部分をかけたん

だけど、気づいたかなぁ?」


気づかないし、くだらないぞ東雲君。

まぁ、コイツが普通だった試しが

ないので、もうこの話題には

触れないでおく。


「まぁ、そんな事はどうでも良いか。

いやまぁどうでも良くはないけれど、

そういう事にしよう。話題を変えようか

樹くん」


と言って、東雲は僕の机から肘をどかす。


「ん?どうした急に」


「先日面白いものを見つけたんだよ。

君も興味を示すであろう物さ」


「何だその面白い物って?勿体ぶらずに

言えよ」


人差し指を僕の目の前まで持ってきて、

左右に振りながら、


「ちっ、ちっ、チッ....分かってないなぁ。

勿体ぶるから興味が出るのではないか。

つまり言うとだな、放課後に一緒に見に

行こうってことだ樹くん」


なるほど。確かにコイツの言う事には

一理あるかもしれない。さらっと

言われない事によって、その物の価値を

期待させる。というか最後だけ

舌打ちじゃなかった?


「期待させる程の物なんだろうな?

それは?」


首を傾げながら聞いてみる。これで

くだらんもんだったら、許さんぞ

という保険をかけているわけだが、


「まぁまぁ、それに関しては大丈夫

だから、安心しなよ。この東雲花蓮が

面白くない事を選択するセンスだと

思うかい?」


数瞬考えてはみたが、

「それもそうだ」と言っといた。

確かに東雲は良いセンスしていると思う。


そして、話に一区切りついた段階で

タイミングよく英語の先生が入って

きた。やはり基本的に真面目な子が

多いからか入ってきた瞬間、煩かった

クラスの騒音が嘘のように収束する。


東雲も黒板の方向に座り直し、僕も

教科書を取り出す。まぁ、別に英語の

授業をそこまで真面目に受けるつもりも

ないのだけれど.......,

取り敢えず授業を受ける態勢は整った。

と、そう思っていた時、前の席の東雲が

僕の方を振り返ってこう言った。


「あっ、因みにだけど樹くん。僕に彼女

出来たっていうの嘘だから★」


何というか取り敢えず額にデコピンを

喰らわせてやった。


弐.


なんだかんだで、いつも通り

授業を切り抜け放課後になる。教室の

時計を見ると15時40分を指していた。


「樹くん。じゃあ行くよ」


東雲花蓮が席を立って僕にそんな

事を言ってきた。


「何処へ?」


「ええー、樹くん。それってガチで

言ってるのかな?」


うん?

僕はそんなおかしい事を言ったかな?


「朝言ったろ?面白い物を

見せてやるって」


あぁ、なるほど確かにそんな事を

言っていたような気がする....しないでも

ない。


「おいおい本当に忘れていたとは、

こりゃ次のテストで失敗するんじゃないの

かい?」


「大事な事はちゃんと記憶する脳だから

大丈夫さ」


そうかい、と言って東雲は

僕に手を差し出してきた。


「それで何処にあるんだ。その物って

やつは?」


東雲の手を握って立ち上がった。

特段そんな事しなくても良いけれど、

まぁまぁ、手を差し出してくれたのに、

断るのも辛辣かなと思った。


「歌舞伎山神社だよ」


え?と僕は思わず声を漏らしてしまう。

そりゃそうだ。だって其処は近所では

有名の近づくなエリア。つまり

心霊スポットなどと呼ばれる山に有る

神社だから。本当に霊が出るかは

僕自身行ったことないから知らないが。


「おや?どうした樹くん。心臓が止まった

ような顔しちゃって」


「そこまで驚いちゃいねぇよ!」


取り敢えず僕たち一向(2人)は、東雲の

いう歌舞伎山神社へと向かう事にする。

さっき辺境などとは言ったが、別に

それ自体の座標が遠いわけではない。

街の外れにあるのは間違いないのだが、

ここから歩いても10分程度。

だから歩こうということで、

僕たちはタクシーに乗り込んだ。

ん?え?


「あの、東雲さん」


「何だい?まさかここに来てオシッコが

漏れそうだとかそういう事を言うんじゃ

ないだろうな?」


「いや、そうじゃなくて。たかだか

10分程度の距離にタクシーを使いますかね?

さっきまで歩こう雰囲気だったじゃん」


「あッははは。そんな雰囲気は幻想さ。

あっ、タクシーさん。そこ右に曲がった方が

近いんでお願いします......だってタクシーの

方が疲れないじゃないか?」


いや、そうだけども!

そういうことじゃないんだよ。

言いたいのは、金の話である。

コイツに常識というのは通じないの

だろうか?僕はタクシーの椅子に深く

沈み込み、


「お前の家って金持ちだっけ?」


「あん?んなこたぁないよ。

いたって平凡な家族さ。年収も

平均より少し高いぐらいだ。あっ、

タクシーさん。そこは左で」


じゃあもう何も言うまい。

お前には常識は通じないことが

分かった。というかタクシーさんなんだ。

運転手さんとかはよく聞くけども。

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