第106話:GW合宿一日目 (彩乃視点)

今年もGWの時期がやってきたとともに運動部に所属している高校3年生にとってはこれが最後の大会になるかもしれない、そして高校総体出場を掛けた予選大会が2週間後に迫っているためウチの部は今日から2泊3日の予定で組まれたGW合宿がつい先ほど始まった。


ということでまずは合宿時恒例らしい、そして去年のショトルランで学年一位だったひーくんですらかなりキツそうだった練習前のランニングが現在行われており


「はい、ひーくん・寺嶋君はあと5往復。向井・菱沼はあと6往復。○○君達はあと7往復」


「丁度仮入部期間の辺りから一年生の間で流れ始めた一之瀬先輩に関する噂の中に去年のシャトルランで学年一位を取ったらしいっていうのがありましたけど、あれってやっぱり本当だったんですね」


そう口では言っているものの目の前の現実が受け止めきれないのか虚ろな目をしながらあかりは続けて


「一年生部員の先頭が○○達で残り7往復なのに対して一之瀬先輩と寺嶋先輩は残り5往復。……お二人はソフトテニス部ではなく陸上部の方でしょうか?」


「まあ寺嶋君に関しては中学時代に駅伝部とテニス部の掛け持ちをしてたらしいから、あかりちゃんの言ってることもあながち間違いじゃないよ」


「なるほど、それなら納得です!」


(目に光が戻ったところ悪いけど、今明日香は『寺嶋君に関しては』って言っただけでひーくんもそうだったなんて一言も言ってないんだよなぁ)


「よーくんは完全に才能任せで走ってるだけみたいだけど」


「………………」


(あーあ、小さくとはいえ口を開けたまま固まっちゃった)


なんてことを考えながらあかりのちょっとだらしない姿が他の人達に見られないよう自分の背中で隠れるように立ち位置を微調節をしていると、こうなった原因こと明日香さんが手に持っていた記録用紙を見ながら


「去年の夏合宿でのよーくんと寺嶋君の一往復に掛かっていた時間は約10分なのに対し、今回はまだ半分とはいえ約8分ペース。しかもよーくんに関しては春休み辺りからずっと調子がいいみたいだし……これはもしかしたら、もしかするかもしれないね」


予選突破自体はよっぽど相手が悪くない限り三年生組は全員余裕だろうと顧問の先生が言っていたが、全国大会へと進めるのは当たり前のことながら1ペアのみ。


しかもウチの県には全国大会団体・個人ともに毎年出場、優勝するのが当たり前。県レベルの大会であれば男女ともにベスト8が全て同じ学校の生徒という漫画みたいな化け物高校が存在するのだが、この世界はどこぞの王子様の世界とは違うのはもちろんあながち明日香の言うことも間違いではなかったりするものの


「まあ、本人はその事実に全然気付いてないみたいだけどね」


「よーくんに関してはそれでいいじゃない。というかそれでこそ彩乃ちゃんの彼氏でしょ?」


そんな私達の会話を立証するかのように5往復目を終えたトップのひーくんと、その少し後ろを走る寺嶋君の姿が見え始めた。

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