第8話
「美音ちゃんが心配するわ。帰りましょう」
「大丈夫さ。死んだ母から料理を教わってるから。結構、料理作れるんだよ。何か作って食べてるだろ」
「同じ過ちは繰り返さないって言ったじゃない。今」
純香が睨んだ。柴田は苦笑すると、
「はいはい。帰りましょ」
と、
電車の中で横に座っていた柴田は、向かいの席に人が居ないのをいいことに、純香の手を握った。
「娘に会ってくれるだろ?」
酒の匂いをプンプンさせながら、純香の耳元に
「……ええ」
酒屋の角を右に行く柴田を見送って帰宅すると、シャワーを浴びた。
翌日、洗濯をしていると電話が鳴った。電話番号を知っているのは柴田だけだ。
「はい」
ところが、相手はうんともすんとも言わなかった。
「もしもし?」
「泥棒猫!」
若い女の声だった。
「はあ?」
「お前の過去を暴いてやる!」
そう言って電話は切れた。純香は受話器を持ったままで
純香は
でも、どうしてあの女は私の過去に疑惑を抱いたのだろう。単なる
夕食を作っていると、恋人気取りで柴田がやって来た。
「……後で来ていい?」
遠慮がちな物腰だった。
「……ええ。夕食はいつもどうしてるの?」
「早く帰った時は俺が作るけど、じゃない時は娘が作ってる」
「今、大根を煮てるの。良かったら持ってって」
「助かるよ」
「寒いから中で待ってて」
「はーい」
柴田は浮かれ調子で返事をしながら、急いでドアを閉めると、ダイニングのテーブルに着いた。
「綺麗にしてるね」
感心しながら見回していた。
「掃除したばかりだからよ」
菜箸を動かしながら横顔を向けた。柴田がライターの音をさせたので、適当な小皿をテーブルに置いた。
「はい」
「あ、悪いね」
花柄の小皿に煙草を置いた柴田がニコッとした。純香は例の電話の件は喋るまいと思った。打ち明ければ、余計な憶測を柴田に植え付けることになる。どっちにしても得にはならない。
いか大根と、いんげんのごま和えをタッパーに入れると、
「美音ちゃんになんて言うの?」
と聞きながらビニール袋を広げた。
「のんべえからのみやげにするさ」
「そうね。毎日でもいいわよ。多めに作っとくから」
「ホントに? 恩に着ます」
柴田は嬉しそうな顔をした。
「早く帰って、美音ちゃんと一緒に食事して」
「ああ。サンキュー。じゃ、後で」
「ええ」
……私は何をしてるの? 母の
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