第5話


『はぁ…』


楓は家のリビングでつい、ため息をついてしまった。


それを祖母に聞かれていた。


『どうしたんだい?楓。なにかあったのかい?』


祖母は少し心配そうにたずねた。


楓はリビングのイスに腰掛け言った。


『いや、なんでもないよ。ちょっと疲れちゃって』


すると祖母は棚からおはぎを出しながらクスクスと笑った。


『なにを言ってるんだい。まだまだ若いのに、今のうちから疲れていたら大変よ。楓。』


楓はおはぎをうけとり、口に放り込む。


『そーだよねー。わかってるけど、色々考えちゃって。』


モグモグとおはぎを噛みしめニコッと笑ってみせた。


笑わなきゃ…

心配かけたくない…



心にモヤモヤとしたものがとれない。


『楓。何か心配事があったら遠慮なく言うんだよ。おばあちゃんがちゃあんと聞くからね。』


祖母は楓の頭にポンっと手をやった。


『ありがとう、おばちゃん。大丈夫だよ。』


言えない。相談できない。

自意識過剰な問題かもしれない。

わからない。


大丈夫だ、と答えるしか無かった。


するとピンポーンとインターホンが鳴る。


ビクッと少し楓の体がびくついた。


『あらあら、先生来たんだね。今日もお勉強頑張ってね。楓。私は買い物に行ってくるからね。おじいちゃんも今日はお友達と飲んで来るらしく遅いみたいだよ。』


『はぁい。』


楓は返事をしながら玄関へと向うと、いつもと変わらない柔和な笑顔の井上が待っていた。


こんにちわ、楓はといつも通りに挨拶をして部屋に招き入れた。



井上はいつものポジションであるクッションに座り

いつも通りに教科書は開く。


あれ…?いつも通りだ。

やはり自分の勘違いだったのか?

楓はそう思った。


『さぁ、今日は…この教科書だよ。』


『…は??』


『保健体育だよ。』


何を言っている?テストに保健体育なんて科目は無い。


『先生…?』


戸惑う楓を全く気にしない様子で井上は楓に問う。


『どうしたら子供が出来るか知っているかい?』


『…は??』


楓はポカンと口をあけた、が質問の意味を理解し怪訝そうに答える。


『知ってます…けど…それが…?』


『そうか、さすが優秀だね。楓ちゃんは。

そうそれはね、男性器を女性器に入れて交尾をするんだ。わかっているね?』


楓は顔を紅潮させて俯いた。


『……。先生、言っている意味はわかりますが、何故そんな事を言うのです?なんの為ですか?』


井上は俯いた楓の顎をクイッとあげて、楓と目を合わせる。


『なんの為だって…?そんなの決まっているだろう?楓ちゃんは僕の事が好きだろう?僕も楓ちゃんが好きだ。

だから儀式をしよう。証を作ろうじゃないか。』



井上はじっとりとした目付きで楓を見てうっすらと笑った。


楓は咄嗟に井上の手を払いのけて声をあげた。


『意味がわかりません!!なんなんですか!?怒りますよ!?』



楓が払いのけた井上の手はすぐに楓の手首を掴まれた。


『そうそう。怒り。それは正しい感情だ。

だけどね、それは今じゃないだろう?今は喜ぶんだ。僕に愛されて幸せだと…ね?』


尋常じゃない気配を感じて楓は立ち上がろうとするが、簡単に阻止されてしまった。


『まぁ、そうなるよね。楓ちゃんは頭が良いからね。』


井上は楓の床に押さえつけ言った。


『でも、それが美しさだから。それでいいんだよ。』


『…やめて!!離して!!』


楓は体をジタバタとさせて抵抗するも大人の男には到底かなわない。


『何を恥ずかしがっているんだい…?大丈夫だよ。僕に全部任せて。今日は…おじいさんと、おばあさん、帰り遅いんだろう?それまで存分に楽しもうじゃないか。オタガイニ。』


駄目だ駄目だ駄目だ。

体がこわばって、いうこときかない。

井上が笑っている。

見たことのないような不気味な笑顔で。


『や…』


声が出ない。

楓は咄嗟に近くにあったクマのぬいぐるみを井上に投げつけた。


が、しかしこれも防がれてしまう。



『可愛い抵抗だね。本当は嫌じゃないんだろう?

