第56話:その頃彩乃は
私の腰に回されている左手と頭にある右手がこういうことに慣れていないせいで居心地悪そうにしていながらも、それでも頑張ろうとしているひーくんの気持ちが伝わってきたと同時に心地よさやら保護欲やら独占欲やら……とにかく色んな感情が溢れ出してきた私は彼の胸に顔をうずめながら、今度はちゃんと力を込めて抱きしめ返した。
するとそれが彼の中では自分の行動が女の扱い方の正解であることの確信に変わったのか
「彩乃が今泣いている原因は俺にあって、彩乃が毎日弁当を作ってくれていた理由の一つにお金じゃお返しにならない何かがあることまでは分かったんだけど……分かったんだけど、こっからはどうしても分からないんだわ」
(ひーくんは明日香に怒られた後からずっと私が泣き出した理由を考えて、考えて、考え続けたのだけど……どうしてもそこで詰まっちゃったんだね。でもそうやって何が原因なのか考えてくれたことは凄く嬉しいし、今のあなたがここまで分かったのならもう100点満点だよ)
(だからこの先は私と一緒に考えて、次に繋げて―――)
「でも二度と同じ失敗はしない……いや、もう二度と彩乃のことを泣かせるようなことはしないって誓うからそもそも別れる気なんて一ミリもないけど……もう少しだけ時間をください」
男女で考え方が違うのは当たり前のことであって一方的に
『なんで私の気持ちを分かってくれないの?』
なんて怒ったところでマイナスにしかならないし、何よりひーくんみたいな恋愛下手な人を相手にする時は特に一緒にどこが悪かったのか考えてあげた方がいいだろうと思っていたのだが……彼氏が自分のためだけに頑張るからと言われて期待しないわけがなく、その気持ちを態度で示すために抱きしめる力を少し強めてから小声で
「(じゃあ、絶対に私と別れないっていう証拠をホワイトデーのお返しにちょうだい?)」
(………これはちょっと意地悪すぎたかな? でも撤回してあーげない♪)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます