空の吸血鬼

壱章 其の壱 空の吸血鬼

壱.


たいていの中学、小学生が

眠り、大人の時間が支配している刻。

最近の建築ラッシュに拍車がかかったせいでビルが雑木林のように乱立している。

周りには誰もいない。

そこで、彼、間藤樹まとういつきは全力で走っていた。


「はぁ、はぁ、はぁ.....っなんで!!?」


いや、

競技なんかで走るスマートさのカケラも

なく、茶色の制服を右へ左へ派手に

揺らしながら、まるで泥棒のように

汚く惨めにただ走る。

一歩一歩と歩を進める度に体が振動し、

首元の傷口から血が弾け空中に飛んでいく。

微かな痛みが脳にズキズキという感覚を

伝えるが脳側は受信しない。麻痺している。

そんな事がどうでも良くなるぐらいには

怖いのだ。兎に角怖い。それだけ。

本能が脳を支配する。


「くっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


全力で叫んだ。叫びながら走ると

体力をより消耗するとか、そんな事を

考えている理性はない。

間藤は走りながら背後をチラッと見る。

やはりまだいた。


20メートル離れた地点にそれは在し、

急ぐ素振りもなくゆっくりと歩を進め

僕に向かってくる。だが、ただそれだけで、

とてつもない圧迫感を放つ。履いている

ヒールがアスファルトを踏む度に、コン、コンと鳴り響き、その音が確実に獲物の

寿命を減らしているような、そんな感覚に

陥らせた。濃厚な死の香りだ。

13歳前後の少女にしか見えないソレに

僕は確実に追い詰められている。

白を基調としたドレスに紫色の髪。

染めたような違和感はない。生まれた時から

紫色なのだろうか。

ハッキリと言えば最初見た時、

そんな少女を美しいと思えた。だが

騙された。その妖艶な魅力を持つ少女に。

いや、


────化け物に。


化け物はただ一言口を開く。

怪しく蠱惑に。可愛いげを

備えたその声が。


「.......死になさい」

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