僕の事が好きだもんね?さぁ…服なんていらないだろう?邪魔な物は全部とってしまおうね。』


井上は楓の両手を頭の上で組ませ、掴んでいる。

もう片方の手で、楓のブラウスのボタンを一つ一つはずしていく。


『…やだっ!!離して…!!』


『もう離さないよ。ずっとこの時を待っていたんだ。怖くないよ。…ほら上は脱げたよ。』


なすがままにされ、楓は恐怖のあまり涙を流した。


『…やめて…お願い…』


井上は楓の涙に更に興奮する。


『あぁ!素晴らしいな。本当に。美しい。実に綺麗だ。』


言いながら楓の涙をベロリと舐めた。


『…ひっ!!や…やだ…!』


『可愛い。本当に可愛い。

あれあれ、ちゃんと素敵な下着をつけているんだね。僕の好みの白い下着。これもとってしまおうね。』


楓は泣きながら懇願する。


『お願い…します……やめ…やめて…』


井上はハハっと笑う。


『これからだよ??楓ちゃん、素直になろうね?

愛しているだろう?僕の事。』


楓はキッと井上を睨み付けて叫ぶ。


『誰があんたなんか…!!やめてよ…!触らないで…!!気持ち悪い…!!あんたなんか大嫌い…!!最低…!!』


井上はピクッと表情を一変させた。

冷たく、酷く冷めた目を楓に向ける。


『…なんて言ったの?聞こえないなぁ…。

まさか僕の事が嫌いなんてありえないんだよ?


…楓ちゃん、さぁ…力抜いて。

僕と1つになろう。』


やだ…もう…だめだ…。

抵抗も一切通用しない。

おじいちゃんも、おばあちゃんも帰ってこない。


もう…なんなんだ。

この状況。

なんなの。

なんで私、イカれたこんなやつに。



下着も全て剥がされ、楓の全身をくまなく井上の舌が這いずりまわり、泣こうが喚こうが、井上は興奮し喜ぶばかり。


『…じゃ、楓ちゃん、これで1つになれるね。』


井上の局部が小さな楓の体に突き刺さる。


口を手で覆われ、叫んでも声を奪われる。


体を床に押し付けられ、ゆっくりと何度も何度も何度も腰を叩きつけられ、楓の太ももには血液が流れ出した。


『これでやっと1つになれたね。どうだい?』


もう動かないで…

痛いの…

もう痛いの…


『楓ちゃん綺麗だよ。』


もう…やめて…。

もう…嫌…。


井上はなお、楓の上で腰をふりつづけた。


『楓ちゃん、これが…僕の愛だよ。』


わからない…

知らない…

そんなの…



『これで僕と楓ちゃんは繋がった。

これから毎日だね。愛を育んで行こうね。』


何を言ってるの…?


『楓ちゃん、愛してるよ。』



楓は意識が朦朧としていてもう抵抗する力は残っていない。


もう…駄目だな…。

もう…いいや…。

どうでもいい…。


ん……?


あ……これ…


『楓ちゃん、ずっとずっと僕が君を汚していってあげるからね。僕色に染まろう。』



その時。


井上の首から血しぶきがあがる。



『え……?』


井上は状況を掴めていない。


『……汚れてるんだよね…?もう私。』


楓は床に落ちていたシャープペンシルで力任せに井上の首目掛け、突き刺したのだ。



『そう…。これが愛…?あんたの言う愛なんだね。』


楓は井上の返り血を浴びながらつぶやいた。



『いいよ…、あんたの愛って奴を受けて止めてやるから…


私の愛も受け取ってくれる…?』



楓は床に散らばった文房具の中からカッターを拾い上げた。



井上は首からの出血に戸惑いうろたえているだけ。


『なんで…?血が…?

… …!!

お前…!!よくも…!!!』


状況をようやく理解した井上は楓の首に掴みかかろうと手を伸ばした。



『…もう遅いよ…センセ。』


楓はカッター持った手を井上に振り切った。


井上の目の下にサッとカッターの刃が刺さる。



『ぎゃあぁあああぁあぁ…!!!!』


井上は咄嗟に顔面を手でおった。


『痛い…?次はね。』


楓は素早くカッターを持ち替え、井上の肩をカッターで突き刺す。


『!?!?!?!』


『センセ、痛い…?』


生気を失ったこのように思える楓の瞳に井上は若干怯む。


『はぁ…!?!?お前…こんな事して…!!』


『こんな事したの、お前だよ。』


更に井上の脇腹にもうひと刺し。

カッターだからそんなに威力無いが、武器としてはかなり使えた。


『痛い…!!!やめろ…!!お前…!!!』


『痛い?やめろ?それ…私が言っても聞かなかったよね…?センセ、無理やり…私に何したの?』


『そ…!!それは…!!僕の愛を…!!教えてあげたんじゃないか…!!


