第13話
【×日、午前10時5分ごろ、新富町のWホテルの客室で、
……出版社の社長? 純香は嫌な予感がして、すぐに柴田の会社に電話をした。事務員の対応から、騒然とした社内の様子が
柴田は、別れたと言っていた真結美と会っていたのだ。柴田に裏切られたという思いと、真結美に対するジェラシーとが混ざり合った汚泥のようなものが、白いドレスに付着した。純香はそんな心境だった。
だが、真結美を殺したのは柴田では無い。純香はそう、確信した。それは、話の内容にあった。仮に殺したとしたら、「詳しいことは後で話すから」とか「今夜行くから」とは言わないはずだ。それに美音のことに関してもそうだ。自分が逮捕されることが分かっているなら、「美音のことを頼む」必ずそう言うはずだ。
そして、電話の様子からは、何か深い事情は汲み取れたが、動揺や
富山△署では、柴田が取り調べられていた。
「――あんたと被害者が一緒やったのは、フロントが確認しとるがやちゃ。殺したんはあんたでないがけ」
脂ぎった
「……確かに一緒に部屋に入りました。しかし、私が部屋を出た九時半には、まだ生きていた」
柴田は困惑の色を隠せなかった。
「十時五分に発見された時、被害者はもう死んどったがやちゃ。あんたが部屋を出たんが、九時半なら、その三十五分の間に誰か他の人間が殺したって言うがけ」
「……そうしか考えられません」
「そんなに都合よう、別の人間が殺せるもんかね」
「……」
「被害者とはいつからの関係やちゃ」
「……一年ぐらい前からです。でも、一ヶ月以上前に別れました」
「別れた女とよりを戻したがか」
「いいえ。昨日の夕方、五時前に突然電話が来て。会ってくれなければ死ぬと言われて、彼女の言う通りにしました」
「そしてまた関係を持ったがか」
「……いえ。なだめながら拒みました」
「ほう、拒んだ。若い女の裸を目の前にして、拒んだがか」
「……」
「柴田さん。そもそも、容疑者をあんたにしたのは、どうしてやと思う」
「……さぁ」
「△日、あんた、他の女とあのホテルに入っとるやろ」
「……!」
「フロントがよう覚えとったがやちゃ 。二十七、八の美人と入ったがを。そん時、あんたが持っとった茶封筒に、〈ドリーム出版〉とあったがを」
「……」
「その女が新しい彼女やけ」
「……」
「それで邪魔になって、殺したがか」
「……私は殺してません」
柴田は落ち着いて答えると、ゆっくりと刑事を視た。――
柴田の身の潔白をどう証明すればいいのだ。純香はそのことばかりを考えていた。夕食が出来上がる頃、電話で美音を呼んだ。元気がない美音をいつもの明るい美音にしてやりたかった。――
「お父さん、なんて?」
「急用で電話できんでかんにて留守電に入っとった」
寂しそうな顔をしながらも、旨そうにハンバーグを頬張っていた。
「そう。……で、言い忘れたんだけど、もう少し時間がかかるって。東京に行ってるみたい」
柴田が自宅の留守電に伝言を残したのは、私に電話をしてすぐだろう。柴田が警察にいることは美音は知らないはずだ。だから、
「二人で待ってようね」
「うん」
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