第31話 イアスの悩み
イアスは中庭でルクレツィアとお昼を食べるため、ベンチに腰掛けて待っていた。
目の前にある噴水の水が光り輝いて、キラキラと光の雨を降らせている。
イアスはそんな光を見詰めながら、考え込んでいた。
その姿を見つけたルクレツィアは声を掛けようと手を上げたが、真剣な表情を見つけて思わず立ち止まった。
イアス様?
何だか最近、イアス様の様子がおかしい。
時々、何かを考えている様な……悩みでもあるのかもしれない。
イアス様は聖女救出にも参加してくれてたし、……やっぱり攻略対象者だと思う。
攻略対象者達にはそれぞれに何か暗い過去だったり、辛い想いや悩みを抱えてたりしてる。
だから、イアス様にも何か悩んでる事があるんじゃないかと思う。
それに……。
この間の魔法。
言わないでと言っていたけど。
あの魔法は、きっと……。
そう考えた所で、イアスがルクレツィアに気が付いて笑顔を見せた。
ルクレツィアも意識が引き戻されて、イアスに笑みを返すと隣に腰掛けた。
「お待たせしました。イアス様。」
「私も来たばかりですから。」
そう言い、イアスが不思議そうにルクレツィアの大きなバスケットを見詰めた。
「今日はお昼の用意がいらないと言っていましたが……」
それにルクレツィアも頷くと言った。
「はい。実は今日は、この間助けていただいたお礼も兼ねて、お昼を用意させていただきました。」
そう言うと、ルクレツィアはバスケットからサンドイッチや料理を取り出して並べ始めた。
それを見たイアスが優しく言った。
「友人として当然の事をしたまでですから、お礼なんていいんですよ。でもその気持ちはとても嬉しいです。ありがとうございますね。ルクレツィア様」
ルクレツィアはその言葉を聞き嬉しそうに言った。
「魔力の訓練にも付き合ってもらってますし、これは日頃の感謝も含めてますから。今の私があるのはイアス様のお陰です。本当に友達になってくれてありがとうございます。」
少し照れた様にルクレツィアが言うと、イアスも照れたのか首を傾けて頭を掻いた。
「こちらこそ、ルクレツィア様と友達になれた事は純粋に嬉しいです。」
その言葉にルクレツィアは笑みを漏らした。
「フフッ。私も嬉しいです。あ、そうそう。これは聖女の祈りが込められた特製クッキーです。」
ルクレツィアはそう言って、バスケットからクッキーの袋を取り出すと、イアスに差し出した。
それを聞いたイアスは驚いてその袋を見詰めた。
「そんな貴重な物を……私がいただいてもいいんですか?」
「もちろんです。もう既に助けていただいた方々にはお配りしました。あとはイアス様だけなので遠慮なく受け取ってください。」
ルクレツィアがそう答えると、イアスは嬉しそうにその袋を受け取った。
「ありがとうございます。ルクレツィア様。」
その表情を見たルクレツィアは、喜んで貰えた事が何より嬉しく感じた。
やっぱりイアス様といると心が穏やかになれて落ち着くなぁ……。
この空間は本当に癒やされる。
そんな和やかな空気の中、2人は談笑しながら昼食を取った。
そして昼食を食べ終え、2人がお茶を飲みながら一息ついていると、徐ろにルクレツィアが口を開いた。
「あの……イアス様?」
「はい。なんでしょう。」
イアスが首を傾げてルクレツィアを見る。
ルクレツィアはバスケットから細長い小箱を取り出すと、イアスに両手で差し出した。
「これは今までの感謝の気持ちです。受け取ってください。」
イアスがルクレツィアの手から受け取ると尋ねた。
「……開けてもいいですか?」
「もちろん。」
ルクレツィアが返事をすると、イアスが箱の蓋を開いた。
すると箱の中に白銀に輝くペンが入っていた。
そのペンは青いラインが入っていて光の角度によって虹色に輝いている。
「これは……。こんな高価なもの……」
思わずイアスが呟くと、ルクレツィアが言った。
「お願いです。受け取ってください。私の想いを少しでも形にしたかったんです。あなたには本当にいつも救われているばかりで、何も返せない事がつらいと感じるくらいなので……」
だがイアスが首を横に振った。
「そんな事ありません。私もあなたに救われています。あなたに支えられているんです。あなたの笑顔や生き方に……」
そして口を強く引き結ぶと切ない顔を浮かべ、ルクレツィアを真っ直ぐに見詰めた。
その表情にルクレツィアは戸惑いを覚える。
何か……思い詰めている。
そう感じたルクレツィアは、気になっていた事を黙っていられず、決意するとイアスを見据えて言った。
「最近……何か悩んでいませんか?」
その言葉にイアスの目が見開いた。
イアスの様子を見てルクレツィアは慌てて言った。
「あの、無理にはお聞きしようとは思ってないです。ただ思えば私ばかりが相談していて助けてもらっていました。それがどれだけ私の支えになってくれた事か。だから私もイアス様の力になりたいです。頼りないかもしれませんが、こんな私でもイアス様のために何か出来れば嬉しいです。でも無理に聞きたいとは思いません。なので、もし少しでもイアス様の心が軽くなれると思うなら、私に遠慮なく何でも言ってくださいね。」
ルクレツィアは訴える様にイアスを強い瞳で見詰めた。
イアスは顔を赤らめた。
「ルクレツィア……様……」
不意に名前を呼ばれ、それに答える様にルクレツィアは優しく微笑むと言った。
「ルクレツィアと呼んで欲しいです。」
イアスは驚いた顔で何度か目を瞬かせる。
「私も……イアスとお呼びしてもいいですか?」
少し顔を赤らめたルクレツィアは、恥ずかしそうにイアスを見上げた。
イアスは硬直した様に動かなくなってしまった。
目を見開いたまま、ただ黙ってルクレツィアを見詰めている。
動かなくなってしまったイアスをルクレツィアは不思議そうに首を傾げて、その顔を覗き込んだ。
「イ……イアス?」
すると、そう呼び掛けられたイアスが突然、両手を伸ばしてルクレツィアを抱き締めた。
「っ!?」
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