……ひっ!!!!』


言い終わると共に小さく悲鳴をあげた。


『ソレデ…?』



楓の様子がおかしい。正常な目付きをしていない。


『それでって…その…』


井上は口ごもる。


『ソレデ…?ナニ…?


教えてあげるね。センセ。


これが私のアイだよ。』


そう井上に告げると、楓は思い切りカッターを振りかざし、サクッと井上の局部にカッターが刺さる。


『ぎゃぁああああああ…!!!

イダイ…!!イダイ…!!ひぃぃ…!!』


井上は体を丸めて局部を押さえて猛烈に叫んだ。


『痛いよね…??ねぇ…センセ、これでもセンセの愛って証明できるの…?

…それ…まだ…使えます?』


楓は怯むことなく、井上に詰め寄る。


『早く証明してくださいよ。

もう…こうなったらなんでもいいんですよ…。

私…

もう…殺意しか無いんですよ。

このまま、お前を殺して私も死ぬ。

ソレデイイ…?』



楓の目は完全に死んでいる。

光が無い。

脅しでは無い。

本気だ。


『やっ……!!

ちょっと待った…!!

ちょっと待った…!!


やだなーもう、僕、こんな怪我くらいなんともないよ!!

全然平気っ…!!

ましてや、楓ちゃんにやられたなんて誰にも言わないし…!!』


井上はぶんぶんと首をふり、手をふり態度を一変させた。


『言えないだろう。お前がしたこと考えてみろ。


お前が自分勝手な理想を私に押し付け、愛だの美しいだの、散々ほざいたあげく、なにをした…?


お前に今、生きてる価値はあるのか?』


『やっ…やだなー、楓ちゃん…。

人間誰しも生きる価値はあるんだよ??

間違いは誰にだってあることだろう??


僕は…!!勘違いしてただけなんだ…!!

楓ちゃんは僕に気があると思って…』


『黙れ。』


井上はサーっと顔色がどんどん青くなっていった。


『だから…!!勘違い…!!

ごめん…!!ごめんなさい…!!』


『ダマレ…って言ったの。聞こえないの…?』


目の下、肩、脇腹、局部を楓に刺されている井上は逃げ出そうにも逃げ出せない。

思っている以上に出血している。


『カンチガイ…ねぇ。

じゃあセンセ、私もカンチガイでセンセ殺しても文句無いよね…?』


楓は井上のネクタイを掴み、自分の方へと引き寄せた。


『ねぇ…?それでイインダヨネ…??』


『だ…!駄目です…!!』


『…ダメ……??』


井上は体を小さくさせながら訴える。


『僕が間違っていました…!!

本当に申し訳ないと思っている…!!

許してほしい…!本当にすまなかった…許して…。

僕が死んだりしたら楓ちゃんも困るでしょ…!?

殺人犯になっちゃうんだよ…!?

だから…ねぇ!!助けて…!!』


『謝罪と要求を一緒にするな。 別にお前が今ここで死んでも私は後悔するつもりはない。

殺人犯でもなんでもいい。』



『ちょっと待って…!!たんま…!!見てよ!この傷!本当にヤバイんだって…。だからそのここは許し…』


『お前の傷の具合がどーだとか私には関係ない。関係してるのはお前はここで死ぬか、ここで社会的に死ぬか、どっちがいい?お前の精液は残っている。証拠はある。お前の傷はこっちの正当防衛で通す。』


『そ…そんなの…!!』


井上が抗議しようとした瞬間、楓が話を遮る。


『どっちにしろ、お前は死ぬ。

選びなよ。ここで私に殺されるか、女子中学生レイプ犯として生き延びて底辺、最悪ハードモードな人生を送るか。

……どっちがいいんだよ?

ねぇ……。優しくない?選択肢があるなんて。』



『これが選択肢……かよ……。』


井上は脇腹の傷を腕で庇いながら楓に問う。


『楓ちゃん。君の考え次第でもっと素晴らしい生き方が出来るよ。

第3の選択肢があると思うんだ。

どちらもメリットがある。』


『……あんまりイライラさせないでくれる?

もううんざりなの。お前の素晴らしい生き方だとかそーゆーの。ほんと、気色悪い。それに何故、お前にもメリットを与えなきゃならないの?馬鹿なの?』



井上は力なく笑いながら言う。


『驚いたな。これが本当に楓ちゃん?

その口調やら態度やら全く別人だね。

……これが本性ってところかな?

良い子良い子と育てられれば良い子にならないと、という変な責任感みたいの生まれちゃうからね。』


『さっさと本題を言え。お前に付き合ってるのが馬鹿らしくなる。』



『はいはい……お手柔らかにね……。

第3の選択肢。

それはね。』






























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