第38話 遂に攻略対象者全員に知られました
あの後、ルクレツィアとカークとレオナードはアルシウスに連れられて王太子の部屋へと移動した。
そして現在クレイとも合流し、王太子の部屋の中にある応接室で、アルシウスとクレイとルクレツィア、カークとレオナードの5人で向き合ってソファに座っている。
アルシウスとクレイの間にルクレツィアは座らされ、カークとレオナードは向かいの席に腰掛けている状態だった。
そんな中、アルシウスが恋愛ゲームの事、ルクレツィアの前世の話を2人に説明して聞かせていた。
ルクレツィアはその説明している間、用意されたお茶を飲みながら、どうにか心を落ち着かせた。
今は羞恥で見悶えている場合じゃない。
生徒会室でクレイとの事を聞かれてしまったのは、も、もう……どうしようもない。
そ、それより、メルファの事を第一に考えなくてはっ。
そう思ったが、恨めしくなりクレイの方を睨む様に見上げると、彼はその視線に気が付きルクレツィアを見詰め返した。
そしてクレイは愛しい人を見る様な甘く蕩ける笑みを浮かべてくるので、ルクレツィアは思わず頬を染めた。
「ちょっとちょっと、イチャつくのは話が終わってからにしてよね。」
レオナードが水を差す様に言葉を発してきて、ルクレツィアは慌てて言った。
「イチャついてなんかっ」
「レオナード。」
咎めるようにカークが名前を呼ぶ。
レオナードはぶっきらぼうに言った。
「もう大体話は分かったよ。要するにルクレツィアには前世の記憶があって、その中にこの世界がゲームとして存在してたって事だよね?それでそのゲームの中で聖女が好きな人を選択すると、ルクレツィアが死ぬ事になる、ってそういう感じ?」
いつの間にかレオナードが、公爵令嬢であるルクレツィアを名前で呼び捨てにしているが、敢えてルクレツィアは指摘しなかった。
アルシウスが頷いて言った。
「そうだ。今までルクレツィアはそのゲームで起きた内容を書き起こして様々な事を的中させてきた。主な内容としては聖女の覚醒、聖女の誘拐事件。公にはなっていないが王都に大火事が起きるのを未然に防ぐ事もできた。この事は一般的には内密だがカークとレオナードは知っているな。」
その言葉に、カークが驚いた顔で聞き返した。
「それらを全て言い当てたのですか?」
「ああ、そうだ。誘拐事件も知っていたが、防ぐ事ができなかった。だから大火事は何としても阻止したかった。王都で大火事が起きれば大惨事だからな。彼女が教えてくれたお陰で最小限に抑える事ができた。」
そう言ってアルシウスがルクレツィアを見遣った。
ルクレツィアもそれに応えるために、アルシウスへ顔を向けると無言で頷いた。
そう。報告で大火事の事件を無事に解決したと教えてもらった。
工場が爆発を起こして王都を炎の海にするイベントだ。
聖女の力でそれを抑え込むのだけれど、実際に起これば死者の数は計り知れない。
工場の爆発は起こったが最小限に抑え、聖女の力は必要ない程度だったが、念のためメルファの力で鎮火させた。
そしてその後も大火事は起きていない。
大火事ではなく小火事だけれど、一応発生したと判断されたのかもしれない。
いずれにせよ、必ずしもゲーム通りにイベントが進む訳ではない事を私達は知ったのだ。
これはフラグを折ったと結論付けてもいいと思う。
そう、その出来事は、未来は変えられるんだと希望を持つ事ができた。
すると突然、扉を誰かが叩く音が聞こえた。
「入ってくれ。」
アルシウスが扉に向かって声を掛けた。
「失礼します。」
扉を開いて入ってきたのは、イアスだった。
イアスを確認するとアルシウスが言った。
「よく来てくれた。ここに掛けてくれ。」
そう言われてイアスは一礼をすると、レオナードの隣に腰を下ろした。
ルクレツィアは慌てて立ち上がると、お茶の用意を始めた。
何故なら人払いをしているため、侍女が部屋にいないからだ。
アルシウスがイアスに向かって口を開いた。
「実は彼らにもたった今、ルクレツィアの秘密を話した。これからの事を話し合うために、イアスにもいてもらった方がいいと思って来てもらった。」
