第105話:その頃彩乃はⅣ

「これから話すことは他の一年生部員には内緒にしてほしいんだけど、実はウチってマネージャー・年上年下とか関係なく気付いた人が部活の準備して、それをまた気付いた人が手伝ってっていうルールでやってるんだ」


「えっ、そうだったんですか? てっきり私は練習で使うボールを大学に借りてる保管場所から持ってきたり空気調節をするのも仕事のうちだと思って実は早めに家を出てたりしてたんですけど」


(そういう他人を気遣い過ぎるところはちょっとひーくんと似てるかも。まあ彼の場合は不安になりながらっていうのに対してこの子の場合は純粋にいい子ってだけなんだろうけど)


なんて考え事をしながら私は少し得意げな感じで


「でもあかりが来た頃には既に全部準備済みだったりしたんじゃない?」


「そうなんですよ! でも一昨日に関しては私以外にも二人一年生がいたのでその人達が持ってきたのかな? とか思いつつもちょっと悔しかったんで昨日は更に早く来たのに全部準備されてて。でもあの場にいたのは一之瀬先輩だけだったはず………」


「ここで次の質問♪ ウチの部にはさっき明日香が言った独自ルールがあるにもかかわらず何で新入部員であるあかり達には教えなかったと思う?」


そんなクイズみたいな感じで問いかけると彼女はすぐに答えが分かったのかどこか気まずそうにしながら


「えーと、先輩達が後輩にそういった雑用を強制させることによって『自分達が年上だからって偉そうに』みたいな反発心を持った人達が出てこないように……でしょうか?」


「と、このようにあかりちゃんみたいな考えを持った今どきの子達が他にも出てこられても面倒だから先輩達が自らお手本を見せ、自発的にやらせた方がお互いストレスなく済むのではないか。という案をこの前のミーティングで提案したのが」


「私の彼氏で~す♡」


「で、単純に言い出しっぺだからとかではなく自分の家が一番近いからという理由から『俺がその役目をやる』と名乗り出たのがよーくんってわけ」


「えっ、あの、ちなみに私昨日は朝の8時頃に来たにも関わらず全部準備が整ってたんですけど、あれを全部一之瀬先輩が一人でやったってことは……」


「昨日ひーくんが家を出た時間的に多分7時半頃には既に大学に着いてたんじゃないかな?」


(一昨日の夜彼の膝の上に座りながらゲームをしてる時に)


『多分今日上原は自分が部活が始まる前に準備をしなくちゃって考えて早く来たんだと思うけど、それだと他の一年はその役目はマネージャーがやるのが当たり前みたいに勘違いしそうだから念のため明日は7時15分くらいに出発するから朝ご飯は自分で何とかするわ』


(って言ったし。ちなみにウチの部活開始時間は朝の9時なので大体10分前までに集合していればOKであり、ひーくんの家にお泊りした日はいつも8時半頃に出てきているので彼が普段よりどれだけ早く家を出てきたのか。そしてどれほど私が愛されているのかは子供でも分かることだろう。まあこれは私だけの秘密だから誰にも教えないけど)


(嬉しすぎてつい夜中までイチャイチャしてたら本当は私も早起きして一緒について行くはずが完全に寝坊するという失敗をしちゃったけど、ひーくんが私の分の朝ご飯とお弁当を作ってくれてて更に嬉しくなっちゃったり、そのせいで部活が始まるまでの間みんなにバレないよう隠れていっぱいキスしてたことも……ひ・み・つ♡)

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