第40話 神のいたずら
現在の季節は秋だ。
ルクレツィアは落ち着かない日々を送っていた。
死亡エンドが起きるのは恐らく冬休みが明けた頃。
学年が終了する少し前に死亡するはずなので、まだ時間には猶予がある。
ルクレツィアとしても死亡ルートも確定しメルファもいない今、このまま学園に留まる必要も最早なくなっていた。
ゲームが終了するまでは監禁されても致し方ないとも思っている。
ルクレツィアはアルシウスがどの様な提案をしても、受け入れようとそう決めていた。
それよりもルクレツィアにはやりたい事ができた。
慈善事業を本格的に進めていきたいとも思っていた。
今朧げながら考えている事は孤児院の子供達を含めたお金がない家庭の子供達の学力向上とサポート体制の強化だ。
それが出来れば軽犯罪ももっと少なくなり、この国ももっと安全になりもっと豊かになる。
ルクレツィアは前世の記憶があるので、それが実現する事が可能なのも知っている。
聖女がこの国を豊かにすんじゃない。
私達の知恵と行動でこの国を豊かにするんだ。
聖女がもちろん、災害を少なくしてくれて、豊作を約束してくれるのかもしれないが、それは一時の間に過ぎない。
現に500年前の聖女が崩御した後の歴史は散々なものだった。
努力もせず実りを得ていた土地は荒廃し、病原菌も蔓延し、内乱も起こっていた。
ルクレツィアは、それはすべて聖女の力に甘えていたツケが返ってきた結果だと思っている。
聖女の祈りは永遠ではない。
その後荒れた国は、国王の代が変わりその施政のお陰で荒れた国政を見事に立て直した。
今でも賢王として語り継がれている。
そう、聖女は必要ない。
人々は未来を自分達で開拓する力がある。
聖女はそれを見守るだけで十分だ。
心の拠り所になるのは神だけでいい。
人々に神がいらないと言うつもりはない。
神は人々の心の支えとして必要な存在だと思っている。
だって人は弱い生き物だから。
時には逃げたい時もある。
だけど、それは聖女じゃなくていい。
聖女というものが、なぜ存在するのか……。
ルクレツィアは神を恨めしく感じたが、神のせいではないと思い直す。
あくまでも自分達、人々がどう聖女と向き合っていくかで未来が変わっていくのだから。
だから私達は自分達の力で未来を切り開いていかなければならない。
その為には教育が何より大切だとルクレツィアは感じていた。
こう思えるのも前世の記憶があるお陰だ。
神は何を思い給うか……。
私の記憶も神のいたずらか。
それは永遠に分からないだろう。
それでいい。
ただそこに在る、現実に存在する事象に嘘偽りはないのだから。
私達がそれを使いどう生きるか。
全ては自分達に委ねられている。
それが一番重要であり、未来に繋げていく為にどうありたいのか。
幸運な事にルクレツィアは国政に近しい存在であり、財力もある。
やってみせようじゃないっ。
浅ましくもしぶとく生き抜けたなら。
私はこの世界の未来をほんの少しだけ変えたい。
自分の力なんて、微力だって分かってる。
全然大筋の未来になんて影響ないのかもしれない。
それでいい。
ただそう願う自分で死ぬまでいたいと思う。
どうせ自分の行動に影響力なんてない。
時にはそう思う事もあるかもしれない。
それでも。
私は願う事を死ぬまでやめない。
なぜなら……。
私はこの星が好きだから。
この世界に生まれた事を幸せだと感じているから。
前世の記憶を思い出せて良かった。
思い出せなかったら、それすら気付く事なく死んでいっただろう。
ああ、感謝せずにはいられない。
それが、ただの神のいたずらだとしても……。
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