その言葉にイアスが頷くと、アルシウスはカークとレオナードに向き直って言った。
「既にイアスはルクレツィアの秘密を知っている。そして色々と協力を頼んでいたんだ。」
ルクレツィアはお茶の用意ができるとイアスの傍らに行き、カップを置いて紅茶を注いだ。
「ありがとうございます。」
イアスが笑顔でルクレツィアに答える。
するとクレイは一瞬顔を顰めたが、それ以上何も言わなかった。
そしてアルシウスが口を開いた。
「じゃあ、次はレオ。生徒会室での事を詳しく説明してくれ。」
「了解。」
レオナードが返事を返すと、クレイとのイチャつきは隠してみんなに話し始めた。
恐らくアルシウスの事を思いやっての事だろう。
アルシウスがルクレツィアの事を好きなのは、側近なら誰しも分かりきった事実であり、クレイとルクレツィアのイチャつき話なんて聞きたいはずもない。
その事にルクレツィアは少なからず感謝をしながらレオナードの話を聞いた。
レオナードが話し終えると、カークが考え込む様に言った。
「……それでメルファが生徒会室で、自分が原因でモンタール嬢が亡くなってしまうかもしれない事を偶然聞いてしまったと……。そういう事ですか。」
それを受けてクレイが口を開いた。
「まさかあの時、隣の部屋に人がいるとは。……軽率だった。」
珍しく酷く落ち込んだ声を出した。
ルクレツィアは、メルファの事をどうでもいいと考えてる様なクレイが、なぜそんなに落ち込むのか分からなかったが、その様子を見て何だか心配になった。
クレイに対して咎める様に言ったのはレオナードだった。
「ホントだよ。これが機密情報なら大問題だ。普通、人がいないか確認するよね?この失態をアルに報告するかどうか、正直悩んでた。でもクレイ達の話してた内容も変だし、少し様子を見てたんだ。」
「ああ……レオの言う通りだ。あの時は冷静になれてなかった。不甲斐ない。」
なるほど。
落ち込んだのはそういう理由だったのか。
ルクレツィアは沈んだ声の理由を知って、自分はそれすら思い至らない事を恥じた。
だがアルシウスはクレイの言葉が気に掛かった様で、不思議そうに口を開いた。
「クレイ。なぜ冷静になれなかった?」
その言葉にクレイは言葉を詰まらせた。
「それは……」
「時間が無かったからだよ。」
レオナードが口を挟んだ。
「あの時急いでるとか、確かそんな事を話してたよね?」
レオナードがクレイにニッコリと微笑んで見せた。
「そうだ。だから確認を怠ってしまった。」
クレイも同調した。
だがそのやり取りを黙って聞いていたカークは、その言葉に納得していない様子でルクレツィアを見て目を細めた。
その意味ありげな視線にルクレツィアは困った様に微笑んで応えた。
それはそうだ。
さっき私はカークの前で散々赤い顔を見せたし、レオナードがあんな事とか言っていたんだから。
カークは本当の理由を理解しているに違いない。
「……まぁいいだろう。クレイ。今度からは気を付けてくれ。」
アルシウスも何か含んだ様な物言いでクレイに声を掛けた。
まぁいいだろうって何?
とりあえず納得しといてやるって感じの言い方だよね?
まさかイチャイチャまでは察してはないだろうけど……。
さ、察してないよね?
ルクレツィアは冷や汗をかくのを止められなかった。
「ああ。すまない。以後、気を付ける。」
クレイがそう言い、アルシウスと目を合わして頷き合った。
それからアルシウスは、再びカークとレオナードの方へ向き直ると言った。
「では確認だが、この話を2人は信じるか?」
その問いに、レオナードがまず最初に口を開いた。
「王太子殿下が信じてるなら俺も信じまーす。別に俺には関係ないし。俺が信じようが信じまいが何も変わらないよね。でもそうか。よくよく考えたら俺の事、よく知ってるんだぁ……」
そう言ってルクレツィアを射貫く様な鋭い瞳で見詰めてきた。
口が笑っているのに、目が笑ってない。
ルクレツィアはビクッと震えて身を竦めた。
こわっ!
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